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主犯と共演者の一致

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 清楚な雰囲気の女性が好きな大曾根には、静香のような、
「大人の女性」
 は苦手であった。
 母親をイメージしているということもあったのだが、大曾根には実際に母親の記憶が乏しかった。
 大曾根が生まれたのは、父親が製薬会社を興す少し前で、その頃何をしていたのか、実は知らなかった。聞いたわけでもないし、父親も決して話そうとはしなかった。
 巨満の富を築き、自分の王国を建設した人にありがちな、
「黒歴史」
 それを家族、しかも子供には知られたくないという思いが強かったことだろう。
 その頃の父親が波乱万丈の人生であったことは想像がつく。それだけに母親もさぞや苦労をさせられたのだろう。大曾根が小学生になる頃、母親は亡くなった。どうして亡くなったのかということはハッキリとは知らなかったが、
「お義母さんには苦労を掛けたからな」
 と、何かあるたびに、父親から聞かされていた。
 大曾根本人は、三十前に結婚した。結婚相手はすでに決まっていた人で、別にこれと言って好きというわけでもなく、嫌いなタイプでもなかった。
 本当に嫌いな相手であったら、少しは結婚に抵抗もしたかも知れないが、素直に従ったのは、
「欲情してくれば、不倫でも何でもすればいい」
 と父親から教えられていた。
 不倫ができるほど、自分は不良にはならないと思っていたが、実際に大人になってみて、自分に対して言い寄ってくる女性を見ていると、そのほとんどが、どうでもいい女性であったが、中にはじ、
「純粋に自分を見てくれている」
 と思える女性も中にはいた。
 しかし
「不倫は敵」
 とまで思っていた大曾根に対してその気持ちを変えてくれた女性もいた。
 その女性とは今も付き合っているのだが、最近はご無沙汰している。途中まではお互いに連絡を取り合っていたが、彼女の旦那に不倫がバレそうになったということを彼女から聞かされて、
「じゃあ、連絡は君の方からしてくれたまえ」
 という話になり、大曾根の方から連絡を取ることはなくなっていた。
 そのうちに大曾根に他にも不倫相手が増えてきたのだが、それでも一番愛しているのは、最初に不倫をしたその女性であり、彼女との不倫がいかに大曾根を充実させてくれるかということを、考えさせてくれたのだった。
 大曾根と、その女性は一月近く連絡を取っていない。今までにも一月くらい連絡がないことは結構あったが、何か気になっていたのだ。
 そのうちに、風のウワサに、
「岡崎静香が殺された」
 という話が入ってきた。
 ラブホテルで女性の遺体が発見されたという話はニュースや新聞で見て知っていたが、まさかそれが自分の知っている女だとは、大曾根は夢にも思っていなかった。しかし、どこから伝わったのか、大曾根の耳に入ってきた。
 彼女と大曾根が関係しているということは、顧問の先生しか知らなかった。基本的に大曾根恭三というのは、フリーに行動していいことになっているが、一人だけは彼のことをすべて把握している人間が必要だということで、その白羽の矢は当然のことであるが、顧問の先生に委ねられた。
 もっとも、この提案は、大曾根本人が言い出したことで、決して顧問が言い出したわけではない。もちろん、大曾根が言わなければ、顧問の方から提案するところであったが、本人が提案してきたということは、それだけ大曾根の方としても、自分の中での危機管理ができているということなのか、それとも、一人では何かがあった時、解決できないことが出てくるという考えに基づくものなのか、どちらにしても、大曾根は経営者としての分別と力量を供え持っているということであろう。
「自分の弱さを知っている人間って、意外と強いものだ」
 という話を先代の父親から聞かされたことがあった、
 それを、
「なるほど」
 と言って聞いたその時には分からなかったが、実際に自分がこうやってトップに立つと、その時の言葉が頭によみがえってきて、今まで目標にしてきた上がいなくなってしまったことが恐ろしくなった。
 なんでも手には入るが、自分が決めたことですべてが動くと思うと、恐怖しかなかった。まわりも、
「しょせん、二世社長だ」
 という目で見るだろう。
 もし失敗すれば、二世だということだけで片づけられてしまう。それだけは避けたかった。
 精神的なストレスは大きなものだった。それに打ち勝つにはまず癒しがほしかった。それはオンナではダメだった。包容力があっても、包み込んでくれる相手でなければいけない。もし、叱られたとしても、そこに嫌味はなく、自分のためを思って叱ってくれているという意識がなければいけないだろう。
「叱ってくれる時に、相手の本音が見えるのではないか?」
 と、大曾根は思っていた。
 大曾根のような立場の人を怒るとなると、どうしても気を遣ってしまう。その時にどのような気持ちになるかということを想像できるような女性でなければいけないだろう。
「大曾根さんにとって、お母さんというのは、どんな人になるの?」
 とその女性は言ってくれた。
「僕はお母さんの記憶がないので、お母さんというのはこういう人だって感じさせてくれる人がいい」
 というと、その女性は、
「じゃあ、私には無理かも知れないわね。お母さんに近づくことはできても、お母さんをあなたがイメージできるようにはなれないと思う。私にはそれだけあなたに対して女性としての愛情があるのよ。それはきっと母性本能とは別のところのものなのね」
 と言っていた。
「そうなんだね。でも、今はお母さんに近ければそれでいい。僕はお母さんだと思ってもいい?」
 と聞くと、
「いいわよ、でもきっとお母さんと言える相手があなたには現れると思うから、私はそれまでの義理の母みたいなものね」
 と言って笑っている。
「それでもいいんだよ。お母さんというものがどういうものなのか、あなたから教えてもらえると思っただけでも、それだけでウキウキするんだからね」
 と言って、大曾根は普段見せない顔を見せるのだった。
 大曾根がそんなプライベートを続けている間、大曾根の知らないところで、薬が利用されていた。
 この会社は大きな秘密があった。大曾根は社長になって初めて知ったのであるが、この会社の急速な発展は、実はこの違法薬物の利用が大きかったのだ。
 中国におけるアヘンであったり、戦後のヒロポンであったりと、復興から経済を立て直すには、違法薬物の利用は不可欠であった、
 バブル崩壊と言われた経済の暗黒時をいかに乗り越えるかという場合、ありきたりの方法では乗り切ることのできるものではない。違法薬物などを利用するというのも、当然のことであり、それにより復活した会社を、誰が責めることができるというのか、社会倫理的には当然責められるべきものだが、、全社員が路頭に迷うようなことを、その時の誰が望むというのか、選択が間違っていなかったに違いない。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次