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主犯と共演者の一致

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「作品を作り続けなければ、存続はない」
 と言われているのか、年間の発売本数たるやどれほどのものなのか、想像を絶するものであろう。
 上野刑事はそれを思うと、業界で事件が多いのも無理もないことのように思えた。殺人、自殺、事務所と所属俳優とのトラブルなど、これでは芸能雑誌が売れ続けるのも分かるというものだ。
 上野刑事は岡崎静香の捜査をしながら、次第に虚しさを感じてくるようになった。こんな気分は久しぶりな気がする。人が殺されてその人の人生を顧みることは多かったが、その背景に芸能界や、AV業界が絡んでいると思うと、何か、
「夢も希望もあったものではない」
 と思うようになっていた。
 AV業界でも、芸能界でもすでに彼女の居場所はなかったのである。それを彼女は最初から分かっていたのだろうか?
 分かっていてそれを承知で生きようとしていたと思うと、本当に切なく感じる。彼女がどういう人間なのか、本当の正体を知らないが、同情的な気持ちになったのも無理もないことだったが、この感覚が上野刑事がここまで鋭かった感覚を鈍らせることになるとは、思ってもみなかったのだ。
 彼女のことが分かったような気がしていたが、時間が経つと、どうも感覚が違っているのではないかという思いに陥ったのも、少し感覚を鈍らせることにもなった。
 AVの事務所で聴いた時、
「彼女はアブノーマルな羞恥モノや、企画ものが多かった」
 と聞いた時、どこかに違和感があった、
 だが、その違和感を払拭する事実が聞き込みが終わって署に帰った上野刑事を待っていた。
 捜査本部の奥で、門倉刑事が待っていたところに、先ほどの報告をしたとことで、門倉刑事も、
「なるほど、そういうことか」
 と言って、何か自分だけで納得したかのようだったので、
「何か新しい情報でも出てきましたか?」
 と聞くと、
「うん、鑑識からの情報なんだけど、どうも彼女はクスリの常習犯だったようだね。それもかなりの常習性があったようで、やはりAV業界というのは、そういうものなのかね?」
 と聞かれたが、そこにどう返答していいのか困っていると、
「まあいい。とにかくクスリを打ちながら何かのプレイに興じていたとすれば、それはやはり彼女が得意と下プレイなんだろうね。SMプレイなんかでは、首を絞めたりもするんじゃないか?」
 と門倉刑事に言われて、
「そうかも知れません。これは計画的な殺人ではないと門倉刑事も思っておられるのでしょうが、そう考えると、事故というか、プレイが行き過ぎて、過失致死だったということもあるかも知れませんね」
「じゃあ、どうして逃げたりしたんだい?」
「それは怖くなって逃げだしたのか、それとも、その人間には何か後ろめたさがあったのか、それとも、一緒にいるところがバレるとまずい状態、それなりに立場のある人間だったりしたのかも知れないですね」
「例えば、奥さんが会社社長の令嬢か何かで、気に入られて結婚した、いわゆる逆玉というやつだろうか?」
「そういうのもあるかも知れませんね。あるいは、不倫がバレることでまずいということ、つまりは旦那とも面識があるという人なのかも知れないですね」
「そうであれば、事件は結構分かりやすい形になるんじゃないかな?」
 と門倉刑事がいうと、上野刑事は逆に考え込んだように、
「そうでしょうか? 逆に見えにくくなったかも知れませんよ。誰かが何かを隠したいと思っていることがあるとすれば、それだけではなく、その奥にはもっと知られたくない秘密が渦巻いているかも知れません。それを思うと、そう簡単に事件は解決しないような気がするんです」
 と、上野刑事は言った。
「考えすぎなのでは?」
 とk毒ら刑事は答えたが。
――いや、彼の言う通りかも知れない。意外と上野という男は鋭いところを掴んでいるのかも知れないな――
 と、彼に対して頼もしさが感じられ、若いということで、行動派を想像していたが、意外と頭の回転も早く、勘の鋭さも並々ならぬものがあるような気がしてきた。
 門倉刑事は、
「被害者が薬中だったということを聞いた時、最初は案外楽な事件かも知れないと思ったが、上野刑事の報告と彼の意見を聞いて、若干の考え違いがあったことに気が付いた。
――この事件も、一筋縄ではいかないかも?
 という思いと、上野刑事に期待する思いが交差して、さらに、世の中の見たくない部分を見さされているような気がして、不思議な気がしていた。
――そういえば、マンション殺人事件の捜査の時、被害者に勉強を教えてもらっていたという青年がいたが、彼が勧善懲悪なる言葉を口にしていたな――
 というのを思い出した。
 向こうの事件の方が、いかにも殺人事件という感じのものだから、マニュアルに沿った捜査を行うのが定石なのだろうと思ったが、果たして、セオリー通りの一遍通りの捜査方法が果たして有効なのかとも考えていた。
 謎が多いのはマンション殺人事件の方で、例えば、どうしてお湯を出しっぱなしにしていたのかということも解決していない。確かに死亡推定時刻が広がるというのは確かなのだが、ではその広がった間に容疑者の数や可能性が広がったのかと言えばそうでもない。まだほとんど何も分かっていないということになるのだろうか。
 そちらの捜査も進展がないまま、まずは、この事件からおさらいすることになっている。ホテルの事件は、案外と簡単な事件なのかも知れないという思いが次第に捜査本部の中ででも固まりつつあった。
 彼女が使用していた麻薬というのは、媚薬としても使用されていたようで、
「GHBという麻薬成分の入った媚薬を使用」
 というのが、鑑識の認識だった。
 だから、薬物は媚薬として使用されており、本人が麻薬と知っての使用だったのか、それともあくまでも媚薬としての使用だったのかは分からないが、
「すでに身体に沁みこんでしまっていて、彼女にとって少なくともセックスの最中は、なくてはならないものとなっていたことだけは確かなようですね」
 というのが、鑑識の話だった。
「ということは、かなり陰湿なプレイだったとみていいのでしょうか?」
「いいと思います。実際に彼女はかなりの頻度で使用していたようですね。かなり長い間の常用ではないかと思われます」
 という鑑識に対し、
「彼女がAVに出ていたのが数年前までだから、じゃあ、AVをやっている頃から常用していたとみていいのかな?」
「いいと思います」
 というと、上野刑事は、
「チッ」
 と舌打ちをし、苛立ちを隠せない顔になり、
「なんだよ。だったら、あのA?会社もグルだったということか?」
 と、訝しそうにいうと、
「そういうことかも知れないな。君の聞き込みでは、彼女はアブノーマルが多かったわけだろう? そういう時って、いわゆるトランス状態に自分を持って行かないと、羞恥の気持ちを少しでも持っていたら、身体が持たなかったりするんじゃないかな?」
「ええ、そうだと思います。少しでも羞恥を忘れて、自分に酔うような状況にもっていかなければ、いくらお金のためとはいえ、精神的に破壊されますからね。ただ、だからと言ってドラッグに嵌るのは怖いですよね」
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次