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主犯と共演者の一致

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 今回の課長は、いつになく乗り気で捜査をしていた。今までも別に気が抜けていたわけではなかったが、ほとんどを捜査員に任せていたのに、今回はどうしたことか、自分が率先しているように感じられた。この感覚は捜査員皆にも分かっていることであり、それだけに一本ピンと下線が張られているようで、捜査本部も緊張に満ちている気がしたが、課長は自分では別に特別な意識を持っているわけではなかった。
「まわりの皆がなかなか捜査に、非協力的なので、よくは分かりませんでしたが、管理人が一度面白いことを言っていたことがあったんですが、それというのも、彼女が一度公園のベンチに座って、何やら参考書のようなものを見ていたといんです。しかも、それが高校生の見る参考書だったんだそうですが、管理人も、ちょっと不思議に思っていましたね」
「それはいつのことだったんだい?」
「数か月前ということでしたので、大学は卒業していました。就職のための一般教養の私見のためと言えば分からなくもないんですが、それなら公務員試験などの本を見るような気がしたと管理人さんは言ってました。それで少し調べてみると、彼女が大学時代に在籍していた学部というのが、教育学部だったらしいんです。彼女は先生を目指していたんでしょうか?」
 と門倉刑事は報告した。
「それはあるかも知れないな。卒業しても、教員になりたいと思っていて、今は無理でもいずれはと思っていれば、それもありなんじゃないかな? 特に彼女は真面目な性格だというだけに、あり得ることだと思う。そんな話を聞くと、応援してあげたくなるような人だったんだろうね」
 と、課長は少し、本音を混ぜるかのように言った。
 それに課長は、門倉刑事の気持ちも分かる気がしていたのだ。彼と一緒に以前飲んだことがあったのだが、その時、
「自分は、子供の頃は、本当は学校の先生になりたかったんです。勉強も好きだったし、好きな勉強を生徒に教えたいと思ったんですね」
 それが、何を間違えた(?)のか、警察官になってしまったという。
 だが、今はその警察官が結構楽しいと思っていた。事件などで、鬱状態になるほど、やり切れない事件もあるにはあるが、一人ではないということが、彼にどれほどの勇気を与えるか、
 しかも、一つの事件が終わっても、事件というのは、まるでトカゲの尻尾切りのように切れ目なく出てくる。それが却って余計なことを考えさせないのがいいのだった。
 門倉刑事は、聖人君子というわけではない。嫌いな人間もいれば、許せないタイプの人間もいる。そんな人に対してどのように接すればいいのかが、最近ではずっと悩みだったりしている。
 ただ、この悩みを相談できる相手はそれほどたくさんいるわけではない、最近では鎌倉氏がいるので、相談に相手には困らないが、相談相手がいないと、どうしていいのか分からないくらいだった。
 そんな門倉刑事は警察学校で成績優秀だったということは、鎌倉氏には想定内のことだった。話をしていても、どこか秀才的な言葉が飛び出してくる。語彙力に対しても、一目置く存在だった。
 今までは、どうしても鎌倉探偵の助手のようなイメージが強く、警察内でも、二人のコンビは有名だった。そのたびに門倉刑事の方がいつも鎌倉探偵に助けられているというイメージがついていることを、鎌倉氏は憂慮していた。
「本当はそんなに私ばかりの手柄というわけではないんですけどね」
 と、課長と一緒にいる時には何度か話をしたことがあった。
「彼は不器用というわけでもないんですが、甘んじて助手のような役割を喜んで引き受けるところがあるんですよ。それが彼の頭の様さを裏付けているんじゃないかと私は思うんですが、どうでしょうね?」
 と課長がいうと、
「そうかも知れないですね。でも、それは課長が、門倉君の過去を知っているからそう思うのであって、他の何も知らない人からみれば、彼は道化師のような存在に見えるかも知れませんね。怖い道化師ではなく、愛嬌のある道化師ですけどね」
 と鎌倉氏は言った、
「確かに、私は彼のことを知っているから、そう言えるんでしょうね。でも、それだけではないような気がします。門倉君には、彼にしかないいいところがきっと他の人よりもたくさんあるような気がするんですよ」
 と課長はいった。
「門倉君というと、私が最初に解決した事件では、結構活躍されていましたよ。本人にどこまで自覚があったのか分かりませんが、私の推理の糸を手繰り寄せてくれたのが彼の一言だったんです」
「そんなこともありましたね。私がまだ現場を飛び回っていた頃だったですおね。あの時、鎌倉さんに捜査の依頼を言い出したのは、この私だったですからね」
「そうそう、確かに課長さんでした。あの時は、私も探偵になりたてで、どのように捜査をしていけばいいのか、半分困っていたんですよ。その時に課長さんから掛けてもらった言葉も忘れもしません。確か『こちらが相手を見えないように、相手もこっちが何を考えているか、分かっていないでしょうから、焦ることはないと思いますよ』という言葉でしたよね。私はあの言葉で気が楽になったんですよ」
 と鎌倉探偵がいうと、
「そうでしたね。あれは私も鎌倉さんが焦っているのに気付いたので、何とか焦りを沈めて、その気持ちを闘争心に結び付けられたらいいと思って言った言葉でした。うまく行きましたかな?」
 と課長が笑いながらいうと、
「ええ、もちろんですよ。あの言葉があったから、僕は事件解決に一歩も二歩も近づいたんですからね」
 という鎌倉氏に対して、
「あの時は、本当にいいパートナーでしたな。今ではその役目を門倉君が受け持ってくれていますよ。ちょっと頼りないところがありますけどね」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。今でも門倉君の言葉は、いつも事件のクライマックスにおいて、大いに刺激になることが多いんですよ。事件の真相に近づく一言しかり、この僕を啓発してくれること、またしかりですね。本当に彼は助手というよりも、いい相棒なんですよ」
「そう言っていただけると、私も嬉しいですよ。私にとっても、門倉君が私のよき継承者になってくれていると思うと、これほどの気持ちがいいことはない。私の部下でありながら、鎌倉さんにお預けしているというイメージになっているので、その鎌倉さんからおほめいただくと、これほどの喜びはありませんよ」
 と、二人は門倉刑事の話題が尽きない様子だった。
 鎌倉氏にとって、門倉刑事というのは、傍から見ていると、本当に助手というイメージなのだが、それは逆に彼の刑事としての手腕が優れているからだと言えるのではないだろうか。
 事件の情報を捜査してくるのが、警察官である門倉刑事の仕事、集まってきた内容を元に、犯罪を組み立てていって、真相に近づく頭を発揮するのが、探偵としての鎌倉氏の仕事ではいだろうか。
 警察官としての仕事をまっとうしている彼は、警察官であるまわりから、
「助手みたいだ」
 と言われるのは、どこかおかしな気がしているのは、鎌倉氏であったり、課長だったりするのだが、当の本人は逆に分かってやっているだけに、まわりから何と言われようとも別に気にすることはない。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次