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主犯と共演者の一致

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「そうかそうか、彼にはそんな探求心をまだ忘れているわけではなかったんだな」
 というと、
「もちろんですよ。人の助手になろうとする人には二種類あって、ただ助手に甘んじるだけの人と、表向きは変わらないが、実際には助手として勤める相手から貪欲に何かを盗もうと考える人の二種類ですね。門倉君は後者であり、それは私には最初から分かっていたことだったんですよ」
 と、鎌倉探偵は答えたのだ。

               勧善懲悪

 門倉刑事は、捜査の相棒と一緒に、殺された赤嶺佐緒里の近辺を洗っていた。まずは彼女のマンションの住人にいろいろ話を聞いていたのだが、やはりマンションというと、ほとんど誰も他の住人のことなど気にする人も少なかった。聞ける情報もほとんどなく、半分諦めかけていた。
 そんな中で、佐緒里の階下に住んでいる人のところに事情を聴きに行った時のことだった。その部屋の住人も、警察というだけで身構えてしまって、何も話そうとしない雰囲気だった。
――知っていても、話さない方が無難だ――
 とでも思っているのか、警察に対しての協力心は皆無に近かった。
「本当に近隣の人からの意見というのは、もらえませんね」
 と、相棒も嘆いていたが、まさにその通り、
「自分が相手の立場になれば、どうだ? 犯罪捜査という名目で、まるで自分たちのところに土足で上がってこようとすれば、誰だって警戒するだろう」
 と門倉刑事がいうと、
「でも、これは殺人事件ですよ」
 というので、
「それだって、彼らには関係のないことさ。変に犯人にとって都合の悪いことを話してしまうと、逆恨みされないかって思ってしまうと、知っていても話そうとはしないさ」
「そんな。我々がバラすわけないじゃないですか」
「そんなことは、あくまでも警察関係者の理屈であって、一般市民には関係のないことさ。特に小説やテレビドラマなどでは、下手に証言してしまったために、殺されたなんて話もあるだろう? そんなものを見れば、誰だって怖くなるさ。特にマンションの広間部屋にいう人は主婦が多いじゃないか。昼のテレビというと、再放送のサスペンスが多かったりする。主婦はそういう番組を見たりしているだろうから、警察に対しての信頼感など、あったものではないんだろうな」
 と、門倉氏は淡々と話した。
「やる気がなくなってきますね」
「そんなに簡単に情報が手に入れば苦労はしないさ。地道な捜査と少ない情報からでも事件解決に結び付けられるものを自分で養っていれば、どうにかなるものさ」
 と門倉刑事はいう。
 これが鎌倉探偵の助手と言われている門倉刑事の考え方だと思うと、相棒も納得はできるが、自分の中で何か釈然としないものがあった。それも仕方のないことだと思いながらも、ゆっくりと考えていたが、若くて血気に走っている刑事には、門倉刑事が何かを悟っているとしか思えなかった。ただし、それは門倉刑事の範疇であって、自分がその悟りを開きたいとは思わない。あくまでも自分は熱血漢であることを目指しているのだった。
 門倉刑事が相棒とする人は、彼のような若いやつが多かった。それは自分で課長に進言していたこともあったくらいで、
「私は、どうしても一歩下がった捜査をするように考えるので、相棒に選ぶのであれば、若くて血気にはやっている人の方がいいかも知れません」
 と、促していた。
 課長もその気持ちが分かったのか、今の彼の相棒は、上野刑事であり、上野刑事とすれば、なかなか馴染めない門倉刑事に少し苛立っているところもあった。それは傍から見ていてもよく分かっていて、当の本人である門倉刑事はもちろんのこと、二人を組ませた課長にも百も承知のことであった。しかも、それは思っていた通りの効果をもたらしているようで、その状態を今はしょうがかいとしても、以後継続していくことが、上野刑事の成長に繋がることは確信していた。そして、彼が門倉刑事くらいになった時、後輩を育てるのに最高の先輩になりえることも分かっているのだった。
 階下の奥さんは、なるべく早く帰ってもらおうと、扉も半分しか開けずに、中を見せようとしない。これはこの部屋に限ったことではなく、他の部屋でもあったことだった。ただ、もう一つ理由があることを、門倉刑事は気付いていた。奥の部屋に一人の男の子がいるようで、扉の影からこちらを覗いていた。門倉刑事は、それとなく気付かないふりをするように上野刑事に促したが、自分は奥さんが上野刑事の質問に答えている時のちょっとした隙を見て、その少年を見た。
 少年と言っても、高校生くらいの男の子であろうか、昼間のこの時間家にいるということは、ちょうど学校では試験中なのかも知れないと思った。
 少年の顔を見た門倉は一度軽く会釈をすると、その少年も一瞬迷ったが頭を下げてくれたのだが、それだけのことでmすぐに中に入ってしまった。
――何かを言いたいのかな?
 と門倉刑事は感じたが、何を言いたいのか想像もつかなかった、
 まあ、このマンションで有力な手掛かりを得られるとは思ってもいなかったので、別に気にはしていないが、ただ、少年がどうしてこちらを見ていたのかが気になった。
 もし、家に警察がしかも、制服警官ではなく、一組の刑事が尋ねてきたのだから、昨日の事件の話であることは一目瞭然である。だとすると、そのことが分かりさえすれば、少年はそれ以上気にする必要などないはずだ。刑事と目が合ってすぐに扉を閉めるくらいだったら、もっと早くに閉めていてもよかったはずだ。それなのに閉めるまでに時間が掛かったというのは、どういうことなのか、門倉刑事は気になっていた。
 部屋を訪れたのは、五分くらいのものだったであろうか。その少年がその時の時間をどれくらいの間だと認識していたかは分からないが、少なくとも五分などという短くて、しかも中途半端な時間ではなかっただろう。
「どうも、ご協力ありがとうございました」
 と言って部屋を後にすると、まず二人はエレベーターで一階まで降りた。
 この行動は上野刑事にも想像がついたので、黙ってしたがった。一階まで降りると、今度はマンションの裏、つまり、ベランダ側に行くと、さっきの部屋のベランダを見上げたのだ。
 すると想像通りにそこには先ほどの少年がべランド越しに下の二人を見ていた。
 一瞬だけ上を見上げ、視線が合ったか合わなかったというくらいに目を向けると、相手は慌てて顔を隠したが、時すでに遅しで、しかも、向こうは最初からそのつもりだったので、見逃すはずなどなかった。これは相手が刑事であろうがなかろうが同じことで、目が合ってしまったことはしょうがないことだと少年は諦めることができるだろうか。
 門倉刑事は別に少年を追い詰めようなどとしているわけではない。しかし、何かを言いたくてそれで迷っているのであれば、背中を押してやるのも、必要なことである。もしそれで何も行動がないのであれば、その時は門倉刑事の思い込みにすぎなかったとして諦めればいいだけのことである。
 果たして、少年に対してのボールは投げられた。それを返してくるかどうかは、荘園次第だったのだ。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次