小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

主犯と共演者の一致

INDEX|4ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「まあ、そんな感じでしょうかね。僕も元小説家ということもあって、犯罪捜査に関しては、他にたくさんプロの方がおられるので、偉そうなことは言えませんけどね。でも、犯罪捜査は経験も大切ですが、ひらめきも大切だと思います。そういう意味で、ただ長いだけでベテランという称号をいかに使っても、閃かなければ、同じなんじゃないかって僕は思いますね」
 と、鎌倉氏は言った。

                門倉刑事の過去

 その日には分からなかったことが、その翌日には少しずつ分かってきた、捜査本部では課長が捜査の指揮を取素ということなり、門倉刑事も張り切っていた。
「では、まずは鑑識報告からいこうか?」
 と課長がいうと、前列の二人のうちの一人が手を挙げて立ち上がり、
「では、私から報告させていただきます。死因は細い紐状のものだそうです。独楽の糸くらいのものではないかということでした。死亡推定時刻は、やはりあれだけ熱湯を浴びていたので、鑑識でも、どうしても幅を持たせなければいけないそうです。たぶん、死後6時間から十時間くらいではないかということです」
 と一度そこで話を切った。
「ということは、昨日の夕方から十時頃までということになるのかな? それにしても、凶器が独楽の糸くらいの太さというのは、何とも中途半端なものだね」
 と課長がいうと、
「はい、確かに中途半端です。しかも犯人は殺害後、さらにタオルで済め殺しています。どうしてそんな回りくどいことをしたのか、よく分かりませんね」
「凶器はどうなったんだ?」
 と聞くと、
「いやあ、現場にはありませんでしたし、付近からも発見されませんでした。ゴミも漁ってみましたが、こちらも空振りです」
「そうか、凶器はでなかったわけだな」
「はい」
「じゃあ、死亡推定時刻がそれくらいの時間だとすると、そのあたりの時間に被害者の家を誰かが尋ねてきたとか、争うような物音を聞いたとかなかったのかい?」
「この自坊推定時刻を元に、第一発見者の方にも聞いてみましたが、誰かが訪ねてきたということも、物音を聞いたということもなかったそうです。昨日は発見者の女性は、昨日お休みだったようで、夕方くらいからは家にいたと言います。人が尋ねてきたかどうかまでは何とも言えませんが、物音や振動はなかったと言っています」
「まあ、それはそうかも知れないな。何しろ夜中に熱湯が勢いよく流れる音だけで、いくら夜中に扉が開いていたとはいえ、気になって覗いてみるきになったんだから、かなりの聡いタイプの人間なんだろうな。その彼女が気付かなかったというのだから、信憑性はありそうな気がするな」
「そうなんですよ。念のために、反対川の隣の人に聞いてみましたが、そっちはまったくの無関心な人でして、警察というだけで、露骨に嫌な顔をしましてね。開けてもくれませんでした。ただ、見ていないというだけで、まあ、答えてくれただけいいんでしょうけどね」
 と、捜査員も、やれやれという顔で話をした。
「いや、むしろこっちの方が普通なんだよ。この第一発見者のように自分からいろいろ話をしてくれる人なんて珍しいくらいだ。だからこそ彼女の意見は貴重ではあるが、あまり鵜呑みにできないところもある。慎重に捜査しないといけないと思うぞ」
 と課長は話した。
 これに関しては門倉刑事も同じだった。あまり事件に深入りしてくる民間人というのは、あまり信用できるものではないと、門倉も今まで経験から分かっているような気がした。
「じゃあ、次は、被害者についてだが、何か分かったかな?」
「はい、それは我々で調べました」
 と、後列の二人のうちの一人がメモを手に、立ち上がった。
「被害者は赤嶺佐緒里、二十三歳、去年、近くのK大学を卒業し、現在hキャバクラで勤めているそうです。何でも就職活動がうまくいかず、学生時代からアルバイトをしていたキャバクラで、そのまま働いているということです。給料は少々色を付けてもらっているということですが、あくまでもアルバイトなので、貰える額は知れているそうですね。就職活動の方は地道に続けていたようです。お店の仲間からは、あまり悪く言われていることはないようで、ただ、いい話も聞きません。要するに、相手にされることのないほど、目立っているわけではないということでしょうか? ただ、彼女を真面目な女の子だという意見は、皆持っているようで、もっと他に働き口くらいありそうなものだって言っているくらいでしたね。とにかく目立たないタイプで、指名もそんなにはついていなかったようです」
「でも、常連はいたんだろう?」
「ええ、彼女ばかりを指名する客もいたようです」
「そういう客はどれくらいいたんだ?」
「二、三人というところでしょうか?」
「どういうタイプの客なんだ?」
「聞いたところですが、真面目な人で、人とあまり喋るのが苦手なタイプの客が二人くらいと、もう一人は皆が好きになるような女の子を指名するようなミーハーではないと豪語する男性だということですね」
「なるほど、何となく、生前の彼女がどんなタイプだったのか、想像できそうだな」
「ええ、その通りです。我々は引き続き店から他の情報を引き出せればと思っていますが、並行して、さっきの客も当たってみようと思います」
「ちなみに彼女の勤めているお店は、会員制じゃないんだろう?」
「ええ、キャバクラなので、会員制ではありません」
「じゃあ、客の特定というのは難しいのでは?」
「そうでもないんですよ。女の子に対して名刺を置いていく客もいるし、名前も本名を名乗っているので、意外と分かりやすいんですよ。彼女は自分についてくれる常連さんが少なかったこともあって、彼らからもらった名刺は自分の部屋に大切に保管していました。名前を店の他のキャストに確認したんですが、おかげで全部会社と氏名までは分かりました」
「そうか、それはよかった。じゃあ、彼らへの事情聴取はお願いしようかな。丁重に頼むよ」
 と課長は言った。
 門倉刑事は、近所の聞き込みを行っていたようで、
「じゃあ、次は近所の聞き込みはどうだったかな?」
 と、門倉刑事を目配せした。
 門倉刑事が立ち上がり、今までの二人と同じようにメモを見ながら答えた。
「被害者の赤嶺佐緒里ですが、彼女は近所づきあいはほとんどなかったようですね。マンションの他の部屋の人に聞いても何も返事は返ってきませんでした。返ってきたとしても、ほとんど話をしたことがないという、こちらの期待に沿えない回答ばかりですね」
 と報告すると、
「そうか、まあ、そういうことであれば、逆に彼女の性格も分かってくるというものだ。近所づきあいにおいても、お店の中においても、どちらにしてもパッとしない性格で、その性格が一貫しているということが分かっただけでも、収穫なんじゃないか? 彼女がそういう性格の女性だということが分かると、彼女の交友関係も、そして、彼女が殺されなければならなかった理由もおのずと分かってくることなんじゃないだろうか?」
 と、課長は言った。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次