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短編集103(過去作品)

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 合コンで、今までに自分から抱かれてみたいと思った男は一人もいない。付き合えば付き合うほど、相手の浅はかさが見えてくるのだ。同級会に行った時、そのことをハッキリと悟った。学生時代は憧れていた人も、話をしてみると所詮大したことを話すわけではない。高校時代こそ、成績の良し悪し、スポーツができるできないなどの狭い世界での判断だったので、自分より皆が優れて見えたが、男たちから見つめられる視線を感じていることで、自分が女であることを悟るに至った。
 男たちの夢を見ることが多くなった。付き合った相手が夢の中で死んでしまうのだ。
「女王蜂は男を食い殺して自分が生き残るらしいわよ」
 という話を高校時代に、
――恐ろしい話だわ――
 と思いながら聞いた。ちょうどその話を聞いた時、女王蜂の夢を見たことがあったが、その時は自分の気になっている男が女王蜂に食べられた夢を見た。
 女王蜂が男を食べている。男の表情は恍惚に打ち震えている。きっと快感の真っ只中にいながら、自分が食べられているなどという感覚もないのだろう。二人の姿は実に淫らである。
 女王蜂も食べながら時々恍惚の表情を浮かべるが、男をすっかり食べた後、こちらを見たその顔は、まさしく景子自身であった。
 自分ではないかという想像はしていたが、自分に見つめられることなど考えたこともなく、しかも、それがこの世のものとは到底思えないシチュエーションの中でのことなので、あまりの恐ろしさから、次の瞬間目が覚めていた。
――あんな顔になるんだ――
 最後に見つめられた時の恐ろしさよりも、目が覚めてから思い出すのは恍惚の表情の自分だった。
 あんなに淫らな表情になるなど、いくら夢の中とはいえ、想像を絶するものである。
 夢というのは潜在意識の外ではありえないものだ。それを考えると、景子にとって恍惚の表情は、日頃から自分の中で想像していたものであることには違いない。
 女王蜂の夢を見てからというもの、時々、景子は自分の夢の中で、自分が以前に付き合っていた男性の夢を見ることが多くなった。
 夢の内容はベッドの中での淫らなものである。
 普段、男と一緒にいる時から、普通のデートはあくまで前座であり、本当の目的は身体を重ねることだと思っている景子だった。
 高校時代まで目立たなくて、それでもいいのだと思っていただけに、弾けてしまった自分の中の淫らな思いを抑えることは難しい。むしろ抑えることなどしたくない。弾けた気持ちを前面に出し、お互いの気持ちをぶつけ合うことが大切だと思っていた。
 そこに愛という言葉が存在するかどうかは分からない。
――大体、愛って言葉自体、胡散臭いわ――
 と感じていた。
 言葉だけならない方がいい。身体で感じる愛があってもいいではないか。
 それが景子の考えであった。身体の相性がまずあって、そこから気持ちが通じ合えればそれに越したことはない。だが、なかなかうまく行かないのも事実だった。
 身体の関係になるまでには少し時間が掛かる。男も女も決して焦ることをしない。まるでゲームを楽しんでいるかのごとくで、ゴールが身体の関係だと言ってもいいだろう。
 だが、最終的な身体の関係をいざ結ぶと、本当に自分の身体がゴールのテープを切ったのか、後から思い出すとおぼろげな気持ちなのだ。確かに男と一緒にホテルの部屋で愛し合った。部屋に入るところや、抱き合うところはしっかり覚えている。想像していたのと寸分変わらぬシチュエーションに酔っていた。
 恍惚に打ち震えた気分も覚えている。だが、その恍惚が本当に男によってもたらされたものなのかがいまいち疑問なのだ。おぼろげ過ぎるというよりも、それから以降に付き合っている男に魅力を一切感じなくなってしまう。それはどの男でも同じだった。
 男の方から別れを告げてくる。
「申し訳ないが、別れたいんだ」
「そう、仕方ないわね」
 景子もアッサリ引き下がる。却って相手から告げられる別れの方が気が楽だったりするもので、相手は別れを告げながらも、終始不思議そうな気持ちでいるのだ。あれだけゲームを楽しむがごとくにゴールしたのが、たった一夜で豹変してしまうことに恐ろしさというよりも、拍子抜けしたような表情には、かつて想像していた淫らな雰囲気はまったく感じることはできない。
 その後しばらくしてまた違う男と付き合うようになる。
 違う男と知り合ってすぐくらいである。前に付き合っていた男性の夢を見るのだ。
 静寂の中のベッドで、シーツがこすれあう音が聞こえる。最初はベッドのきしみや人の声を感じることはない。真っ暗でシルエットに浮かんでいる姿は明らかに男女がベッドの中で肌を擦りあわせている。
 まず男の息遣いが聞こえる。呼吸をしているだけではなく、規則的な息遣いだ。明らかに男が女のために奉仕している雰囲気が伝わってくる。
 女は声も立てずに徐々に気持ちを高ぶらせている。少しして、女の声が聞こえてくる。抑えが効かなくなっているのだ。
 景子には手に取るように分かる。何しろ、自分が普段ベッドの中での行動にそっくりだからである。ベッドの中にいる女が自分であることは最初から分かっている。夢を見ていると分かっているからだ。
「夢を見ていることが最初から分かるなんてこと、ありえないわよ」
 元々景子は自分が夢を見ていることを最初から分かるタイプであった。そのことを短大に入って友達に話した時に帰ってきた答えである。
「そうなの? 私はそれが普通だと思っていたのよ」
 本当である。夢は見るべくして見るもので、最初から夢だと思っているから大胆なこともできると思っていた。
 夢の中では何でもできた。自分の願望を叶えたい時は、
――夢を見たい――
 と自分で念じたものだ。すると、すぐにではないが、数日後くらいにその夢を見ることができ、夢の中で自分が考えていたことのほとんどをすることができる。
 だが、短大の友達を話をして、
「夢を見ることを最初から分かっていたら、私たちも見てみたいわ。それに夢って自分の潜在意識の中でしか見ることができないんだから、自分の願望を考えた瞬間に夢から覚めてしまうものなのよ」
 と聞かされた。さらに、
「自分の願望は、あなたの言うとおり見ているのかも知れないわね。でも、夢から覚めるにしたがって忘れていくものだと考えれば、夢を見ていた時間があれほど長く感じられたのが、夢から覚めるとあっという間だったように思えるのも無理のないことなのよね」
 と納得していた。
 それから夢について他の人とも話をしたが、大抵は同じ答えが返ってきた。その中で興味深い話を聞いたが、
「夢って、目が覚める寸前の数秒間で見るものらしいわよ」
 というではないか。
「たったそれだけ?」
「ええ、どんなに長い夢であっても、見ているのは数秒らしいの。おかしなものでしょう?」
 しかし、夢から覚めてしまって夢を思い出そうとすると、時間の感覚が麻痺してしまっている。数秒間というのは大袈裟かも知れないが、短い時間であるということはまんざら信憑性のないことではなさそうだ。
作品名:短編集103(過去作品) 作家名:森本晃次