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主犯と共演者の一致

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 ここで、課長の話をわざわざ書く必要はないだろう。追記する部分もなく、門倉刑事と同じ質問を投げただけだった。もちろん二人の間で事前に申し合わせがあったわけではないので、同じ質問になったとすれば、それは教科書的な質問だったに違いない。それだけ誰もがするような質問で、そこに奇抜な質問など存在しなかった。
――しょせん、公務員なのよね――
 と、二人の質問に対して、もっと奇抜なものがあってもよかったと思っていた服部京子は少しがっかりしていた。
 そんな彼女の気持ちなど知らぬ二人は、大した情報も得られなかったということで、とりあえず、何かあったら、警察に遠慮なく来てほしいと言い残して、彼女をそのまま帰したのだった。
 服部京子の話を聞いた二人を待っていたのは、課長に少し遅れてやってきた捜査員の上野刑事だった。
「課長、鑑識の報告として分かったことを報告します。死因は首にあった搾状痕で分かるように、絞殺です。ただ、最初は細い紐で絞めたんでしょうね、その後で、今度はタオルのようなもので、再度占め直しています。どうしてそんなことをしたのかは分かりませんが、監視の話としては、どういう見解だそうです」
「では、死亡推定時刻は?」
「実はそれが曖昧でして」
「どういうことだ?」
「何しろ、熱湯がずっと死体に当たっていたので、正確なところは分からないだろうということです。今の科学でも、ここまで熱湯がずっと当たっていれば、少しの幅ができたとしても、それは仕方のないことだろうということでした」
「なるほど、私はお湯が出ていた場面を見ていないので何ともいえないが、そんなに熱いものだったのかね?」
「ええ、この洗面所は完全に湿気に満ちていて、湯気で真っ白になっていました。ここまで湿気と熱さはまるで熱帯のようでしたね」
 と門倉刑事は言った。
「それは本当にひどかったんだな。だけど、この事件現場は分かりやすいようで、謎が多いような気がする。分かりやすいというのは、あまりにも奇抜な演出は、犯人がこしらえたものだということが一目瞭然だということであり、分かりにくいというのは、もちろん、その趣旨が分からないということでだね。犯人が何を企んでいるのか、これほどいろいろ細工をしてあった中に、果たしてどれほどの真実があるというのか、そのあたりが問題なのではないだろうか?」
 この課長の言葉、どこまで課長の自信を持った言葉なのか分からないが、かなり的を得ていた発言であったのは、後になって分かったことだが、この時にはそこまでとは誰も思っていなかったので、課長の話を聞いていながら、
「これもただの捜査の一巻としての訓示だ」
 と思ってしまっていたのが、後になれば悔やまれるところでもあった。
 しかし、犯罪捜査というのは、案外こういうものなのかも知れない。ところどころにターニングポイントがあり、それをしっかり掴めるかどうかで捜査の進展が決まっていく。門倉も課長も分かっているのだが、これだけ犯罪の多い現実から、なかなかセオリーを抜け出すことはできないというものだった。
「一つ気になることがあるんですけどね」
 と、門倉が話し始めた。
「なんだい?」
 と、課長にも興味があるようだった。
「ちょっとした矛盾なんですが、この事件は、熱湯を垂れ流していたことで、犯行時間をごまかそうとしているように感じられるんですが、だったらなぜ、扉を閉めておかなかったんでしょうね。まるで早く発見してほしいような行動に思えるんですが、何となく矛盾のようなものを感じるんですよ」
 と門倉がいうと、
「それは確かに言えるよね。でも、扉を開けておいたのは、湿気がたまりすぎるのを警戒したからなんじゃないかな? 湿気がたまりすぎると、何か犯人にとってまずいことでもあったんじゃないかな?」
 と、課長は漠然と言った。
 もちろん、その言葉に信憑性はない。どちらかというと、クリ紛れの言い訳に近かったと本人も思っているほどだ。
 しかし、これも案外と的を得ている言葉でもあった。今回の事件は案外、課長の推理が今後の捜査二大きな影響を示すのではないだろうか。
 自信過剰なところのある門倉は、話を聞いてはいるが、あまり課長の意見を参考にすることはなかった。いつも一緒にいることの弊害が、二人の間にはあって、そのせいもあってか、どこか二人のギクシャクした関係が、見え隠れしている時がある。
 そのことを分かってはいるが、決して口にしないのが、鎌倉氏だった。たまに警察で厄介だと思える事件が勃発すれば、門倉刑事は自分で解決できないと思った時点で、頭をすぐに切り替えて、鎌倉氏に頼ることが多かった。
 しかし、課長はそこまで警察力というものに見切りをつけているわけではない。自分の立場においても、何とか警察力だけで事件を解決に導きたいと絶えず思っていた。
 それでもどうしようもない時は頼るしかないのだが、何でもかんでも自分中心に先走ってしまう門倉刑事に、半分閉口していたのも事実だった。
 ある日、課長が鎌倉氏の事務所を訪れて、談笑に時間を割いた時のことだったが、普段は門倉刑事と鎌倉氏という構図の部屋が、課長が相手ということで、どこか違う部屋に感じられるほど、門倉氏のイメージの沁みこんでいる部屋でもあった。
「門倉君には困ったものだ」
 と、課長は、鎌倉氏にはその気持ちを打ち明けていた。
「私は来る者は拒まない方なので、協力しますが、私の場合は警察の問題というよりも、私が気に入った事件なのかどうかで判断しますからね、それが警察と民間探偵の違いと言えるかも知れないですね:
 と鎌倉氏がいうと、
「だから、いつも窮々言っているわけですよね。鎌倉さんにも困ったものだ」
 と言って課長は笑うが、頭を掻くしかなかった鎌倉氏も、苦笑いするしかないのだった。
「門倉君というのは、どんな人なんですか?」
 と鎌倉氏が聞くと、
「彼は、ある程度真面目なタイプでね。あれでも、警察学校ではトップクラスの成績だったんですよ。キャリアであってもいいくらいなんでしょうが、彼は警察署で現場がやりたいということを直訴して、今は現場で頑張ってくれていますけど、そのうちにキャリアに戻ると、あっという間に上に上りつけてもいい人なんでしょうね」
 という話だった。
「そういえば、現場はいいよなって言っていたことがありましたね。深い意味では受け取らなかったですけどね」
 と、鎌倉氏は言った。
「警察官になる人にはいろいろな人がいます。正義感に燃えて警察官になる人、キャリアを目指す人、もちろん、ドラマなどを見て警察官に憧れる人もいますね。中には被害者の親族などもいて、自分の無念な気持ちを警察官になって晴らそうとする人もいるでしょう。門倉君を見ていると、そのどれでもないような気がしてくるんですよ。だからこそ、余計な棘のようなものがなくって、話しやすいし、付き合いやすい。だから、鎌倉さんも彼を買っておられるんでしょう?」
 と課長がいうと、
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次