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主犯と共演者の一致

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「でも媚薬として使用しているだけだと言えば、彼女も信じたんじゃないだろうか? もっとも信じないまでもしなければいけないということになっているのだから、当然媚薬でも何でも使って、その場をやり切らないと、彼女の中にプロとしてのプライドがあったのだとすれば、それは使用するだろう」
 と、門倉刑事は言った。
「となると、やっぱりあの会社、胡散臭いわけだ。自分のところの女優を何だと思ってやがるんだ」
 上野刑事の中の正義感が燃え上がってきた。刑事をしているのだから、耐えがたいことも結構あるのだが、こんなにやるせない気分になったのは久しぶりだった。
 改めて、
「麻薬の恐ろしさ」
 と身に染みて感じられ、身体がワナワナと震え、歯ぎしりしてしまうそうなくらいの怒りがこみあげてくるのを感じた。
 その時、また思い出したのが、
「勧善懲悪」
 という言葉だった。
 またしても、あの少年の顔が思い浮かんでくる。上野刑事は自分が子供の頃と被って見えてくるようで、あの少年のことも忘れられない一人であった。
 ただ、今は可哀そうに、馬車馬のようにこき使われ、ボロ雑巾のようになって捨てられた静香を思うと、胸が張り裂けそうに感じられるのだが、彼女の死が間接的にであるが、AV制作会社の犠牲になってしまったかと思うと、またやり切れない気分にさせられたのだ。
 だが、今回は彼女は誰とこのような行為をしたのだろう? この行為が常習的なもので、相手はいつも同じ相手なのか、違う相手なのか、もし違う相手であれば、毎回違うということにもなり、必ずしも知り合いとは限らなくなる。
 いつも同じ相手ではもう耐えられなくなり、毎回違う。しかも、知らない相手だということに興奮するようになっているとしたら、彼女もすでに、末期症状だったのかも知れない。
「せめて、相手がいつも同じ人であってほしいな」
 と上野刑事は言ったが、門倉も同じ思いであるのは、間違いなかった。
 もし、そうであったとしても、これが殺人ではなく、過失致死だったということになればどうなのだろう? もっとも罪状などは、犯人が逮捕され、拘留中に起訴が決まり、そこからの裁判で、検察側からの求刑、そして、裁判長、あるいは裁判員による最終判決で罪が決まるものである。
 その中には情状酌量やなどが考慮され、減刑されることもあるだろうが、この場合、一番問題となるのは、殺意ということになるだろう。
 もし、殺意なき場合はまず過失致死になることは間違いない。ただ、この場合、被害者を見捨てて帰っているので、救護に対する義務違反と、死体遺棄殿二つが罪状に含まれても仕方がない。この二つを、まったく意識がなかったなどということは無理なことであるから、弁護士はきっと殺意だけを持ち出してくるに違いない。完全な無罪というわけにはいかないだろうが、少なくとも殺人でなければ、執行猶予というものもあり、執行猶予がつけば、裁判では弁護側の勝利と言えるのではないだろうか。
 しかし、もう一つの問題は、
「ホテルという密室なの中で何が行われていたのか?」
 ということも問題になる。
 特に媚薬という名の麻薬が使われていたのは事実だし。その麻薬をずっと被害者に与え続けていたのが加害者だということになれば、話はまったく違ってくる。下手をすれば、殺人罪よりも卑劣な犯罪ということになるのかも知れない。
――犯人が、被害者を残して立ち去ったのは、そのあたりの事情を知られたくないということがあったのかも知れない――
 このことが明るみになると、犯人の社会的地位どころか、麻薬の流れが警察に知られることとなり、下手をすれば、犯人が組織から消されるということになるとすれば、それは逃亡くらいしても当然だと言えるだろう。
 ただ、この犯人が麻薬を流していたのだとすれば、実は経済的には裕福な人間かも知れない。
 麻薬など、一介の主婦、それも女優崩れの一人の女に、そんな常用できるほどのお金があるとは思えない。
 そうだ、逆に、
「女がセックスのために、クスリを利用していたというわけではなく、クスリを常用するために、お金がほしいということで、お金儲けのために、男に身を任せていたという考えもあるんじゃないか?」
 と、門倉希恵児は考えた。
「なるほど、そういう考えもありますね。AV女優をしていたくらいなので、セックスに関しては、一癖も二癖もあるだろうから、そのテクニックを使って、男を手玉に取っていたとすれば……」
 と、そこまで言った上野刑事だったが、急にテンションが下がってしまった。
「どうしたんだい? 上野君」
 と言われて、
「ええ、確かにそう考えればある種の辻褄は合うのかも知れないんですけど、それだと殺された女が可哀そうに思えてきてですね。確かに見えている事情は、彼女に不利な点が多いですが、もしその見えている部分が少しでも違うのであれば、我々は大きな間違いを犯してしまいかねないですよね。僕の感じたやりせなさと辻褄が合っていないという考えは、そういうところへの警鐘ではないかと思うんです。そういう意味で、この捜査は慎重にしなければいけないような気がします」
 と上野刑事は言った。
 門倉刑事も上野刑事と気持ちは一緒だった。自分で意見を口にしながら、どこか後ろめたさもあったからだ。
「確かにそうだとは思う。しかし、事実は一つしかないんだ。その事実を探して解明してあげるのも、ある意味亡くなった人への供養なんじゃないか?」
 と門倉刑事は言った。
「そうですね。それが僕たちの仕事でした。それを忘れるところでした」
 と言って、頭を照れ臭そうに描いている上野刑事だったが、
「とにかく、まずは、ホテルから立ち去った男が何者なのか、知る必要がありますよね。ところで残っていたと思われる指紋の照合はどうだったんですか?」
 と上野刑事が聞くと、
「無理なようだな、前科者にはいないようだ」
 という話だった。
 もっとも指紋が一致したのであれば、今頃総出でその男のところに向かっているはずである。期待していなかったわけではないが、やはり照合が無理だったということは、ウスウス気付いていたことでもあったのだ。
 ただ、今のところ手がかりというとそれしかない。そう思っていると、落胆するものではないというもので、まったく予期していなかったところから、指紋の照合ができることになった。しかし、それはありがたいことではなく、余計にこの犯罪を複雑にし、そして怪奇な印象を与えることになってしまうなど、誰が創造したことであっただろうか……。

                 三段論法

「今年という年、いや、その中でも今月というのは、何か呪われた時期なのではないだろうか」
 少なくとも、門倉刑事や上野刑事、そして課長と、それらを取り巻く捜査員は、そのことを思い知らされることにあろうとは思ってもみなかった。
 ラブホテル殺人事件が発生してから、今度は三日と立たない二日目に、またしても夕方、警察に通報があった。
「三丁目の交差点近くに新しく建設中のビルがあるが、その中で人が死んでいる」
 という匿名の通報だった。
「それだけでは分からないので、もっと詳しい情報をいただけますか?」
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次