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主犯と共演者の一致

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 相手が中学生か高校生であれば、言われて屈辱的に感じたとすれば、それは正常な証拠であり、黙ってしたがったとすれば、やはり引きこもりの気があると考えてもいいだろう。
 彼の場合は、微妙であったが、少なくとも顔には屈辱感が浮かんでくることはなかった。それを思うと、やはり彼が引きこもりなのは、分かり切っていることではないかと思えたのだ。
「刑事さんたちは、佐緒里さんの事件を調べているんでしょう?」
 と訊ねてきた。
「ああ、そうだよ。昨日君のお家に行ったのは、君のお母さんが何かを知っているんじゃないかと思って、それで聞きに行ったんだ」
 と上野刑事がいうと、少年は何か苦み走ったような表情を浮かべた。
 それは少なくとも今までに初めて見た彼の感情から来る表情だった。
 苦み走った表情はたぶん、母親に対してのものだろう。
――あんな母親に何を聞いたって答えるもんか――
 という、母親に対しての嫌気を表すような態度だったように思う。この少年は何かを知っているのかも知れないと思ったが、必要以上には聞けないと思った。
「僕は、佐緒里さんとは、お母さんの知らないところで実は勉強を教えてもらっていたんだ」
 というではないか。
「どこで教えてもらっていたんだい?」
「お姉さんのお部屋。表だったら人に見られる可能性があるでしょう? 僕はお母さんに見つかるのが嫌だったんだけど、お姉さんは、世間の目を気にしていたと思うんですよ」
 と少年は言った。
 佐緒里のことをキャバクラで聞くと、
「彼女はあまりというか、ほとんど世間体なんか気にする人じゃなかったわね。人から何か言われても、別に気にしないというタイプの人で、結構、それが人と衝突しない秘訣のようなことを言っていたような気がするわ」
 と言うではないか。
「それってどういう?」
「要するに、人に気を遣ったり遣われたりするから、余計な神経をすり減らすことになって、その思いが嵩じると、勘違いしやすいんじゃないかって言っていたわ。きっと今までに何かがあって、そういう考えに至ったんでしょうね。私たちもその考えに半分は賛成なんだけど、でも自分たちにはできっこないという考えがどうしても前提的にあるから、何も言えないんだけどね」
 と言っていた。
 なるほど、それが彼女の性格を構成しているのだとすれば、この話は十分な説得力があった。ひょっとすると、この引きこもりに見える少年の勉強を密かに教えていたというのも分からなくはない。人に見られるのが怖いというよりも、彼の母親の存在が気になっているのかも知れない。
――ひょっとして、殺された赤嶺佐緒里と、母親との二人の間に何かあったのかも知れないな――
 と、門倉刑事は感じていた。
 しかし、そのことをこの少年に話すわけにはいかない。とりあえず、少年の知っていることだけを聴くことにしよう。
「そうだ。君はお名前は何というのかな?」
「僕は、鈴木清彦って言います。学校ではあまり成績もよくなくて、かといって毎回補習を受けるほどひどくもないんですよ。いわゆる一番目立たないタイプとでもいうんでしょうか?」
「お姉さんにどうして勉強を教えてもらうことになったんだい?」
「あれはお姉さんが、一度この公園で、教科書を読んでいるところを見たことがあったんですが、その顔が本当に懐かしそうに見えたんです。僕は思い切って声を掛けてみました。普段ならそんなこと、絶対にしないんですが、声を掛けてみると、急にビックリしたように振り向いたお姉さんはなぜか泣いていたんです。すぐに涙を拭きながら、『私、学生時代にはグレていたんだけど、本当は教師になりたかったのよ。おかしいわよね』と言って、涙でぬれた顔に笑顔を浮かべるんです。僕はその顔を見た時、胸がキュンとしてしまったんですよ。そこで思わず、『じゃあ、僕に勉強を教えてくれませんか?』って聞いてみたんです。当然断られると思ったけど、お姉sなは、ニコッと笑って、いいわよって言ってくれたんですよ」
 と、清彦少年は、そう言いながら虚空を見つめ、思い出し笑いをしているかのように見えた。
「きっと、彼女も生徒と呼べる人が欲しかったのかも知れないね。でも、彼女に高校生の男の子を教えることなどできたのかな?」
 と聞くと、
「大丈夫でしたよ。一緒に教科書や参考書をしているうちに、彼女の方もだんだん思い出してきたなんていうじゃないですか。その時になって、僕が結構大それたことをお願いしたんだって、初めて気づきました。でも、お姉さんはそんなことは一切に気にしていないようで、必死に勉強についてきています。考えてみれば。僕は寂しかったんです。そんな僕には普通の家庭教師や塾なんかよりも、一緒に成長しようとしてくれるお姉さんが、一番よかったんだって思うようになりました」
「うんうん、それはいいことだよね」
「でも、お姉さんは時々、急に考え込んでいることが多かったようで、それが何から来るのか分からなかったんです。ある日お姉さんは、僕に向かって、『清彦君は正義の味方なんだね?』なんて言うことがあったので、『そんなことはないよ。悪が許せないだけさ』と答えたんです。すると、『清彦君は偉いんだ』っていうので、『偉いのかどうか分からないけど、正直なだけだって思いたい』って答えたんだ」
 と清彦は言った。
「そっか、清彦君は、まるで水戸黄門みたいな感じなのかな?」
 と上野刑事がいうと、少し彼はムキになって、
「そんなことはないよ。僕は自分に正直に生きたいだけさ」
 と言った。
 どうやら上野刑事は、少年を挑発し、本音を聞き出そうと思ったようだが、中途半端に終わったようだ。彼がムキになったのは、どこか自分が正直であるということに、何らかの違和感を持っているようで、その違和感がまわりにどんな影響を与えているのか、彼自身、分かっていないようだった。
 だから、上野刑事の挑発に中途半端に乗ってしまうのだろうが、その中途半端を許せない自分もいるようで、その感覚が、自分の中にある寂しさを認めたくないと思いながらも、相手によっては。公然と、
「寂しい」
 と口にしているようであった。
「君は本当に悪を許せないタイプの、弱気を助け、強気をくじくという感覚の男の子なんだろうね」
 というと、
「そういうのを、何ていうか知っていますか?」
 と逆に質問してくるではないか。
 門倉刑事は分かっていたが、敢えて聞いてみた。
「何というんだい?」
 と聞いてみると、彼は一言、
「勧善懲悪っていうのさ」
 と、そんな難しい言葉を知っている自分を誇らしげに飾っているかのように見えた。
「そうか、勧善懲悪か」
 と言った門倉は、まさに清彦少年のような人のことをいうのだと、感じていた。

                ラブホ絞殺殺人

 マンションにての赤嶺佐緒里殺害事件が発生してから、まだ数日しか経っていないのに、同じ管内で、別の殺人が発生した。赤嶺佐緒里のマンションからは、一キロも離れていない場所であるが、マンションの住人にはあまり立ち寄る場所でもなかった。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次