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主犯と共演者の一致

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 もっとも、これはAV事務所でスタッフは他の女の子から話が聞かれなければ思い浮かぶ発想ではなかった。そういう意味でスタッフや、あるいは自分がAVの神髄について話したことで何かを感じたのであろう。それは、AVを主観的に見ている自分であったり、スタッフには、思い浮かべることが困難な発想だったのだ。
 それを考えると上野刑事は、
――俺はまだまだなんだな――
 と思い知らされ、さらに門倉刑事の度量をいまさらながらに思い知らされた気がして、
――この人についていくことが誇りなんだ――
 と感じるのだった。
 この事件を思い返してみて、門倉刑事のいうように、麻薬を使う必要もないと二人が思っていたのだとすれば、二人に麻薬を進めて人がいるはずだ。そもそも麻薬なんてそう簡単に手に入るものではない。密売する方も、秘密がバレないように、相手を考えて売っているはずだ、岡崎静香のような客が安心できる客だったのかと言われると、厳しいものがある。その間に誰かを介していたと考える方が、より信憑性があると思われた。
 麻薬を使うようになったのは、実は一年くらい前からであった。この情報は少々後になってもたらされたものであったが、ということは、AVで働いている時というよりも、芸能事務所に入ってからの方だった。
 しかも、麻薬を媚薬と称して騙される形で紹介してくれたのが、事務所の先輩だった。もちろん、普通緒芸能事務所なので、普段は清楚な雰囲気ではあったが、どこか怪しげで、秘密めいたところがあった。実は、そんな彼女を警察の麻薬捜査犯ではマークしていて、この事務所もすでに内偵が進んでいた。
 麻薬の入手ルートを探しているうちに、この事務所に宿りついたということだが、これくらいの規模の中小下農事務所であれば、麻薬の匂いがあっても不思議はないという話でもあった。
 もちろん、麻薬などを取り扱っていない事務所も結構あるのだろうが、一つそういうところが見つかると、麻薬を取り扱う方としては利用しやすいのか、ズブズブの関係になってしまっているところもあるようだった。
 最近はネットを中心とした事務所もあったりするので、いろいろな事務所もあり、麻薬捜査もなかなか手を出しにくいようなのだが、それだけに、一度見つけたルートに対しては執着がすごく、決して逃さないだけの覚悟を持って捜査をしていた。
 その事務所の媒介者として君臨している女優から入手した媚薬を、黒熊とのプレイでずっと使用していた。ただ、始めたのが最近だということは、門倉刑事の想像が外れていることも示していた。
「二人は、麻薬を使う一つなどない」
 という意見であった。
 ただ、そんな中、
「ずっと続けるわけにはいかない」
 という意思を持っていたのは事実のようだ。
 そのために、やはり想像した通り、彼女には精神的な支柱になってくれるような男性がいたようで、その人はそれなりに社会的な地位のある男性だということだった。
 麻薬常習犯で、猟奇プレイを好む女性に、どんな社会的な地位を持った人間がくっつくというのか、実に不思議だった。
 相手の男性は、彼女をオンナとしてかわいがることはしない。ただ、その男性の心を隙間を埋めることができる女性が彼女だけだったのだ。
 男性の方も、立場や性質的なものよりも、自分に対していかなる言葉を放ってくれるかということだけを与えてくれる女性を求めていたのは事実だった。
 変にプライドがあったり、欲のある人間に対しては、すでに吐き気がするほど嫌だったので、そんな飾った雰囲気のない女性を求めていたのだ
 どこか自虐的で、好きに気持ちを表に出すだけで、好きな相手に対しては言葉にも妥協のないような女性、そんな人というのはなかなかいないものだ。だが、求めているもののインスピレーションがほぼ近いと、お互いに少し距離があっても、まわりにたくさん人がいても、その相手が近くにいることを悟り、目の前に来た時、その人だけにライトが当たっているかのように見えるのではないdろうか。
 そう思うと、二人は、いわゆる普通の、
「運命の人」
 という関係ではなく、
「運命の相手」
 と感じるのだろう。
「交わす言葉が、二人にとっては異次元で、話の内容は、静香からすれば、猟奇プレイで身体が感じていることを、彼の言葉が、気持ちを感じさせる力を持っているのかも知れない」
 と感じているようだ。
 二人は、お互いが遭っているところを隠そうという思いはなかった。しかし、それはお互いが身体を求めているというからではなく、健全な付き合いだということを自覚するためであり、そういう相手が自分にはいるんだという気持ちを持ち続けたいという気持ちが強かったからであろう。
「ねえ、私って、そんなに魔性な女に見える?」
 と聞くと、
「そうだなあ、僕から見ればそう見えるかな? でも、そう見えている方が、君は君らしくいられそうな気がするんだよな」
 と言っていたことがあった。
 その男性は、どういうつもりでそういったのかは分からないが、
――もし、自分に何かがあったら、この人はどういう行動を取ってくれるんだろう?
 と考えたこともあった。
 この男性は、黒熊のことは当然知っているだろう。そして、その存在が岡崎静香にとって、肉体的な関係でしかないということも分かっているはずだ。そんな彼が何を考え、静香とどう接してきたのか、分かる人などいるのだろうか?

              薬物入手

 このパトロンと言ってもいい人物は、名前を大曾根恭三という。昭和の頃から続く製薬会社の二代目社長になるのだが、初代社長は。昭和の終わり頃、バブル景気の流れに乗り、かなりの財を成すことに成功した。その時、下火になりかけていた製薬会社の株を取得し、会社の経営権を取得した。
 立て直しには経営コンサルタントを雇ったのだが、その男が優秀で、いかんなく手腕を発揮し、一気に潰れそうになっていた会社を立て直した。
 先代大曾根はその男を顧問としてしばらく経営に参加させていたが、次第に彼は他の業種に転換していった時、その手腕を継承する形で、別の人間を推薦した。その男も充実に前の顧問のやり方を継承し、バブルが弾けた暗黒の時代も何とか乗り切ることができたのだった。
 しかも、当時はバブル崩壊のせいで、金融機関まで倒産の憂き目に遭い、どこかと合併しなければやっていけないという状況に追い込まれた。そこで救済を求めていろいろな製薬会社が大曾根の会社と合併を要請してくる。顧問によってしっかりと吟味され、大手三社ほどが吸収合併されることになった。もちろん、大手三社の中には、それ以前にそれらの会社に吸収された数多くの中小製薬会社が存在したのも事実で、その中には闇の力を持っている会社もあった。
「会社の規模さえもう少し大きかったら、持ち直すことができたのに」
 と言われるような会社である。
 そんな企業の細かい情報もしっかり仕入れたうえで、合併会社を吟味した顧問は、実に経営の才能が天才的だったと言えるだろう。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次