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続編執筆の意義

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 彼と風俗にいくきっかけになったのは、入社一年目の夏のこと、偶然同じ店で顔を合わせ、最初はお互いに気まずい思いがあったが、お店を出てきてから、一緒に飲みに行ってアルコールの入った中での風俗談義で、意気投合し、
「じゃあ、今度は一緒に行こうぜ」
「ああ、望むところだよ」
 ということになり、時々一緒に繰り出すようになった。
 幸いなことに、二人の好みは違っていた。
 清楚京奈お姉さん風の女の子が好きな自分と、ギャル系の子が好きな同僚とでは、指名するにもタイプが違うおかげで被ることはなかった。その日も馴染みの店に行き、お互いに好きな女の子が開いていたので、事なきを得た、
「それにしても、今日はいいタイミングで誘ってくれたよ」
 と同僚にいうと、
「そうだろう? でも、お前を見ていると誘ってほしいような顔をしていたので、実は俺の方では今日はその気はなかったんだが、お前の顔を見ているうちに、何か変な気分になってきたのさ、それで誘ったというわけさ」
 というではないか。
「そうなんだ、確かにムズムズした気分にはなっていたけど、そんなに露骨な顔をしていたのかな?」
 というと、
「そんなことはないさ。もちろん、俺には露骨には分かったけど、他の連中に分かるようなことはない。風俗通にだけしか分からないインスピレーションのようなものさ」
 というではないか。
「そんなものなのかな?」
 と答えはしたが、それはそれでありがたいことだった。
「お客様、準備ができました」
 と言われて、自分の方が先に案内になった。
 馴染みの子は「みあちゃん」という女の子で、清楚な雰囲気だが、笑顔になるととたんに無邪気になる。そんな女の子が彼は好きだった、
 部屋に入って、最初は世間話に入った。
「お客さんは、公園の多目的トイレって使われたことありますか?」
 と聞くではないか。
「使ったことはあるけど、普通の男子トイレの個室でも十分だからね。朝などお腹の具合があまりよくない時とかに、たまに男子トイレの個室が満室の時に使うことがあるよ。意外とそういう時って空いていたりするので、いいよね」
 と言った。
「そうなんですよ。そこのトイレは男女兼用になっていて、男の人も使えるので、便利なんでしょうね。だからというわけではないんだけど、そこで結構エッチなことが起こっているというのも無理のないことのようですよ」
 とみあちゃんは言った。
「というと?」
「もちろん、ホテルとかに行けばいいんでしょうけど、時間がない時だったり、急に我慢ができなくなった時などに、簡易でできる場所としてはちょうどいいでしょう? 夜なんか、酒に酔っているとムラムラくるカップルもいるようで、たまに、床にゴムが落ちていた李することもあるけど、さすがにそれを見ると興ざめしちゃいますけどね」
 とみあちゃんは言うではないか。
「そんなものかな?」
「ええ。それでね、この間面白いのを見ちゃったんだけど、女の人が男の人を連れ込んでいるのね。男の方の人は、なるべく入りたくないという雰囲気なんだけど、結局入っちゃうの。女の子はちょっと最初は照れていたようなんだけど、いきなり大胆になったのよね。ひょっとすると、男性の何かの態度に反応したのかも知れないわ。あれは満月の日だったので、ひょっとすると、女の人がオオカミ女にでも変身したのかも知れないわね」
 と言って、笑っていた。
 みあちゃんの話はそこまでだったんだけど、その話が公園のベンチで目を覚ました自分の耳元に響いてきた気がした。時間的にはついさっきだったはずなのに、何日か前に聞いた話に思えてきて、不思議な感覚だった。
 そういえば、この公園は、今座っているベンチから見ると、距離は離れているが、面前には公衆トイレがあり、その中央に、多目的トイレがあった。
 多目的トイレへの入り口は、トイレ自体は正面を向いているくせにm横にある、まるで申し訳程度についている入り口に思えてきた。
 まだ身体にはみあちゃんの匂いが残っている気がして、その余韻もあるからか、なかなか頭が正常に戻ってこずにボーっとしている。
 そのうちに、一人の女がサラリーマン風の男を引っ張るように多目的トイレに近づいている。男は少し拒否しているようだが、次第に女にしたがっているのも分かっている。気持ちでは怖いと思っているが、身体が完全に拒否できないというところであろうか。
 二人は何か会話をしているようだが、聞こえてこない。
 別に聞こえてこなくても不思議のないほどに離れているが、自分がトイレの正面から見ているのをまったく気づいていないようだ。
――満月なのにな――
 と思って足元を見ると、足元から自分の影が伸びているのが分かった。
 その影が伸びたその先には公園の中央部分くらいまであるので、かなり低い位置からのものになるのだろう。後ろを向くと、満月がかなり低い位置にあった
「あれ?」
 と思ったのは、先ほどまで感じていた満月の位置とまったく違うところに満月を感じたからだった。
 さっきはこの位置から首を極端に曲げることなく見ることができる場所にあったはずだ。その証拠に今のように首が捻じれるような痛さではなかったからだ。
 しかし、今は首を捩じらなければ見ることのできない位置にあるということは一目瞭然で、最初に感じた満月って、
「本当に今日見たものだったのだろうか?」
 と感じたものだった。
 空を見ていると、月だけが明るく感じられるが、その明るさにまわりの星が吸収されてしまい、見えているはずのものが見えないということを感じるのだった。
 それはまるで路傍の石のようで、
「見えているのに、誰もそれを気にしない」
 というものに感じられた。
「砂漠で砂金を探すようなもの」
 という言葉を聞いたことがあるが、その言葉を聞いて、
「いやいや、その砂全部が金だって思えばいいんじゃない?」
 と言い返していたやつがいたは、皆バカにしていたが、なぜか自分はバカにできない気がしていた。
 その理由までは深く考えなかったが、今思い出しているということは、この満月で見えなくなっている星たちにその答えがあるのではないかと思えたのだ。
 そういえば、一度夢の中で、自分が路傍の石になった気がしたことがあった。まわりは誰もこちらを見ているくせに、普通に踏みつけている。誰もが見ているということは、皆意識していて、わざと踏みつけているのだ。
「これでは、隠れキリシタンを見つけるための儀式に使われていた踏み絵と逆の発想ではないか」
 と思えた。
 皆意識していてわざと踏みつける、これはひょっとして誰にでもある願望ではないかと思えた。普段は理性があるからできないが、理性の裏側では、誰かを踏みつけたいという意識があり、それが潜在的な無意識のものであるため、皆が催眠状態にあるような空間ではそんなこともありえるのではないか。
 そもそも自分が路傍の石になっているという意識自体がおかしい。それを思うと、踏みつけられるのも自らの潜在意識、Mっ気が自分にはあるという証拠であろう。
 そんなことを考えていると、トイレに連れ込まれる男性がまるで自分のように見えてくるから不思議だった。
「いや、待てよ」
作品名:続編執筆の意義 作家名:森本晃次