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主犯と共演者の一致

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 その場所というのは、駅裏に位置しているところで、近くには高速道路のインターチェンジなどがあり、拘束のインター近くというと昔からどこにでもあるという風景でもある、いわゆる、
「ラブホテル街」
 の一つの部屋で起こったことだった。
 こちらの事件を通報してきたのは、ホテルの清掃員で、時間的には夕方の六時前くらいであった。
 通常、昼間というのは、二時間か三時間単位での休憩が一般的で、一時間くらいのショートの時間、あるいは逆に、早朝の六時くらいから、夕方の六時くらいまで、ほぼ三時間の値段にほんの少し色が付いた程度の値段でいられる、サービスタイムというのが存在する。
 この部屋の利用者も、午前中に入室し、このサービスタイムを利用しているようだった。
 ラブホテルというとどこでもそうだが、フロントを通さず、タッチパネルで部屋を選び、入室する。タッチパネルの場所、エレベーターの乗降口、そして各階の通路には帽はカメラが設置されていて、あとで見返すことはできるが、もちろん、部屋に入ってしまうと後は分からない。
 ホテルによって多少の違いこそあれ、タッチパネルを押すと、部屋の前にある部屋番号を記したランプが点滅し、それに従ってお客は部屋に入る。入る時はカギがかかっていないが、入ってしまうと、部屋の点滅していたランプが点灯もしくは消灯し(入室しているという印)、タッチパネルにも入室が伝えられる。その時点で、部屋の扉はロックがかかり、フロントが操作をしなければ、扉は開かない仕掛けになっている。
 要するに、料金を払わないと出られない仕掛けであった。
 部屋に入るのが確認されると、つまりはカギがロックされたか、消灯したかによってフロントで分かるようになり、部屋に備え付けの電話がなる仕掛けだ。
 フロントからの電話で、部屋の簡単な説目緒等があり、時間をどうするか聞かれる。どうやらこの部屋に入った人は、サービスタイムを所望したようだった。その時出たのはオンナの人の声で、少し中年風の声は、奥さんではないかという後からの話であった。
 その客が夕方になって、あと三十分でサービスタイム終了の時間をお知らせするために、部屋にフロントから電話をしたのだが、応答がなかった。
「お風呂に入っている場合もありますので、そういう場合は少し経ってから、もう一度電話をします」
 ということであったが。それから何度か電話を入れても、部屋からは誰も出る様子もない。時間は六時を回って、七時近くになっても返事がない。フロントから扉を叩いてみるが、反応がないので、しょうがないので、部屋を開けてみると、ベッドの上でうつぶせになった全裸の男が首にタオルを巻き付けられて、首を絞められたのか、死んでいたという。
 すでに目は閉じることもなく、あらぬ方向を睨んでいる。見た瞬間に、誰もが死んでいることを確信したという。
 このような商売はしていても、実際の死体を見たのは初めてだった。以前はラブホテルで自殺をする女性というのも話題になったが、このホテルは比較的後になって建てられた店なので、自殺騒ぎに巻き込まれたことは今までには幸いにしてなかったということだった。
 すぐに警察に通報され、捜査員や鑑識が到着し、ホテルは一時期騒然となった。
 時間が夕方だったということもあり、ホテルの利用客は比較的少なかったということもあってか、大きな騒ぎにならなかったのは幸いだった。
 ただ、首を絞められていて、首にタオルが残っていて、しかも全裸で俯せということなので、自殺は考えられなかった。自殺をするとすれば、浴室か洗面所で手首を切るか、あるいは睡眠薬を飲むかなどをするだろう。自分で自分の首を絞めて、しかも俯せでいるなど普通では自殺としては考えられない。ホテルは殺人事件の起こった現場として、報道陣もやってきて、しかも、先日も近くのマンションで別の殺人があったということで、余計に話題になっていた。
 鑑識も、
「絞殺ですね。死後五時間くらいということなので、昼間くらいだったんじゃないでしょうか?」
 ということだった。
「絞め殺したのは、さっき首に掛かっていたタオルなんでしょうか?」
 と上野刑事は妙なことを聞くので、鑑識も一瞬怪訝な顔になって、
「そうですが、何か気になるんですか?」
 と聞き返したが、上野の気持ちを察したのか、門倉刑事が、
「絞殺という手口が似ているというだけで、距離が近いからと言って、まったく別の殺人じゃないのかな?」
 と言ったが、門倉刑事も上野刑事が考えていることが自分でも分かったくらいなので、心のどこかで結び付けようとしていたということを意識させるので、完全に否定したりはできなかった。
「まあ、考えすぎでしょうかね」
 と上野刑事がそういったのは、前の事件に対して何も見えてきていないのに、また新たな殺人事件が起こったということに、憤りを感じているのだろう。
 もし、これが連続殺人であれば、どういうことになるのか、それぞれを別々に捜査する必要がないので手間が省けるとみるべきか、犯人はすでに複数殺しているということで、猟奇殺人の目まで出てきたということで、犯罪が厄介になってきたと考えられるかも知れない。
 ただ、この二つを結び付けて考えるだけの要素はまったくない。少なくとも、赤嶺佐緒里の事件を捜査している中で、彼女が捜査線上に上がってくることはなかった。目の前で死んでいるのは、まったく見たこともない女性だったのだ。
 女性の年齢は断末魔の表情からなかなか推定は難しかったが、雰囲気としては、三十歳代くらいではないか、二十代というよりも、四十代くらいに見えるくらいで、雰囲気としては主婦の様相を呈しているようだ。
 そんな中で、門倉刑事がふとしたことを思い出した。
「犯人は、どうやって逃げたんだろう? さっきのホテルのフロントの人の話によれば、部屋に入ってしまうと、帰りにフロントに連絡をしないと、中からは開かない仕掛けインなっているんでしょう? ということは、犯人は一緒に入った男だとして、その男は、この部屋から電話をして、帰るからあけてほしいと言ったことになる。それなのに、どうして六時まで、誰も気づかなかったんだ?」
 というのが、門倉刑事の疑問だった。
 それに対して、フロント係がその理由を説明した。
「お部屋を出る際は、どちらかが最初に出て、一人が残るということも結構あるんですよ。不倫のお客様もご利用になられるので、そういうことも暗黙の了解だったりします。また最近でよくあるのは、デリバリーヘルスなどを頼む場合ですね。自分のお部屋にデリヘル嬢を招く場合もありますが、家族と同居していたりして、家では無理なお客さんは、ホテルに出張してもらうことも結構あります。だから、入室も男性が先にお部屋に入って、お部屋が決まったということで、初めてデリヘルに連絡を入れる人も多いんですよ。だから、このように、お部屋にはデリヘルを紹介している無料配布の雑誌が置いてあったりするんです」
 と言って、スタッフがベッドの脇に置いてあるデリヘル雑誌を手に取って門倉刑事に見せた。
「なるほど、入室が男性一人でもいいのなら、退室も、先に女性からということもあるわけですね」
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次