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主犯と共演者の一致

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「AVの撮影というのは、議事の行為であったりしますが、お互いに撮影中は相手のことを思いやっていないとなかなかうまくはいかないものなんです。いわゆる息が合っているとでもいうんですかね。それがないと、いい場面は撮影できないし、ぎこちなくなってしまうものなんです。お互いに安心できるとでもいうんですかね。でも、あの二人にはそんなものはなったんです。お互いにお互いの性を求めるだけというのか、本能の赴くままにとでもいえばいいのか。だから、誰にもマネのできない撮影もできるわけで、そういう意味でリアルな猟奇プレイには二人はピッタリだったんです」
 というスタッフの話を聞いて、
「じゃあ、二人には他のパートナーはありえないと?」
「水島裕子、いわゆる岡崎静香の場合はそうだったんですが、黒ボール熊井こと黒熊五郎は、他の人がパートナーでもいけました。彼の場合は逆に他の人がパートナーの場合は、本当に気を遣ってくれるんです。だから女優連中にも人気がありましたし、我々も彼との撮影では安心できました。だけど、あの女と猟奇的な映像を取るころが多くなると、他の人との辛みが減ってきたんです。彼がやりたくないと言っていたようなんですね。どうもそれも水島の手によるものだったようで、二人の間でどのような話があっていたのかは分かりませんが、そのうちに、水島裕子が勝手に辞めていったというわけです。表向きは、普通の女優になりたいということでしたが、どうだったんでしょうね。彼女のような魔性の女に普通の女優なんか務まるわけがないというのが我々の一致した意見でした」
「なるほどですね」
 と門倉刑事がいうと、
「僕は、実は学生時代からAVを結構見ていたことがあったんですが、AVと言っても女優も男優もその演技力に関しては、他の人気俳優には負けないと思っているんです。だって、濡れ場の撮影などの緊張感はハンパではないでしょう? AV作品の中で、AV女優のドキュメンタリー作品があって、それを見た時、その緊張感も伝わってきたんです。つまり濡れ場というのは、他のドラマなどでは、クライマックスなシーンと同じなんですよね。ひょっとするともっとすごいかも知れない。緊張感は自分を孤立に持っていきます。それを助けてくれるのは、相手の男優とスタッフの優しさではないですか。それをひしひしと感じられるから、白進の演技ができるんじゃないかって思うんですよ」
 と上野刑事は言った。
 スタッフのその言葉に感銘を受けたようで、
「刑事さんの言われる通りです。僕たちが本当は声を大にして言いたいけど、なかなか言える機会のないセリフをよくぞ言ってくれました。そうなんですよ。皆そういう助け合いの中で出来上がる作品なんですよ。しかも、出演料はそんなに高くない、だから人気女優になどは、年間にひ百本以上の作品に出演する。これはとてもハードです。一週間に日本は撮影していることになりますからね」
「それだけの撮影を重ねれば、熟練してくるのも当然というわけですね。いやいや。これは奥が深い話をありがとうございます」
 と警察の方も素直に感慨を深めたようだ。
「そういう意味で水島裕子という女優は異端でした。でも、彼女のようにプライドだけが高い女優というのはいるもので、ここを追われるように辞めていきましたが、普通の芸能事務所でまともに働けるわけもなく、すぐに辞めたと聞いて、なるほどと思いましたが、まさか結婚していたなどと思いもしなかったので、そこは本当に意外でした。きっと誰にも想像できなかったことではないですか。死んだ人を悪くいうのもなんですが、殺されたと聞いて、驚きはしましたが、かわいそうだとは思うことができませんでしたね」
 とスタッフの一人は答えた。
 岡崎静香に対してのイメージはあまりいいものではなかった。この後数人の女優さんや男優さんに個人的に聞いてみたが、誰の話もスタッフの話とそれほど変わるものではなかった。しかし、だkらと言って、それ以上の話が聞かれたというわけではなく、ある意味秘密性のない、分かりやすい性格の女であるということも分かったのだ。
 また、男の方の黒ボール熊井こと、黒熊五郎にしても同じだった。
「黒熊さんは本当にいい人なんだけど、どうしてあんな女に引っかかってしまったのかしらね。不思議だわ」
 と言っていた。
 警察は、二人が麻薬常習犯であったことを、スタッフや他の人には話さなかった。わざと話さなかったわけで、直接殺人に関係なければ、という思いがあったのだろうか。だが、この話をしなかったのは亜土蔵刑事の個人的な判断で、なぜ話さなかったのか、上野刑事には理解できないtころであった。
 だが、上野刑事はそのことを門倉刑事に追求してみようとは思わなかった。門倉刑事には何か考えがあるからではないかと思ったからで、必要以上なことは聞かなかった。
「それにしても、岡崎静香という女は相当嫌われていたということは言えそうですね。そのせいからか、孤独な毎日だったんじゃないかと思います。そして今まで聞いてきた話を総合して考えた彼女の性格は、きっと負けず嫌いだったんじゃないでしょうか? だから孤独でも虚勢を張って、まわりに孤独だということを思わせないようにしようとはするんだけど、すればするほど、その性格が表に出てくるというか、分かりやすい性格と言えるんじゃないでしょうか?」
 というのが、上野刑事の岡崎静香評だった。
「それは間違いないと私も思う。だけど、それが黒熊五郎に対してはどうだったんだろうね? 少なくともプレイに興じている時は、感情を表に出すことはなかったような女に見えるんだけどね。だから、変態的なプレイであっても、それだけに感情を入れずに、単純にその刺激を楽しもうとする。相手がSであれば、そんな相手ほど興奮してくるものであって、もし、感情で結び付かない男女のパートナーが存在するとすれば、この二人のようなパターンでなければありえないことではないかと思うんだ。この黒熊という男は、岡崎静香の欲求を十分に満たしてくれ、黒熊の欲求も同時に満たされる。そこにはまったくの感情などない、そんな構図ではないだろうか」
 と、門倉刑事も言った。
 門倉刑事はさらに続けた。
「こんな二人なので、本当は麻薬の力なんか借りる必要もなかったと思うんだ。だが、その麻薬にどちらかかは分からないが手を出した。このあたりがこの事件の裏に隠された何かではないかと思えるんだ」
 この話を聞いて。先ほど感じた門倉刑事への不信感が消えてしまった。
――こんなことを考えていたのか――
 どうしてさっき、AV事務所で麻薬の話をしなかったのか疑問でしかなかったが、こうやって門倉刑事の口から聞いてみると、
――やはり、この人は僕なんかよりもずっと先を見つめて、捜査しているに違いないんだろうな――
 と感じた。
 自分は、麻薬そのものが、この事件の表に出たことの一番大きくてセンセーショナルな事実なので、この事実を強調するような形で捜査していけば、二人の知られていない事情を垣間見ることができると思っていた。
 しかし、門倉刑事はその上を行っていて、二人が麻薬を自分から使ったのではないという、思ってもいなかった発想をしていたのだ。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次