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主犯と共演者の一致

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「奥様は今回の女性が殺害されるということを予期していたような気がするんです。そのことについて、ものすごく自戒の念を抱いていました。その理由まではよく分からなかったんですが、ひょっとすると、大曾根様がそれについて何かご存じかと思いましてね。それで少しお訪ねしようかと思ったんです」
 と彼女は言った。
「いや、そんな話は聞いていないですね」
「そうですか。奥様は私だけにお話しくださったんですね」
 と言って、電話を通してであったが、彼女の憔悴した感じを受け取ることができた。
「ところで、あなたと奥さんはどういう関係なんですか? ただの使用人と奥様というだけではないような気がするんですが」
 と大曾根がいうと、少し口籠っていたが、思い切って白状した。
「実はわたくし、使用人ではございますが、旦那様の妾でもあるんです。奥様もご存じの中ですね。旦那様は私以外にも他にも何人かそういう人を囲っていて、その人たちは、立場を変えて、それぞれ成果つぃをしながら、旦那様の庇護を受けているという形です。もちろん、それだけの金銭を頂いているので、納得の上だと思います」
 と彼女はそう言って、口籠ったが、まだ何か、歯にモノを着せないような言い方が気になったが、これ以上聞いても何も言わないような気がしたので、大曾根はそれ以上の言及を避けた。
 彼女には何かあった時、相談してくれていいと優しく告げて、電話を切った。どうやら不倫相手の旦那は、自分が思っているよりも、相当に傲慢で、同じ富豪の立場といえども、決して交わることのない平行線を描いた、一番嫌いなタイプの男性であるということがハッキリとした。
 それと同時に感じたのは、
――岡崎静香という女性も気の毒な女性だ――
 ということだった。
 彼女が麻薬をやっていたことは分かっていた。だからこそ、彼女を抱く気がしなかった。自分が製薬会社にいるということもあって、麻薬のような違法薬物が身体を犯している女性と、身体を重ねることは許されないと思っていた。実際にそれ自体が、まるで自分まで中毒を移されそうで怖いという思いもあった。
 大曾根は、聖人君子というわけではなく、女を囲ったりもしていたが、それでも、同じような立場の人間たちよりは、よほど正義感に満ちていると思っていた。金の亡者であったり、欲望の塊りでもないのは、彼が二世社長だというところから来ているからなのかも知れない。
 確かに初代で大きな財をなすというのは、きれいごとばかりではやっていけないのは分かっていることで、時には生き馬の目を抜くような行動力や、裏切りを平気でやるような精神の持ち主でなければならないだろう。
「悪魔に魂を売った」
 とまで豪語する人さえいるかも知れない。
 大曾根はさっきの衝撃的な使用人の話を聞いて、一つ疑惑があった。それは、
「この間殺されたという女性は、本当に妹なのだろうか?」
 という思いである。
 もし、妹ではないとすれば何なのか? それは、彼女の口からも出ていたように、妾の一人であったのかも知れない。奥さん公認であるなら、身元を奥さんの妹ということにして、マンションを借りさせ、彼女を囲うというやり方だ。男としては、何も肉体関係だけが快楽ではない。自分の力で女を思いのままに囲うというのも、大きな快楽ではないだろうか、支配欲というもので、それを生かしてくれるという意味でも、奥さんの妹という設定はかなりの支配欲を満たしてくれるのではないだろうか。
 それに気になったのは、
「奥さんが、彼女が殺されることを予期していた素振りがある」
 ということだ。
 誰に殺されると思ったのか、そしてその殺す犯人というのが誰だと思ったのか。それも、この旦那の変質的な支配欲がもたらした災厄だとすれば、旦那に対して、旦那自身が何かを起こさなくても、まわりにきな臭い犯罪の匂いが漂っていて、それを察知したとしても、無理もないことなのかも知れない。
 それを思った時、もう一つ大曾根には別の疑念が浮かんできた。
「ひょっとして、この旦那は、俺と彼女の不倫関係を知っていたのではないか?」
 ということであった。
 知っていて、奥さんにも知っていることを隠していたのだろうか?
「いや、知っていたのなら、何も隠す必要はない。ひょっとすると、奥さんの不倫を不問に付すという条件で、彼女にも自分の支配欲を満足させるために利用したのではないかと考える方が、しっくりくるような気がする」
 と、大曾根は考えた。
 大曾根はそれから、腹心の部下に命じて、旦那のこと、そして旦那の会社について調査をさせた。
 腹心の部下は黙ってしたがったが、
――なぜ、あの会社を?
 と感じていた。
 何しろ、その会社は業界でも、裏に入るとかなり悪どい企業であるということは、知られていた。大曾根は表に出ている企業に関しては結構詳しいが、影に蠢くこういった真っ暗な企業に関しては、ほとんど腹心の部下が携わっていた。この会社での立場の切り分けは先代からのやり方で、
「決して代表者としての社長は汚れ役であってはならない」
 という暗黙の了解があったのだ。
 そのことは大曾根も分かっているはずなのに、どうしたことなのかと思ったのだ。しかもその会社の評判はすこぶる悪く、しかも社長というのも、
「裏で何をやっているか分からない」
 というのが定説であった。
 腹心の部下はその会社のことをある程度までは分かっていたので、それ以上の捜査にはさほどの時間は掛からなかった。
「社長、よろしいですか?」
 と言って面会してきた腹心の部下は、その企業の悪徳な部分を一つ一つ聞かせた。
「あの会社はとにかくいろいろなことに手を出しています。表に出ていることはその氷山の一角で、詐欺や恐喝なども横行しているようですね。裏で暴力団とも当然結び付いていて、その資金源の一番は、違法薬物の密輸のようです。やつらは、その資金を使って、いろいろな事業に手を出しているというわけですね」
「よくそこまでひどいことをやっていて、捕まらないものだな」
「もちろん、危ない時もありますが、そんな時はいくらでも捨て駒がいるわけですから、何とでもなります。やつらは、人間を人間とも思わないところがあるという話もあります。下手をすると、その辺の暴力団よりも恐ろしいということになるんでしょうね」
「なるほど、ところで、調査をお願いしておいた赤嶺佐緒里という女性の方はどうなんだい?」
「ええ、彼女もしっかり社長の愛人でした。奥さんの妹などというのは、真っ赤なウソです。彼女は一週間ほど前に殺害されてしまい、今警察の捜査が入っていますが、このことが判明するのは、少し時間が掛かるかも知れませんね」
「というと?」
「何しろ、奥さんの妹という程度のことで、表向きには何ら囲われているという関係ではないですからね。もし、警察があの社長を殺害に関係があるということで徹底的に調べたりでもしない限り、発覚することはないかも知れないです。ただ、奥さんが自殺をされていますが、確かこの奥さんというのは、社長の?」
 とここまで言って、腹心の部下は少し黙った。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次