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主犯と共演者の一致

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「二の腕の静脈や手首、そして足首あたりを見ると常習であるのは一目瞭然なのだが、死体発見現場には、彼の所持品は何も残っていなかった」
 と門倉刑事がいうと、
「犯人が持ち去ったんでしょうかね?
と捜査員の一人が聞くと、
「何を理由に? 身体を見れば解剖する以前にでも一目瞭然なのに、持ち去る意味もないと思うが。またその場に彼の所持品は何もなかった。薬物関係以外のものを残したくなかったのか、それとも、もう一つ大きな疑惑として、殺害場所が別にあって、殺されてからあの場所に運ばれたという場合であう。もっともその場合は、明らかに共犯者が存在しているということになるんだろうな。一人で死体を三階まで運び込むのは大変だし、目立ってしまう。工事現場なので、二人で袋に詰めた大きなものを運ぶ分には目立たないけどな」 
 と、門倉刑事は言った。
「僕は第二の殺人に大きな疑問があるのではないかと思います。この疑問を解決しないと先に捜査が進まないというか、逆にこの疑問が解けると、事件の概要が見えてくるのではないかと感じることです」
 と上野刑事が言った。
「それはどういうことだい?」
 と、門倉刑事も上野刑事が何を言いたいのかは分かっているつもりだったので、顔をニンマリとさせて話を聞いていた。
「僕が考えているのは、第二の殺人が、殺意のあるものだったのかということです。二人はSMプレイというアブノーマルな行為に興じていたふしがあります。しかも麻薬や媚薬を使っていた。ただでさえ危険なトランス状態なのに、そこに持ってきてのSM行為、これはもう常軌を逸した行動と言ってもいいでしょう。まさしく自殺行為。それを思うと、僕はこのは殺意のない、過失致死ではないかと思うんです。指紋が中途半端になったのと当然と言えば、当然でしょう」
 と上野刑事は言った。
「すると、三人目に殺された人間が第二の殺人の犯人だということになると、被疑者死亡ということになっちゃいますね。でも、そうなると、その男は誰から何のために殺されたのだろう?」
 と、もう一人の捜査員が言った。
「それにはまず、それぞれの事件に登場してくる人間を一人残らず調査してみる必要がある。今ここでこうやって話をしているのは、実際に見えている状況からの想像がつよくて、実際の調査から得られた情報でもない。確かにこうやって事情が刻々と変わっているんで、なかなか状況を掴むことすら難しいのかも知れないけど、警察とすれば、想像だけで推理できるものでもない。まずは地道な捜査が必要だ」
 と言って、まずは登場事物の過去を洗って、その中でそれぞれの人間の性格の特定と、それぞれの事件の関連性につなげる必要があるように思えた。
 その日の捜査会議は、それ以上語られることはなかった。すべてが想像でしかない以上、時間の無駄と言えたからだ。
 翌日になって、第三の殺人で殺された男の身元が判明した。
 男は名前を、黒熊五郎と言った、
「黒ボール熊井」
 という名で、AV男優をしていたという。
 その名前はAVファンであれば誰でも知っているような、AV男優の中でも一流と言われるベテランだった。
 当然のことながら、黒熊と岡崎静香は、AV時代からの知り合いで、二人がくっついていたなどということは、当時のAV業界では公然の秘密のようだった。
 ただ、それ以上にビックリしたと当時の仲間に聞いてみると、その二人の仲がまだ続いていたということだった。
「二人ともに結構飽きっぽい性格だったようで、しょっちゅう何かあるたびに喧嘩していたよ。理由なんて何でもいいんだけど、喧嘩することが二人にとっての意義を確かめ合えるような仲だったようにも思う」
 と、付き合っていたことは分かっていたが、どうしてあんな状態で仲が続いてきたのかが分からないという。
 そこで、岡崎静香が死んだ時の様子を話すと、
「なるほどね、身体だけの関係だったとすれば、十分納得できるわ。もしそこに感情が関わってきたのであれば、お互いに遊びのないギリギリの関係で付き合っていくことになるはずなので、耐えられなくなるんじゃないかしら? ひょっとすると、二人には感情を通わせるための相手がそれぞれにいたのではないかと思うわね」
 と、AV関係者が言った。
「でも、静香さんは本当に変態チックなところがあって、SMプライだったり、猟奇的なプレイも好きだったりしていたわ。そんな彼女を精神面だけで満足させる男性なんて、本当にいるのかしら?」
 という話が出た。
「でも、それはあくまでもAV世界の問題で、映像の中でだけのことでしょう?」
 というもう一人の女優が言ったが、
「何言ってるの。あの人の作品は、そのほとんどは、地が出ているのよ。SMプレイだって本気で喜んでいたし、でも、そこまでできる人は、そういうプレイに自分を当て嵌めることができる人なの。だからそんなプレイはいつも本気モード。だから人気が出るんだし、見ている方にもその本気取って伝わるものなのよ」
 と言っていたが、警察関係者には、何が言いたいのか分からなかった。
「要するに、彼女の場合は、撮影中はいつも真剣だったということなのでしょうか?」
「それは言えると思うわね。だって、真剣にならないと、出せない魅力を出していた。ただ、最初は持って生まれたそういう性格をいかに表に出せばいいのかって悩んでいたようなの。でもその問題を解決してくれたのが、黒熊という男優だったのよ」
 とAV関係者がいうと、門倉にはその話がイメージ的に分かったような気がしたが、上野には理解しがたいところがあった。
 よくいえば、それが上野刑事の若さなのだろうが、悪く言う場合には、またこの若さが出てくるのだ。
 つまり、長所と短所が紙一重であるということが、ここで証明されたかのように感じられたが、二人がどのように付き合っていたのかが、まだまだ想像に域に達することはなかった。
 とりあえず、二人の他の見えていない相談相手を見つけることが急務であろう。
 まずは、最初の犠牲者、岡崎静香について捜査が行われた。AV事務所で聴いたところでは、今彼女と交友がある人はいないのではないかということだった。一つの理由としては黒熊を自分のものにしているというところが一番の問題だったようで、実際にはこのことを口にするのはタブーだったようだが、皆の様子がぎこちなく、
――どこかおかしい――
 と門倉刑事に睨まれて、若干強い取り調べが行われたことで、やっとその理由が分かった。
「これは殺人事件の捜査なんだ」
 というベタなセリフではあったが、一番強く心に刻む言葉でもあった。
 逆にいえば、業界の人の中でも、二人が命を落としたのは他人事ではなく、
「いずれは自分にもありえることだ」
 ということを、皆分かっていたからなのかも知れない。
 しかも、関係があると思われていた二人、黒熊と静香が殺されたということが問題だった。
 あの二人はまわりからあまりよく思われていない相手同士だったのだ。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次