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主犯と共演者の一致

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 しかも、そのコンビの相手が、今では飛ぶ鳥も落とす勢いと言われる門倉刑事ではないか。二人が喜ぶのも無理はなかった。
 そして、二人にとっての初めての事件と言ってもいい。まさか二人が揃って、死体の第一発見者になるなど、思ってもみなかった。それを後ろから上野刑事と門倉刑事が見守ってくれているという構図を感じた。
「ところで、君たちはどうしてここに?」
 と門倉刑事が聞いてきた。
「実は先ほど、交番に、ここで人が殺されているという通報があったんです。通報者はすぐに切ってしまいましたが、無視もできないと思ってやってきたわけです」
 それを聞いて、門倉刑事と上野刑事は無言でお互いの顔を見あった。
 そして、門倉刑事は諭すように言った。
「なぜ、我々に連絡しなかった?」
「相手がすぐに切りましたので、悪戯かも知れないと思ったんです」
「そうか、それは仕方がないな」
 というと、今度は警官の方が聞いた。
「お二人こそどうされたんです? ここの捜査か何か必要でもあったんですか?」
 と言われて、
「お前たちと一緒だよ。署の方にも怪しい男から通報があったんだ。年には念を入れたものだな」
「犯人でしょうか?」
「そうなんだろうと思うぞ。わざわざ交番と警察署の両方に通報するなんて、今までにそんな話を聞いたことがない」
「どういう心境だったんでしょうか?」
「うん、まともな神経ではなさそうな気がするな。それとも何か犯人にとって両方に通報しなければならない何かがあったんだろうか?」
「それは何でしょう?」
「いや、まだ分からないよ。何氏と、建設中のマンションで、死体が見つかるなんてな。工事関係者の人だっているだろうに」
 と門倉刑事がいうと、
「それだったんじゃないですか? 工事関係者に先に発見させるよりも第一発見者を警察の人間にしておきたいという思いがあったのかも知れませんね」
 と言ったのは上野刑事である。
「そうかも知れないな、いや、今現在では、上野刑事の意見が一番的を得ているかも知れない。そう思うとこの事件が何を意味するものなのか、分かってくるかも知れないな」
 と門倉刑事は言った。
 そうこうしているうちに、kン死期が到着、警官二人によって、立ち入り禁止のロープが張られ、いよいよ事件現場としての様相を呈してきた。
 課長や他の捜査員も到着し、
「お疲れ様です。見ての通りです」
 と門倉刑事がいうと、
「一体どうしたことなんだ。ここ半月の間に、殺人事件が三件も同一管内で起こるなんて、普通は考えられないよな」
 と課長も言った。
「でも、そう考えると、この三件の事件、まんざら無関係とはいえないんじゃないかと思うんですが」
 と、上野刑事が言った。
「そうかも知れないな。単独で調べていくよりも、この事件の接点を考えていく方に捜査の方針を向けるのがいいのかも知れないな」
 と課長がいうと、
「とりあえず、単独で事件の捜査を行いながら、この三件のつながりも探っていくようにするのが、いいかも知れませんね」
 と門倉刑事は言った。
「門倉さんは、この三件に関連ははいと思われているんですか?」
「いや、そうは言ってないんだ。ただ、今のところ、犯行の手口も関係者のつながりも一貫性という意味で何も見えてこないじゃないか。でも、今度の事件が起こったことで、それが見えてくれば、いいかも知れないと私は思っている」
 と、門倉刑事は言った。
 警察がバタバタと騒ぎ出したところで、工事現場の人たちが数人、気になって入ってきた。やはり表の明かりは、居残りで数人が工事をしていたことによるもので、そうでもなければこんなに早くここに入ってこなかっただろう。
「一体、どうしたんですか?」
 と工事現場の責任者のような人が恐る恐る制服警官に聞いた。ヘルメットに作業服で、明らかにここの工事を請け負っている会社の人間であると分かると、警官はすぐに上野刑事を呼んだ。
「実はここで死体が発見されたんですよ:
 というと、
「えっ、そうなんですか?」
 とビックリしたように工事現場の人は驚愕していた。
「あなたがたは、ここの工事現場の人ですよね。何かお気づきになりませんでしたか?」
 と聞かれて、
「我々は、ここを直接工事している会社ではないんです。マンションの外装関係の仕事を請け負っていて、表が我々の作業場なんです。今はマンション建設もその時期なので、実際にマンションの工事を直接管理している会社は、ここ一週間ほど、お休み状態です。今日でちょうど四日目くらいでしょうか?」
「じゃあ、この部屋にも?」
「ええ、昼間でもたぶん、業者は入っていないと思います」
「じゃあ、ここに仮に人が入り込んでも分からない?」
「そうでしょうね。今の時期は工事関係の業者が数社入っているので、工事関係の服を着ていたり、スーツであっても、ヘルメットをかぶっていれば、誰も怪しむことはありませんよ」
 ということだった。
「ということは、皆さんに、怪しい人間を見たかどうかと聞いても、ハッキリとは断言することは難しいんでしょうね?」
「ええ、そういうことになります。何しろ他の業者の人間は、他の現場であったことがあるかも知れないという程度で、まったく知らないと言ってもいいですからね」
 工事現場の人の話はその程度で、これ以上話しても、新たな証言を得られるようなきがしなかった。
「ありがとうございました。またお伺いすることがあるかも知れませんので、連絡先だけは教えておいてください」
 と言って、警官二人に振り返り、二人にその指示を行い、現場に戻っていった。
 鑑識が捜査した中で、
「門倉刑事」
 と、鑑識のベテランで、門倉刑事とは懇意の主任が、門倉刑事に声を掛けた。
「どうしたんだい?」
「どうやら、この仏さん、死後二日くらいは経過しているようですね。それに気になるところとして、胸から出ている血液、少々少ないように見えるので確認しましたが、ひょっとすると、犯行現場はここではないかも知れません。ハッキリとしたことは何とも言えませんが、血液の量と、争った形跡もないので、可能性的には五分五分かも知れませんね」
「なるほど、工事関係者の連中の話でも、いくつかの業者が入っていたというので、作業員に変装すれば、死体を大きめの麻袋にでも積んで、猫車か何かで運び込めば、決して怪しまれることはないわけだ。そう考えると、他の場所で殺されて、ここに運ばれた説は、ありえるかも知れないですね」
 そこに上野刑事も加わってきて、
「でも、もしそうだとすれば、ここまでどうして運んだんでしょうね? 死体を隠そうとする意図はまったくないようだし、しかも、発見してほしいと思ったから通報しているわけですよね」
「どうやら、死体発見が今でなければ困ることでもあったのかな? アリバイに関係しているとか、それとも、発見されるのがすぐでは困るが、かといってあまり発見が遅れると、今度は死亡推定時刻が判明しにくくなると思って、この時期に発見させるようにしたのか、少なく十今発見されなければならない理由があったのは確かなのかも知れないな」
 と門倉刑事は、上野刑事にそう話した。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次