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続編執筆の意義

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 いきなり何の反応もせずに動かなくなったのであれば、それも分からなくもないが、少しでも動いている相手から服を剥ぐというのは、非常に厄介な作業だし、時間もかかることだろう。医者を呼ぶにしても一刻を争う、そこに電話もできない状況があったのだとすれば、余計に手間がかかることは避けようと思うに違いない。
――二人とも裸だったのだと考えられないだろうか?
 そう考える方が幾分かスッキリする。
 それでは二人は全裸になるようなプレイに勤しんでいたということになるのだが、それはあまりにも想像に値しないほどの妄想である。考えたくもない。いわゆる
「おぞましい」
 と言われる部分の妄想であった。
 しかし、そう考えなければ辻褄が合わない気がした。
 それに、この二人の今回の手際の良さ、これは何だというのだ。女は狼狽ぶりのわりには、とこrどころ妙に冷静で、気持ち悪いくらいだ。
「初めての行動にはとても思えない」
 と感じた。
 医者の方も、いきなり連れてこられてトイレで倒れている男を見せられたわりには落ち着いている。
――この男、本当に医者なのか?
 とも思えるほど、怪しげな雰囲気を醸し出している。
 自分から見て、この医者と呼ばれる男の方が、よほど、ここで死んでいる男に比べると、この女の性癖を満たしてやれるような、変態に思えてくるくらいだった。
 医者というよりも変質者、いや、
「医者という名の変質者」
 なのかも知れない。
 ある意味、医者というものほど変質的な職業はないのではないかと自分は思っている。
 小説家が勝手に作り出すのがイリュージョンなら、医者というものは、医学的、科学的に女体や淫靡な世界を分析し、リアルな妄想を作り出すことができる数少ない職種ではないだろうか。
 この医者も、ひょっとすると、この女の趣味の一環として付き合いがある人間であり、決して表に出てくるべきではないと思えた。
 確かに、表も医者なのかも知れないが。善人のような顔をして病人を直す医者であるにも関わらず、裏では淫靡や猟奇を主食にした、決して表に出せない主悪の根源だったりするのかも知れない。それこそ、
「ジキル博士とハイド氏」
 のようではないか。
 一人の人間の中に、二つの人格、しかも正反対の人格が存在するといういかにもオカルトっぽい話であるが、実際には誰もが持っている感情であり、理性というものがそれを抑えているだけだというもので、何も今に始まったことでもなく、改まって問題にすることでもないという異常性格者は、この女の中では、
「普通の人間」
 としての意識しかないのかも知れない。
 それこそ、
「どっちもどっちだ」
 と言えるのではないだろうか。
 ここで死んでいる男がこの二人にどこまで絡んでいたのかは分からないが、少なくともこの女と医者は、一心同体であり、一蓮托生の運命にあることに間違いはないだろう。
 こんな悪魔のような男女、そして犠牲になったこの男、どのような運命が待っていようというのか、
 ただ少なくとも一つ言えることは、この女と言えども、真からの悪党ではないということだった。ある瞬間にスイッチが入ると、稀代の大悪党に変わってしまうこの女だったが、スイッチが入らなければ、普通のか弱い女と変わりはない。だからこそ、あれだけの狼狽があったのだ。冷静さを見せつけられた後なので、この女の狼狽が却って違和感を抱かせるが、本来なら、あちらの方が普通なのだ。それを忘れさせるくらいの子の女の醜態には、この悪党を絵に描いた医者ですら、たまに分からなくなることがあるくらいで、この女は存在自体という意味で、男を惑わし、おかしな感覚に陥れ、下手をすれば、悪魔を作り出すこともありえるというそんな存在なのかも知れない。
 医者には、何か思惑があるようだった。この男は今まで、どうやらこの女の欲望を満たすうえでの道具にされていただけのような疑念を抱き始めていたようだ、
 実はこの女には彼のような取り巻きがたくさんいた。しかも、それはこの女が自分で望んだことというよりも、
「勝手に男の方で寄ってきた」
 と思っていることだろう。
 しかし、男の方では決してそんなことはないと思っている、我に返ると自分がどうしてこんな女に傾いてしまったのか疑問で仕方がないのだろうが、少なくともその時は真剣だったのは間違いない。
 この女には男を無意識に引き付ける力があるのだ。それを自分の妖術であるかのように思っているのが、この女のしたたかなところで、男にとってたまったものではないというのは実にこのことであろう。
 しかし、女も男のまるで催眠術に掛かったかのように、一緒にいる時は、
「これが自然なんだ」
 とお互いに感じていることだろう。
 そういう意味では死んだこの男も、実際には自分が死んだということをいまだに分かっていないかも知れない。三途の川の手前にある死後の世界への導き宿のようなところに行って、初めて自分が死んだということを聞かされるが、それも俄かには信じがたいものであろう。
 医者も最初はそうだった。普段の自分ならこんな女に操られることはないと思っていたことだろう。それに、
「この女は自分だけを愛している」
 ということを信じて疑わなかった。
 それは、医者だけに限らず、ここに死んでいる男も同じことを考えたに違いない。しかし、今回の事件でそれまでの定説が崩れ去った。この医者が我に返ったのだ。
 どうして我に返ったのかって? それは実に簡単な理屈だった。ちょっと考えればこの女暗いしたたかであれば分かりそうなものだが、分からなかったことがこの女の不幸でもある。
 要するに、
「この女の取り巻きの男が、他の取り巻きに会うことはタブーだったはずだ」
 ということである。
 いくら死体になってしまったとはいえ、ここに死んでいる男は自分が今までに、
「いない」
 と信じていた、自分とは別人の取り巻きであった。
 そう考えると、この女が医者に電話で連絡しなかった理由も分からなくもない。この女にしてみれば、自分から取り巻きを教えるかのように、電話で連絡をしてしまうと、まずいと思ったのだ。呼びに行くことで。少しでもこの男が取り巻きではないという意識を医者に与えたかったのだろう。
 だが、そんなことは不可能だったのだ。医者だっていくらこの女に参っているからと言って、バカではないのだ。それを思うと、この女にとって、この男を医者に診せたことが破滅への第一歩だったのだ。
 だからと言って、見捨てるわけにはいかない。この女の運命はここで終わっていたと言ってもいいだろう。
 いくらもがいてみてもどうすることもできない。そんな状況にオンナは自ら飛び込んだ。しかも、相手が悪かった。他の男性であればよかったとは言い難いが、少なくともこの医者はまずかった。
 この男が目覚めてしまったことで、本来持っているこの男のしたたかさや悪どさは、この女の比ではなかったに違いない。
 この医者の過去に何があったかは分からないが、医者という商売で怪しげな男ともなると、何があったとしても不思議には思えないからおかしなものだ。
作品名:続編執筆の意義 作家名:森本晃次