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短編集103(過去作品)

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 おかげで冷静な目を持つことができた。誰からも干渉されないのは寂しいが、それ以上に気楽なものだった。
 特に短大に入ってメガネを外すことは計画していたことで、メガネを外した後の効果を想像しては、一人でほくそ笑んでいた。もし、誰か一人でも景子を気にしている人がいれば、景子が少し変わったところのある女性であることに気付いていたことだろう。
 景子自身、自分が少し変わり者であることに気付いている。誰からも相手にされないほど余裕を持った時間を持てば、他の人たちとは違う性格が宿るのも当然だ。だから「変わった性格」というのだが、それは決して悪い意味ではない。
――人と同じ性格だと言われるのが一番嫌だ――
 天邪鬼とまでは言わないが、特に女性は群がって行動する習性があるのか、見ているだけであまり気持ちのいいものではない。
――群衆心理にだけは染まりたくないわ――
 たくさんの人の中にいるのであれば、自分だけは違う性格として目立つこと、それには自分が輪の中心になることだ。
 景子はたくさんの女友達を得たが、いつも自分は別格に置いてきた。それを皆分かっているようで、きっと、
「景子は少し変わっているわね」
 と噂していることだろう。
 景子はそれでよかった。ある意味計算どおりでもある。
 合コンが初参加なのに、皆驚いていたが、それも最初だけで、
「景子ならそうかも知れないわね」
 と、後で納得した人も大勢いることだろう。その証拠に初めて参加した合コンで、景子にはいきなり男性の輪ができていた。
 こんな状況を今までの合コンでは見たことがなかったはずである。見渡すと景子ほど男性が群がる女性が他にいる雰囲気ではなかった。皆同じような雰囲気で、一人だけ目立とうという感じはなかったのだ。
 だが、景子は想像できた。恰好だけは目立たないようにしていても、いざ合コンが始まれば、皆目が血走っていて、男を見つめていたことだろう。
 見つめられた男たちはどうだろう?
 自分に合う人を探していたに違いない。そのため、場面は探りあいになって、少しこう着状態が続いたことだろう。それこそが合コンというものではないだろうか。
 そんなことを想像しながら初参加となった合コンだが、想像していたとおり自分に群がってくる男性を見ながら、品定めをしている自分に気付いていた。
――自分が品定めできるなんて――
 今まで殻は信じられなかった気持ちが、自分の中で興奮を呼ぶ。今までにはなかった感覚である。いつも冷静沈着な人が興奮すると、本当に身体が震えてくるものだ。震え出した身体が、まるで自分ではないような錯覚に陥っていた。
――あれだけシュミレーションしたのに――
 シュミレーションではまさか自分が興奮して震え出すなど思ってもみなかった。あまりにもシュミレーションと状況が酷似しているからであって、少しでも違っていればここまでの興奮がなかったに違いない。シュミレーションがハッキリしているのも、良し悪しであろう。
 景子にもそれなりに自分の好みのタイプがあった。言い寄ってくる男性の中にいるかどうか興奮している状況で探していたが、最初に言い寄ってくる男たちの中にはいなかった。それも計算済みで、
――私の好みは決して軽薄な男じゃないんだわ――
 と再認識したほどだ。
 その時まで自分の好みのタイプというのがどういう男性かというのは、一口には言えなかった。実際に面と向ってみないと分からないと思っていたからだ。
 今回の同級会では、今まで自分が好きになったのに、振り向いてくれなかった男がターゲットである。
 そうなると大村であるが、近づいてきた工藤という男をえさに大村を狙うということもできる。今までの合コン経験で、そのあたりの計算はできるようになっていた。
――こんな女になってしまったのね――
 急激な変化に伴うリスクはないとは言えない。だが、それだけ高校時代と違う自分になってしまったことを実感していた。
 合コンのたびに、よさそうな男がいれば物色していた。彼氏と呼べるような人もいたが、同時に数人と付き合ったこともあった。
 景子は処女ではない。それはハッキリとしている。だが、いつ自分が処女でなくなったのか、その時のことは覚えていない。
 相手が誰だったのかさえ分からない。デートで今までに何度も誘われたことはあったが、自分を安売りする気になれない景子は、よほど気に入った相手でなければ断るつもりだった。
 最初の相手はどんな男性がいいか決めていた。
 外見が問題ではない。自分をあまり表に出すタイプの男性ではなく、かといって、自分をしっかり持っていそうな男、そして、身体の関係ができたからといって、態度が豹変したり、
「自分の女だ」
 などという考えを起こさない人が理想だった。
 少なくとも後半の条件は外せない。身体の関係がすべてだなどと思っている男は論外である。
――それなのにどうして――
 確かにその日、誰かとデートするつもりで出かけていた。車の中に乗り込んで海を見ながら走っていたのも記憶にある。
――柑橘系の香り――
 窓を開け、初夏の風を浴びながら、よく感じたものだ。車の芳香剤の匂いではないのは確かだった。潮の香りを感じたのは車が止まった時だけである。走っている時は顔に当たる風のせいで息苦しさを感じながら、柑橘系の香りを感じていた。
 すぐに気持ちよくなってきて、次の瞬間何が起こったのか激痛を感じた。それが、処女を失った瞬間であるなど、誰が想像できよう。
 まるで夢を見ていたようだ。激痛にも夢から覚めることはなかった。だが、
――こんなに痛い思いをしないといけなかったなんて――
 後悔に似た思いが頭を巡る。失ったものの大きさがどれほどのものか分からないからである。
――なあに、大したことじゃないわ――
 と思う自分と、
――何のために男に抱かれなければいけないのか――
 と根本的なところで悩んでいる自分とが交互にいる。
 それからだった。景子は頻繁に男に抱かれる夢を見る。相手はいつも違う人で、顔はハッキリとしないのだが、どこかが違うのである。夢で匂いを感じるはずはないと思うのだが、夢の中の男たちは確実に違う匂いを放っている。フェロモンを感じる男もいれば、
――なんて気持ち悪い匂いなの――
 息苦しさを我慢できるところから、夢を見ていると分かるくらい不快なものだったりす
る。
――決してこんな男に抱かれたりするものか――
 と思っていると、男の行動が目に見えてくる。
 夢だとは言え、リアルなものもあった。それだけに、自分が処女でないことは分かっているつもりだ。ひょっとして処女だとしても、今度男に抱かれる時は、自分はすでに経験済みとして抱かれるに違いない。激痛を感じることもなく、男に悟られることもない。
作品名:短編集103(過去作品) 作家名:森本晃次