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続編執筆の意義

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 坂崎が専属契約したことで中途半端な状態になってしまった一時期、サークルも中途半端な状態になってしまい、
「解散もやむなし」
 ということになったが、それを引き留めたのが典子だった。
 典子は、
「せっかく、機関誌の時だけの会員がいるんだから、もっとその人たちを募集して、発行部数を稼ぐことで、機関誌発行サークルとして存続できるんじゃありませんか? 皆さんだって機関誌を中心に活動してた抱ければ、これからはお忙しくなられても、部活への参加もできるんじゃありません? それに部活を続けていることで、ストレスの解消にも繋がると思えませんか?」
 と言ってまわりを説得した。
 まわりは、
「典子さんがそこまでいうなら」
 ということで、サークルの存続が決まり、さらに新入生が入ってくると、彼らが今度は運営をしてくれるということになり、今度は典子が中心になってサークルを盛り上げていくようになった。
 完全に二年前までのサークルとは違うサークルになっていたが、、やっていることは過去のいい部分をしっかり踏襲して運営された。
「やっぱり、最初からしっかりしていたから、危機を乗り越えられたんだと思いますわね」
 と言って、典子は心底喜んでいた。
 そんな典子の相談相手でもあり、典子も彼の相談相手として典子と坂崎は、
「近い将来結婚するんじゃないか?」
 と言われていたが、お互いに気持ちだけの関係であり、相談相手としてはいい関係であっても、結婚するとなるとどうなのか、自分たちにもよく分かっていなかった。
 そのうちに、相談事が多いのが坂崎になってしまい、どちらかというと相談というよりも、愚痴を聞いてもらうことが多くなった。
「相談してもどうにもならない」
 というリアルな問題が増えてきて、それが愚痴になってしまった。
 実際に坂崎の話を、相談とは思えなくなっていた典子であったが、愚痴であっても、聞いてあげることに意識のない遠慮から、坂崎は居心地がいい感じを楽しんでもいた。
 デビューした頃こそ、さすがに舞いあがった気分になっていた坂崎だったが、さすがに今はあの時のような有頂天ではない。そこまで自分を愚かだとは思っていないし、あの時だって、
――そんなに人生うまく行くわけはない――
 と、感じていたのは事実だった。
 それは自分に対しての気を引き締めるためお戒めでもあり、ただ単に不安が襲ってきたからであった。ただ、それは自分の中で、
――万が一、自分の勘違いであれば――
 という気持ちだったというのも、ウソではない。
 ダメで元々と思っていた新人賞に入賞したのだから、有頂天になってもそれは仕方のないことだろう。
 確かに、うまく行くわけはないと思っていたが、ここまで絵に描いたような小説家を自分で演じることになるとは、もはや思わなかった。
――相手だって、プロなんだ――
 と、審査員の人たちが伊達や酔狂で選んだわけではないとは思う。
 しかし、実際には、毎年いろいろな雑誌社で、いくつもの新人賞や文学賞が選ばれている。年間にして何人ほどの作家がデビューするかを考え、生き残れる人間の数を考えれば分かりそうなものだ。アマチュア作家だって、さらにプロになりたいと思っている人、その中から新人賞に応募してくる人だから、限られていることだろう。
「年間で、持ち回りにしたって、何年か語には自分に回ってくるんじゃないか?」
 などと冗談が出るくらい、新人賞の数は多いのではないかっと思うくらいだ。
 だから、新人賞の受賞は、あくまでもスタートラインに立ったというだけで、パチンコでいえば、
「ただ、大当たりを引いた」
 というだけで、その後はもう一度も当たらないのか、あるいは、信じられないような大連荘を巻き起こすのかは、誰にも分からない。
 ただ、その可能性はどちらにもあるわけだが、確率から考えると、パチンコほど当たるとは思えない。そういう意味で、
「新人賞の受賞を目指してまで、小説家のプロにはなりたくない」
 と思っている人もいるかも知れない。
 だが、坂崎はプロになってしまった。
 いまさら後悔しても遅いのだが、これはスポーツ選手にも言えることで、プロを目指して、中学時代に優秀な成績を残し、高校はスポーツ推薦などで特待生扱いで入っても、そこで落ちていく人がどれほどいるというのか。中学レベルではたとえ県大会でナンバーワンになったとしても、全国からトップレベルが扱ってくる中では、そのレベルはたかが知れているのかも知れない。
 ついていけずに退部すると、今までスポーツでちやほやされていた分、もう誰も相手にしてくれない。そうなると、グレるしかないという、絵に描いたような転落人生だ。また同じことは不可抗力によるけがなどをしても同じことだ。どんな理由があるにせよ、使えなくなった部員は見捨てられていくだけである。下手をすれば、優待性とする条件にも、いかなる理由や怪我であっても、退部した場合は、学費の免除はないなどと書かれているかも知れない。
 一種の詐欺まがいだが、まるで戦争中などで、捕虜にされて雪道を行進する中で、
「倒れたものは、その場に捨てていく」
 と言われ、実際に倒れた人間を誰も助けないという光景を映画などで見て、そのシーンが瞼によみがえってくるようなイメージである、
 要するに、どの世界であっても、こういうことはありえるということだ、世の中ん競争というもの、そして競争によって発展するという理論がある以上、この世から競争がなくなったりはしない。
「勝つ者があれば、負ける者がる」
 そこには、勝者の美学、敗者の美学が存在している。
 だが、実際に美学などは存在しない。人間に競争心がある以上、敗れた者に対しての蔑みが消えることはないのだ。それを見て、満悦する気分になる人間もいるだろう。考えただけでもおぞましいものだ。
 プロになってしまったことをいまさら後悔しても遅い。何とか前を見ていくしかなかった。
 ウソでもいいから、ヒットする作品を書かなければいけない。もちろん、その後のことを考えるとまた怖くなるが、まずは一歩でも先に行くしかない。
 今の作風では、ヒットは望めないという。
「あなたの作品は面白くないんですよ」
 と、編集者は平気で悪口を口にする。
 どこが悪いのかを指摘してくれるのが編集者なのだろうが、それにも値しないとでも言いたいのか。それ以上顔を合わせるのは時間の無駄だとばかりに、露骨に嫌な顔をする。
「せっかくお時間を作っていただきましたが、残念です。また出直してきます」
 としか言いようがなかった。
 皮肉を言ったつもりだが、皮肉にもなっていないのは、それだけ意気消沈しているからであろう。
 そんな毎日を送っていると、さすがに気が滅入ってくるのだった。

             公衆女子トイレ

 そんな時に、慰めてくれるのが典子だった。
 それ以外のまわりの人は、まるで腫れ物に触るかのように接してくるが、本当は触りたくないのが本音である。しかし、視線の先にうずくまった人がいて、それを無視していくなどという無神経なことをしては、まわりから何と思われるか分からないので、とりあえず触れるくらいのことはしてくれる。
作品名:続編執筆の意義 作家名:森本晃次