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主犯と共演者の一致

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 と電話に出た警官がそういうと、
「そのビルの三階部分、たぶん、三〇一の部屋になると思われる階段を上がったすぐの部屋に入ってみるがいい」
 という話だった。
 その声は男なのか女なのか判断がつかない。明らかにボイスチェンジャーを使っていて、声から男か女かの識別もできないようにしたのだろう、当然相手の名前を聴いても答えるわけもなく、電話はすぐに切れた、
 悪戯かも知れないとも思ったが、何もないならそれだけのことであり、
「よかった」
 ということで済むではないかと思い、警官はパトカーで相棒と一緒に乗り込んでいった。
 果たして、指定された交差点のそばには、建設中のマンションがあったのは知っていたが、もうここまで出来上がっているとは思っていなかった電話を取った警官は、パトカーをマンションの前に留め、階段を上がっていった。マンションはまだ建設中であり、しかもパトカーなので、駐車禁止を気にする必要もない。
「気を付けろよ」
 とお互いに声を掛け合って、ゆっくりと階段を上がっていく。
 本当なら警察署の刑事を同行させたいところであったが、最近は殺人事件が横行していて、こんな悪戯かも知れない通報に、いちいち動向を求めるのは忍びなった。怒られるのも癪だと思っていたからだ。
 二人の警官は、それぞれにまったく別の思いがあった。
 電話に出た方の警官は、
「最近は、殺人事件が横行している。これをデマや悪戯だとして簡単に放置などできるわけはない。きっと何かある」
 と思っていたし、もう一人の連れてこられた警官の方は、
「確かに最近事件が多いが、二度もあったのだから、三度もあるというのは偶然としては重なりすぎだ。もし重なったら、連続殺人ということになり、今のところ二つの事件に綱g李などないのだから、今度は完全に悪戯に決まっている」
 という思いを抱いていた。
 それでもついてきたのは。あくまでも何かあると思っている同僚に、
「そら見たことか、そんなに事件ばかりがあってどうするんだ」
 と言って、嘲笑ってやりたいという気持ちがあったからだ。
 もっとも、事件などあってほしくないという思いは二人とも共通している。電話を取った方の警官も、
「笑い話で済むのであれば、どれほど気が楽なことか」
 と考えたのだ。
 二人は、そんなことを思いながら、ほとんど暗くなってしまった誰もいない工事現場を懐中電灯に晒しながら歩いていた。
「どうやら、今は工事は中断しているようだな」
 工事というと、進む時はかなり進むが、なかなか一連の流れでは進んでいることはない。どうやら、途中で工事が中断されたりすることも多いようで、その理由は一介の警官に分かるはずもなく、ただ進んでいない工事現場が誰も掃除もしていないことで荒れているのを見るのは、あまり気持ちのいいものではない。
「さっさと工事を済ませればいいのに」
 と、真っ暗な中懐中電灯をスポットライトとして進まなければいけない自分たちが情けなく感じられた。
 いくつかの部屋があることは分かり、間仕切りや壁もある程度まではできていた。ここが何の部屋なのかというところまではある程度まで分かるようになっている。きっと近いうちにモデルルームもできて、入居者募集を始めるのであろう。
 中に入ると、今度は窓ガラスから入ってくる光で部屋に入った方が明るかった。すでに部屋としてある程度までできているところもあり、特に浴室やトイレなどは、浴槽も便器もついていて、洗面所も備え付けられていた。さすがに水道が通っていないので水が出ることはないが、真っ暗な部屋を抜けて中を通っていくと、不気味ではあったが、明るさが幾分か勇気を与えてくれた。
 ただ、考えてみればすでに日は暮れていたはずなのに、この明るさはおかしい。どうやら、他の部屋か、別のフロアで夕方以降も作業をするために、表から照明が当たっているということなのかも知れない。
「誰もいないと思っていたのは、正面から入ってきたからなのかも知れないな」
 と、一人の警官がそういうと、もう一人も同じ思いだったのか、頷いていた。
 一通り見渡したが、人が死んでいるのが分かるような大きな物体や塊りは見つからない。
「やっぱり悪戯だったんじゃないか?」
 と言われて、
「うん、そうかも知れないな。でもその方がよほどいいじゃないか」
 というと、
「そうだな。早くこんな気持ち悪いところから帰ろうぜ」
 と、とにかく一刻も早くこの場所から離れたいという思いが強かったのだろう。
「ちょっと浴室を見て来よう」
 と言って、念のために浴室に入ってみると、
「ぎょっ」
 という低い声で相棒が唸ったので、もう一人もビックリして、
「何かあったのか?」
 と声を掛けると、
「人が、人が死んでるんだ」
 と言って、声は完全に震えていた。
 それを聞いてもう一人の警官が中に入ると、やはり一瞬たじろいだが、そこに死体があるという話は間違いのないことだったので、すぐに気を取り脅した。
 そこには、男が鬱咽に倒れていて、顔だけがこちらを向いている。表情は断末魔を呈していて、顔色はまったく血の気がなく、凍り付いたような瞼を見るだけで、その男の息はすでにないことは一目瞭然だった。
 欲見ると、まだコンクリートが裸で何も塗装もされていない床が真っ赤に染まっていて、胸のあたりから円形を描いた放射状に真っ赤な鮮血が飛び散っているようだった。
 抱き起こすまでもなく、少しだけ浮いた身体を見ると、胸に短剣のようなものが刺さっているのが見えた。
 明らかに刺殺である。いや、見るからに刺殺と言うべきか、犬歯が行われないとハッキリしたことは言えない。二人は、自分たちが警察官であることも忘れてしまったかのように立ち竦んでいた。
 そんな時、後ろが何やら騒がしいのが聞こえた。
――工事現場の人たちかしら?
 と思ったが、そう思うと、急に警察官としての自分の立場を思い出し、もし部外者であれば、中に立ち入らせないようにすることと、急いで警察署に連絡をしなければならないと思ったのだ。
 すると、騒がしいその声は次第に近づいてきた。だがsの声の一人に聞き覚えがあった。懐かしいというわけではなく、ごく最近も聴いたような、そして気安く話をした相手のような気がして、その声を聞いただけで安心感がよみがえってくるようなそんな声だったのだ。
 果たしてその声の主が現れた。
「ん? お前たちどうしてここにいるんだ?」
 その声はもう身がまうだけのことはない。その人は間違いなく、上野刑事だったのだ。
 そして、上野刑事と一緒にいるのは、門倉刑事であった。二人がコンビだということも交番の警官も知っていて、
「これは最強のコンビじゃないですか」
 と、彼らも上野刑事をからかったものだ、
 上野刑事とは、警察学校時代以来の知り合いであった。上野刑事が二年くらい先輩ということもあり、しかも刑事志望だったこともあって、刑事課に配属された時には、この二人の警官も一緒にお祝いをしたものだった。
「我らが誇り」
 とまで思っているほど二人は、先輩に上野刑事がいるというだけで、心強かったのである。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次