小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

続編執筆の意義

INDEX|17ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 その男の顔をよく見ると、それは自分ではないか?
 暗くてハッキリとは見えないし、一回りは自分よりも大きいと最初は感じたが、よく考えてみると、月明かりと街灯の明かりだけでは、少々大きく見えるという錯覚も許容は言いとは言えないだろうか。
 それを思うと、自分が自分を見ているというおかしな気分に惑わされているのを感じさせられた。
「パラドックス?」
 と思ったが、目の前にいるのが自分だとすれば、今こうやって考えているのが自分ではないと思えるのは、さっきの路傍の石の感覚があったからだ。
 そう思うと、今見ていること自体が、夢なのかも知れない。
 夢を見ているという感覚を夢の中で感じるというのは、実に稀なことだが、なかったわけでもない。
 しかし、その時はすぐに目が覚めた気がする。
――ということは、すぐに目が覚めるのか?
 と思った。
 だが、目が覚めるという感覚はなかった。以前に感じた時は、目が覚めるのが分かった気がする。もしこれが夢であるとしても、あの時は別の種類の夢と言えるのではないだろうか。
 男は自分に気付かないまま、そそくさとトイレを後にした、その後から一緒に入った女性が出てくるものだと思っていたが、そうではないようだ。シーンと静まり返った扉からは何の気配も感じられず、中に人がいることさえ違和感を覚えるくらいだった。
「確かに女がいるはずなんだが」
 いかにも我慢ができないと言わんばかりに、躊躇する男の手を引っ張って中に引き入れた女、一瞬でも、
「羨ましい」
 と思った自分は、きっと正常なのだろう。
 確かに冷静に考えれば怖いシチュエーションではあるが、男としては、オンナに誘われるという感覚はまんざらでもないはずだ。
 それが正常な男の欲望であり、妄想であるならなおさらのこと。
「こんなシチュエーション、願ってもないことだ」
 とついつい自分に都合よく考えてしまう。
 何しろ誘ったのは相手なのだ。もし誰かに見つかって咎められても、
「合意の上ということで、警察も注意くらいで、おとがめなしになるのではないだろうか」
 そう思うと、
「据え膳食わぬは男の恥」
 ということで、飛びついてしまう気がする。
 そうでなければ、
「女の私に恥をかかせる気?」
 などと言われる可能性すらあるからだ。
 しかし、最悪を考えれば、決してロクなことにはならない。何しろ男女共用とはいえ、女性が入っているトイレに男性が入るというのは、
「女子が入った時点で、女子トイレと同じ扱い」
 ということになればどうだろう。
「いかなる理由があったとしても、それは警察に通報される」
 というレベルになるのだ。
 警察に通報されて、もし彼女が、
「私がトイレの使用中にこの人が強引に入ってきて、厭らしいことをした」
 と言われてしまえば、万事休す。言い訳は一切通用しないであろう。
 何しろ、女子トイレになってしまうと、どんな言い訳をしても同じだ。痴漢の冤罪どころの話ではない。そもそもの根本から、間違っているというレッテルを貼られるからである。
 トイレの中で何が行われていたのかを、正直に言ったとしても、信憑性はない。何しろ、
「不法侵入及び監禁」
 という罪状になってしまうと、女性がどんな証言をしたとしても、その信憑性は十分である。
 ある意味、
「美人局」
 よりもたちが悪い。
 もし、影から男が出てきて脅迫されたりして、相手はきっと最悪のシナリオを相手に示すに違いない。何しろ言い訳は一切通用しないように、最初から仕組まれているからだ。
「五百万、用意しろ」
 と言われても、警察に通報するわけにもいかず。泣き寝入りしかないのだろうか。
 どちらにしても身の破滅である。ダメ元で警察に通報するしかないのだろうが、門前払い、あるいは自分が罪に問われるのがオチである。
 どう転んでも人生の破滅を想像してしまうと、さっき、トイレから飛び出していった、自分に似た人の運命がほぼ確実に見えてきた。
――夢であってほしい――
 と思ったが、自分の姿を見た時点で夢でしかない。
 しかし、これが正夢でないという証拠がどこにあるだろう。こういう感覚の方がリアルで意外と当たっていたりするものだ。
 そんなことを考えていると、トイレから飛び出してきた男が、中にいるはずの女に何をしたのか、分からなくもなかった。そして、その結果が最悪ではないかと思った時、女はすでにこの世のものではないと思えて仕方がなかったのだ。
「死んでいるんだろうな」
 と思い、確認に行きたかったが、自分の身体が金縛りに遭ってしまい、動かすことができなくなっているのを、たった今気が付いた。
 最初は身体を動かすのが怖いからだと思っていたが、どうもそうではないようだった。
 身体が金縛りに遭ったように動けないのだ。そう思い、
「このまま見つめているしかないのか?」
 と思い見つめていると、やがて、先ほどの男が帰ってきた。
 すると、
「おや?」
 と感じたのだが、その男はさっきの男とは違っているように感じた。
 ただ、それを感じることができるとすれば、それは自分だけである、なぜなら最初に見た時に、その男が自分だと感じたからだ、
「いや、違う。もう一人いるではないか」
 と感じたが、これも実際にはおかしな話ではあるが、
「自分がそのうちの一人であるなら、この人も同じ理屈だ」
 と感じたのだが、その人というのは、今自分がまったくさっきと違っている人物だと感じたその人そのもののことである。そうでなければ、自分しか気付かないという理屈も成り立たないからだった。
 だが、もう一つ気になるのは、その場面にもう一人、白衣を着た人物を連れてきた。さらに先ほど飛び込んできたと思った人物だが、どうやら女性であった。医者のような人と話をしている声は明らかに女性だったからだ。男物の服を着て、帽子もかぶり、マスクもしていれば、見間違うこともあるだろう。しかし、今はそれが普通の格好になっていることから、怪しまれることもない。どうやら、女が男の服を着て、トイレを抜け出し、知り合いなのか、どこかから医者を連れてきたようだ。何とも普通ならありえないような光景が目まぐるしく目の前に繰り広げられている。これが夢でなくてなんであろうか?
 すると、さっきまで金縛りに遭っていたはずの自分の身体が急に動く始めた。しかも、それは自分の意志によるものではなく、勝手に動いているのだ。
 抜き足差し足で忍び寄り、トイレの入り口近くまでやってきて、見つからないようにと思っていると、不思議と見つからない気がするからおかしなものだった。
 中を覗き込むと、一人の男が倒れていて、全裸だった。
――それにしても、この女いい度胸している。このまま男をわずかな時間とはいえ放置していて、誰にも見つからない絶対の自信でもあったのだろうか?
 と感じたが、今の様子では、とてもそんな度胸があるとは思えない。
 医者の診察を、祈るような気持ちで見守っていた。
作品名:続編執筆の意義 作家名:森本晃次