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続編執筆の意義

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「いかなる理由というが、命に係わるようなことであれば、それでも見て見ぬふりをしていいというのか?」
 というものである。
 確か、ひき逃げという犯罪は、業務上過失致死か、致傷のどちらかと、被害者を放置してはいけないという、負傷者や死体に対しての責任に対しての義務違反、さらに、警察にや病院に届けなければいけないという報告義務違反の三つで争われるという。
 けが人や死体を放置することは許されない。特に生きている人間であれば、救護義務が発生するはずだ。
 人が中で呻いていたり、苦しんでいるのが分かっているのに、
「女子トイレだから、いかなる理由がると言えども」
 という理由で放置してはいけないだろう。
 ただ、これも道義上の問題で、もし、苦しんでいるような声であったり、呻いていたとしても、実際には助けを求めているわけではなく、それを気付かずに押し入ってしまえば、相手がもし、
「助けてほしいなんて言っていない」
 と言って、不法侵入で訴えてくればどうなるのだろう?
 これは冤罪などという問題に抵触してくるのではないだろうか。
 そんな状態で、男女が言い争っているならば、これほど他人事で見れば、滑稽なことはない。
 しかし、誰もが陥りそうな問題であり、ちょっとでも相手を思いやる気持ちが少しでもあれば、歩み寄ることもできるだろうが、こうなったら、売り言葉に買い言葉、中に立った警察官もやりきれないと思うことであろう。
 ただ、これは難しい問題だ。
 男の方とすれば、
「あんな声を出されたら、中で人が殺されそうになっているかも知れないと思って飛び込むのも当然じゃないか。あなたこそ、あんな声を出して、他の人を誘発している確信犯じゃないか?」
 と言いたくなるだろう。
 女の方とすれば、
「何言ってるのよ、勝手に勘違いしたのはあなたでしょう? 私は助けてほしいとも何とも言ってなかったのよ。歌を歌っていただけなの」
 本当に歌を歌っていたのかどうか分かったものではないが、そう言われてしまうと、どちらにも決め手となる証拠はない。防犯カメラが表から構えていたとしても、声が入っているわけではないので、状況は映像でしか分からない。
 映像だけで見ると、明らかに男性の不法侵入と取られても仕方がないが、男の方の形相はただごとではない。それを言ったとしても、女性からすれば、
「狂気のような顔をして、男性が侵入してきた」
 というだろう。
 本人はそんなことはないのに、恐怖を感じてくる。あくまでも女性の言葉は強いものであった。
 その時男は思い出すだろう。
「痴漢による冤罪もこんな感じだよな」
 そう思うと、痴漢で濡れ衣を着せられた男はどうなるか、いくら言い訳をしても、もうどうにもならない。
 女の方としても、話が大きくなってしまって、
―ーひょっとすると、本当は違うかも知れない――
 と思っても、まわりが、すでに男を犯人として決めつけているので、違うかもしれないなどというと、
「あなたが、間違いないって言ったじゃない」
 とばかりに、今度は矛先がこちらに向いてしまう。
 痴漢に遭って被害者であると思っている女性とすれば、ここで余計なことを言って、自分がまわりを敵に回すと、本末転倒になってしまう。そうなると、
――本当の犯人は分からないけど、この人に犯人になってもらうしか仕方がないわね――
 としか思わないだろう。
 そうなると、もう男がいくら何を言ってもダメである。男は後悔するだろう。
「このオンナの近くに行った自分が悪いんだ」
 と思うに違いない。
 他の場所にいたとしても、冤罪を受ける可能性はないとは言えないが、そう思うと、満員電車に乗ってしまったこと自体がすべてだと思うだろう。
 公衆便所でも同じだ、
「女を助けてやろうなんて思わなければこんなことにはならなかったはずだ」
 と思う。
 考えてみれば、女子トイレなんだから、
「いかなる理由があっても」
 といういかなる理由を盾にして、見捨てればいいだけのことだ。
 そう考えると、昨日の男女のシチュエーションも、
「いかなる理由に引っ掛けることができないか」
 と考えたのだ。

                 「自殺」考

 こういう発想を小説にすると面白いのではないかと坂崎は考えた。
 人が殺されるのが分かっているが、それを目撃したとしても、自分に助ける自信がない。しかも殺害場所が女子トイレ、
「いかなる理由」
 を盾にすれば、助けることができなかったとしても、それは許される。
 自分さえよければそれでいいという身勝手な人間の話だが、これは基本的に誰もが抱いている感覚ではないだろうか。
 逆にそこまで考えると、女子トイレの中でなら、人が殺されそうになっていても、表にいる人間が男だけであれば、誰も助けることができないという発想である。
 だが、それだけでは小説の発想としては、まだまだ甘い。
 そんなことを考えながら、朝食を食べていた。
 この日は久しぶりに新聞を読んだ。毎日朝この店に来てはいるが、、新聞を毎日見るということはしない。
「小説家で、情報に飢えているのだったら、新聞くらい毎日読まないと」
 などという人がいるが、小説のネタくらいなら、新聞よりも週刊誌の方がいろいろ書かれていて面白い。
 新聞にはコラムや情報欄、地元欄などがあるが、基本的には事実しか書かれていない。個人的な意見や。読者の目を引く面白い話が書かれているわけではない。中には事実ではない、週刊誌を売りたいがためのゴシップもあるだろうが、小説のネタの情報としてはそっちの方が面白い。
「そもそも、新聞を読まなければいけないという必然性がどこにあるというのだ。そんな時間があれば、他にすることがあるような気がする」
 と思っていたので、新聞を毎日読むようなことはしない。
 その日は、ちょうど新聞を読んでみたい日に当たった。見ると言っても、そのほとんどが斜め読みで、一面に書かれているような記事や、政府がどうの、経済がどうのなど、まったく興味がない。それよりも、地元記事や社会面などの下の方にちょろっと載っているような記事に意外と興味を引くようなものがあるものだ。
 その日の新聞をゆっくり読んでいると、
「あったあった。これなんか面白いよな」
 という記事が見つかった。
 見出しには、
「トイレで女性が自殺」
 と書かれていた。
 昨日の朝、駅の構内にある公衆トイレから、女性の自殺死体が発見されたという内容だったが、場所は多目的トイレで、夜の十時すぎくらいまでは普通に使われていたという。早朝になっても多目的トイレが電子ロックにて施錠されたままだったので、清掃員が不審に思い、電子ロックを解除し開けてもらうと、そこに女性の自殺死体があったという。
作品名:続編執筆の意義 作家名:森本晃次