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主犯と共演者の一致

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 これはビジネスホテルにも言えることだが、コップやサニタリーなどはすべてを新しいものに変えるのは当たり前のことであろう。
 しかも、鑑識の話では、指紋を消そうという意識はあったようだが、かなり慌てていたのか、消し方が中途半端で、今の科学では、これくらいの消え方であれば、指紋を特定させることはそう難しいことではないという。そう考えれば、この殺人は、意外と早く解決するかも知れないと思った。
「とりあえず、やれやれですね」
 と、上野刑事は、門倉刑事にそう言って、少し安堵した顔になった。
「まだ、安心はできないが、それにしても、どうも変な殺人だよな。犯人もいくら慌てていたとは言いながら、指紋を消そうという意識がありながら中途半端だし、それを思うと私には、これが計画的な殺人には思えないんだ」
 と門倉刑事はそう言った。
「なるほど、確かにそれは言えますね。だとすると、却って分かりやすい犯罪なんじゃないですか?」
「そうだといいんだが、とりあえず被害者の身元をもっと洗ってみる必要がありそうだな。交友関係も含めてになるが」
「ええ、分かりました」
 ということで、上野刑事はさっそく、後輩の新人刑事を連れて、彼女の旦那という人間に遭いに行った。
 門倉刑事は、マンション殺害事件の方を中心に捜査している関係で、こちらの殺人を、とりあえず上野刑事に任せることになったのだ。
 被害者は、水島裕子という名前でA?女優をしていたが、もちろん、本名ではない。本名は、岡崎静香と言った。丘崎と言うのは、旦那の性であり、旧姓は芸名と同じで水島であった。
 年齢は三十五歳、死体発見時はあまりにも形相がすごかったのでもう少し老けて見えたが、実際には三十五歳だということ、そして旦那は今年で四十五歳になる中小企業の社長であった。
 彼は、親の一代で気付いた宣伝会社を受け着いた二代目社長で、初代社長はすでに引退していて、会長職に収まっている。
 一度結婚したのだが、五年前に離婚していて、前の奥さんとの間には子供はおらず、静香と知り合ってから結婚するまでは結構早かったという。もちろん、元AV女優ということで会長の反対もあったようだが、会長と言っても、実質的な力はなくなっていて、会社でのことならとおかく、個人的なプライベイトでは、本当に力がなかったので、ある意味、静香はうまく玉の輿に乗ることができたということであった。
 これは、世間ではあまり知られていないことであったが、彼女も実は元離婚経験があり、といっても、VA女優としてデビューする前の、まだ二十歳頃に結婚して一年くらいのスピード離婚だったという。
 そんな人生を歩んできた静香だったが、どうもいろいろな秘密めいた話もあったようで、今の旦那も知らないこともあるというウワサを聞いたことがあった。それを裏付けるように、彼女が以前所属していた制作会社の社長の話を後述するが、社長すら知らない話も結構あったということだった。
 まず上野刑事は、彼女の旦那に連絡を部下に取ってもらったが、
「社長はどうやら、今は海外出張中のようで、本当は三日後に帰国の予定だったということですが、今回の事件を聞いてすぐに帰国の手続きに入ったということです。明日には帰国してくるということですので、会社と連絡を取り、事情聴取の調整を行いたいと思います」
 ということだった。
「そうか、よろしく頼むよ」
 と、上野刑事は、自分が門倉刑事にでもなったかのように、少し威張って見せていたが、まだまだ自分は新人に近いと思っているので、後輩に対しての配慮を忘れるような男ではなかった。
「それじゃあ、彼女がかつて所属していた事務所に行ってみようか?」
 と言って、まずは最初に芸能時事務所、そしてその後で、A?関係の事務所への訪問を計画した。
 芸能事務所は案外とホテルからも近い場所にあり、移動に車で二十分くらいのものだった。
 アポイントは取っておいたので、事務所にはスムーズに案内された。奥にある応接テーブルに案内されると、すぐに元上司だろうか、中年というには、まだ少し若いくらいの男性が現れた。
「岡崎さんのことでお訪ねなんですね?」
「ええ、実は彼女、前日殺されたんですが、それで関係者にお話を伺っているというところです」
「そうだったんですか。それはご苦労さまです」
 彼女が殺されたということは最初にアポイントを取った時に話をしたわけではなかったのに、この落ち着きはなんであろうか? 少なくとも元部下が死んだということで、しかも殺人の調査で刑事が尋ねてきたのだから、それなりに緊張や驚愕があってもいいのではないだろうか。上司の人はそれほど驚くこともない様子だったが、よく見ると、驚きを隠しているふりもあった。
――なぜそんなことをしなければいけないんだ?
 と感じた。
 普通であれば、逆ではないだろうか。殺されたということにビックリしないと、最初から分かっていたかのようで、疑いをかけられることくらい、彼くらいのおとなであれば、誰だって創造がつきそうなものだ。それなのに、驚きの表情一つを見せないというのは、何を考えているのかと疑ってみたくなるのも仕方のないことだ。
 それなのに彼は驚きを隠そうとして、さらにそれを隠し切れない様子である。
 ということは、彼は岡崎静香が殺されたことに対して、最初から何かを知っていて、その心当たりは自分を恐怖に落とし入れる何かがあると思っているのではないか。驚きではなく恐怖が彼の中にあり、驚いてしまうと、余計に恐怖がどのような形で表に出て、刑事にどんな勘繰りを与えるかも分からないという発想が頭にあるのかも知れない。
 もちろん、そんなことは考えすぎなのかも知れないが、上野刑事が感じ取った
「刑事の勘」
 というものが、彼に何かを語りかけているような気がしたのだ。
 上野刑事は、その時に事件に関する重大なことに気が付いていた。それがどこに繋がるかまでは分かっていなかったが、感覚に狂いはなかったのである。そう思うと、門倉刑事や課長が、
「彼は将来有望だ」
 という言葉を口にしていたことがあるというが、その目に狂いはなかったということであろう。
 上野刑事は、自分の勘が間違っていないという信念の下に、彼に事情を聴いてみることにした。それが現時点での正解だったに違いない。

               過剰な遊び

 上野刑事は岡崎静香の殺害されていたのを発見した様子を説明した。必要以上のことは言わず、ただ、相手の反応を見たい内容に関しては、少し入り込んだような聞き方をした。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次