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短編集103(過去作品)

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 今まで短大の友達との間で開いた合コンとは少し雰囲気が違っている。一番の違いは、まわりの男たちを知っているか知らないかということだ。合コンのように知らない人に見つめられるのもいいものだが、今まで知っている人たちがまったく違った目で見つめられる快感に、景子は酔っていた。
 今までの合コンと違って、最初こそ静かにしていようと思ったが、途中で気持ちが変わった。その原因は、まわりの女性からの嫉妬の視線を感じたからだ。
 短大に入ってできた友達は自分から作った友達である。高校時代のクラスメイトで親しかった人など誰もいなかった景子にとって、誰に遠慮する必要があるものか。相手にされなかったことを高校時代は、
――仕方のないことだわ――
 と感じていたが、変わってしまった自分に「仕方のない」という言葉は当て嵌まらない。
 今までの合コンでは視線を感じながら一人の男性を意識したことなどなかった。高校時代に好きだった男の子と、あまりにも雰囲気が違いすぎたからだ。
 高校時代に好きだった男の子は、真面目でスポーツマン、成績もそれなりによく、クラスに一人はいる典型的なもてるタイプだった。だが、大学に入って合コンに来るような男の子は、誠実さや爽やかさはあっても、真面目な雰囲気にはどうしても見えない。軽い雰囲気を払拭することができないのだ。
 高校時代に好きだった男の子、名前を大村康之と言ったが、大村はその日も参加していた。
 女性に囲まれるであろうことは最初から想像していたが、会場に少し遅れていった景子の目に最初に飛び込んできたのは、やはり女性に囲まれている大村の姿だった。
 あまり楽しそうな顔をしていないのを見て嬉しくなったのはたった一年とは言え、彼が昔抱いていたイメージのままいてくれたからだった。
 その日、景子が会場に遅れていったのは、実は計算していたことだった。最初から姿を現すよりも少しだけ遅れて行く方がまわりに大きなインパクトを与えられると考えたからだ。時間厳守こそ自分の信条だと思っていた景子だっただけに、計算できるだけの余裕が自分の気持ちにあることに満足していた。
 だが、それが短大生だからの余裕だということにその時の景子は気付くはずもなかったのである。
 会場入りが遅れればそれだけでも目立つのに、綺麗になった景子を誰が分かるというのだろう。それが景子の計算だった。
 男の中で誰が最初に自分に近づいてくるか、それが楽しみだった。もちろん、女性陣の泡を食ったような表情もおいしい酒の肴ではあるが。酒の肴なんて発想はまるで中年男性の発想みたいでおかしいが、その時の景子はそれだけ有頂天になっていたのである。
 やっぱり最初に景子に近づいてきたのは工藤だった。
 工藤はこれといって特徴のある男性ではないが、家が金持ちのせいか、こういう席は慣れているはずだ。男としては可もなく不可もなく、そういう意味では普通の女性であれば、彼をあまり悪く感じることもないだろう。
 下手に格好良かったり、スポーツマンだったり、知的過ぎたりすると、後でぎこちなくなることもある。
 格好良すぎると、他の女性からの嫉妬を受けたり、スポーツマンだったり、知的過ぎたりすると、男性の方でつまらないプライドを持っていて、自分との間のバランスがすぐに取れなくなるだろう。それに比べれば平均的に可もなく不可もない男性が無難な感じでいいだろう。
 だが、その日の景子は実に冷静だった。冷静というよりも、
――その場の男性を手玉に取る――
 くらいの計算をしていた。
 ターゲットは一人や二人ではない。自分に近づいてくる男性がその程度では却って情けなく感じてしまうはずである。
 工藤はグラスを持って景子に近づいてきた。他の男たちはその様子を気にしながら、
――工藤じゃ仕方ないか――
 と少し様子を見ているしかない。それも景子には分かっているつもりだった。
「こんばんは。君のような女性がいたなんて、知らなかったよ」
「あら、そう? 高校時代は目立たなかったですからね」
「そうなんですか。でも、今は随分とお綺麗になって」
「ええ、ありがとう。当時はメガネも掛けていましたからね」
 指でメガネの形を作っておどけて見せた。これも今まで自分に言い寄ってきた男たちに対してしてきたことだ。それによって自分の気持ちを表したつもりだったが、工藤がどのように感じたのか、この男のことだから、きっと何も感じなかったに違いない。
 この会話で、工藤という男、大した男でないことが判明した。
「今は随分とお綺麗になって……」
 このセリフ、もし、彼が以前の景子を知らないのであれば、それでも構わないのだが、知っている人がいうと、
――あなたは、以前は綺麗ではなかった――
 あるいは、
――恰好一つで、女性の価値が決まる――
 大袈裟なようだが、聞く人によってまともに判断すれば、どちらかに聞こえてしまうだろう。
――この男、女性の中身についてはどうでもいいんだ――
 と思わなくもない。こんな男こそ手玉に取られても仕方がないと思い、彼を今日のパートナーからは完全に外すことは決定していた。
 適当にあしらっていると、そのことに気付いた他の男性たちが、次第に景子を取り巻くようになった。話題は高校時代の話題ではなく、今の話題が多い。先ほどの工藤との会話で、
――高校時代の会話はタブーだな――
 と皆が悟っているのかも知れない。しかも、男たちはなるべく自分の自慢話をしないようにしていた。だが、中にはさりげなく自分の話を誇大広告する人もいたが、それはそれで悪いことではない。存分に聞いてあげていた。
 だが、今日のパートナーに選びたいと思っている人は、そんな相手ではない。今までの合コンでそんな男たちはたくさん見てきた。
 今までの男たちと同じでは今日はダメなのだ。景子が満たされることはない。景子は最近ストレスが溜まっている。欲求不満が解消されないのだ。
 一番最初に誘われた合コンを思い出していた。すでにその時景子はたくさん短大では女性の友達がいて、
「景子が合コン初参加だなんて、知らなかったわ」
 と皆が口を揃えていたくらいだ。
 合コンの誘いは、まず、言い出しっぺが幹事になる。その人を通じてのつてがあるからだ。相手が学生だったり、サラリーマンだったりしたが、どうにも最初からの合コン参加には景子自身抵抗があった。
 しかしそれは表の顔で、実は裏では巧妙な計画が立てられていた。自分に言い寄ってきた男たちをいかにうまくものにできるかということである。本当はシュミレーションではなく、最初に参加して雰囲気を味わってからでもいいのだろうが、景子はなぜか、すぐには合コン参加しなかった。それだけ自分の容姿に自信があるわりに、計画が曖昧だったのだ。
 景子はいい加減な性格ではない。キッチリと計画されていないと気がすまないタイプだ。そのことを知っている人はいないはずである。特に高校時代までは目立たなかったので、誰からも気にされることもなく、一人佇んでいるだけだった。整理整頓が好きで、潔癖症な性格などということを知っているのは親くらいだろう。
作品名:短編集103(過去作品) 作家名:森本晃次