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続編執筆の意義

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「まさか、見てあげたことに感謝してくれているのか?」
 彼女はトイレという密室の中で、他の男に抱かれながら、ひょっとすると、自分たちを見ていた坂崎の様子を知っていて、わざと見せつけていたのかも知れない。興奮しながらも、妙に冷静だったのは、そんな彼女の思いを計り知ることができたからなのかも知れない。
 女は男のように、逃げていくことはなかった。どうして男が最初に出てきたのか、少し考えてみた。その後で女が出てきたので、その考えは違っているのは明白だったのだが、何かが起こって、女を不可抗力で殺してしまった。その発覚を恐れて、臆病なその男は死体を放置して逃げ出したという考えだった。
「これは面白いかな?」
 と思ったが、これだけではどうにも陳腐な作品でしかない。
 何か、膨らませる発想が必要である。
 男は、トイレに入るまでは、自分が主導権を握っていて。女は自分の言いなりになっているかのように感じていたことだろう。
 しかし、女の方は、男に最初花を持たせて、中に入ると徐々に自分の本性を表し、オンナとしてすべての武器で男を魅了しようとしている。
 男の方は、まるで催眠術にでもかかったかのように従順で、オンナに絶対服従を感じていた。
 きっと女には、男を惑わす淫靡な香りがしみついていて。トイレの中という密室の中で、漂ってくる尾籠な臭いとマッチして、男の感情を狂わせるだけの力となっていたのかも知れない。
 そうなるとすでに男は女の言いなりだった。
 そこでどんなことが繰り広げられているのかというのを誰も知らないのをいいことに、女はさらに大胆に男を我が物にする。
 女が、Sなのか、Mなのかははっきりとは分からない。そのどちらかであるというのは一目瞭然、いや、両刀なのかも知れない。だが、この短い時間では、その両方を行うのは不可能だ。きっとどちらかを演じたのだろう、
 女は男の身体によって十分な快感を得られると、それまで掛けていた催眠を解いた。すると、男は我に返り、本来なら自分が蹂躙するはずの相手から蹂躙されていて、しかも自分が追い詰めたはずの女から形勢逆転させられてしまったことに恐怖を感じた。急いで表に飛び出したとしても、それは無理もないことだろう。逃げるように去っていき、まわりのことを気にはしていたが、まったく意識に入ってこないほどパニックになっていたということだろう。
 女の方は十分に満足し、満腹状態で出てきた。もういまさら他の男に食指を動かす気にはならなかったが、望み通り自分を見ている男がいるのを感じ、またしても、さっきまでとは別の快感を得ることができ、あの厭らしい笑顔になったのだろう。
 そんなことを感じていたというのを翌日目が覚めた時に感じたのだ。この感覚が、
「夢なのでは?」
 と思ったとしても不思議ではない。
 これを元に小説のネタを考えてみることにした。ただ、これほど淫靡なイメージが主題ではない。この状況を別の角度から見てみるというのが、発想であった。
 昨日のことを思い出しながら、今日もいつもの喫茶店で、モーニングを食べていた。今までなら、いつも同じものばかりで飽きるような気持ちがあったが、ここのモーニングは料理がいつも細かく違っていた。タマゴ料理にしても、目玉焼きであったり、ゆでたまごであったり、スクラブるエッグであったりとバリエーションが豊かだ。またに卵焼きの紐あり、そんな日はみそ汁とご飯がついてくる。別注文になるが、生卵を掛ければ、タマゴかけご飯にもなるのだ。
 実は、基本的にはそれぞれが別メニューなのだが、常連さんで毎日来ている人には献立を自由に選べるサービスにもなっていて、毎日違うメニューにする場合もあれば、二、三日単位で交代させるという人もいる。どうせ、それぞれ別メニューで作らなければいけないのであれば、手間は同じだ。逆に献立性にしていれば、確実に出る分が分かるだけに、店側もありがたい。常連でもっている店は、本当に常連のことを考えている。だからこそ常連は離れないのだ。
 今日は、目玉焼きの日だった。二つのタマゴを本当の目玉のようにして、ベーコンをつけてくれている。黄身は固くしないで、白身部分は固くするというリクエストに応えてくれているのもありがたい。ベーコンもカリカリにしないで、やわらかい状態で出してくれるだ。
 サラダにはサウザンドレッシング、目玉焼きにはケチャップでも醤油でもなく、ソースを使う。ナイフとフォークを使って洋風仕立てなのだから、しょうゆやケチャップではなくウスターソースなのだ。
 いつもカウンターの一番奥が坂崎の指定席、朝は特に常連が多いので、皆決まった指定席に座る。カウンターも半分くらいは埋まるが、テーブル席もほぼ埋まる時間帯もあるくらいだ。近くに大学があるので、大学生も長所を食べにやってくる。午前八時くらいは一番多いかも知れない。
 その日の坂崎は、いつもよりゆっくりだった。九時過ぎくらいに店に入ると、サラリーマンの常連はほとんどいない。学生が数人いるくらいで、こっちの方がある意味集中できるというものだ。
 早めに来る時は、常連と話をして、その常連から情報を貰うようにしている。一般のニュースソースだったり、流行りの話であったり。どこに小説のネタが潜んでいるか分からないという意味で、常連仲間とはよく話をすることにしていた。
 常連は自分よりも年上が結構多い。近くに商店街があり、商店街で店を営んでいる人がよく利用しているのだ。店もまるで昭和を思わせる佇まいで、近くの商店街もまだ昭和の色を残している。
 ただ、どうしても郊外にできた大型スーパーの煽りを受け、十数年くらい前から、商店街は景気が良くはない。昼間でも店が閉まっていた李、いつの間にか店が変わっていたりと、なかなか不景気を拭い去ることはできない。
 売れない小説家がタムロする店としては、それもしょうがないだろう。そう思うと情報交換も無駄ではないというところを見せたいといつも思っていた。
 その日はさすがに九時を過ぎているので、店は開店の準備で忙しい。店主はすでに店に戻っていた。
 いつもの指定席も開いていたので、ゆっくりとアイデアを練ることができる。
「昨日のあのカップルは何だったんだろう?」
 二人がコソコソしながらトイレに入った時は、怪しい雰囲気がムンムンだった。淫靡な臭いがしてきそうで、しかもトイレでするなどという不潔極まりない状況に、却って興奮させられた。女の方が先に入って、男を迎え入れるという感じだったので、誘ったのは明らかにオンナだった。
 ラブホテルを使わなかったのは、それまで我慢できないという思いと、それだけの淫乱女であれば、見られたいという願望もあったに違いない。その両方の欲を満たすには、公園に設置されている多目的トイレというのは実に重宝なものではないだろうか。
 男女兼用になっているし、入る時に見つかりさえしなければ、緊急を要することでもなければ他人が入り込むことはできない。
 そういえば、公園の女子トイレの前に貼られている警告を見たことがあった。
「いかなる理由があれ、女子トイレに入ることは法律で禁じられています」
 と書かれていた。
 それを見た時、最初に感じたのは、
作品名:続編執筆の意義 作家名:森本晃次