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主犯と共演者の一致

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「ええ、女性側は時間制ですから、時間になったら出ないと、デリヘルに追加料金を払うことになる。でも男性はその後自由だったら、そのままお風呂に入ったり、テレビを見たり、ベッドも大きいからそのまま寝ても帰れるわけですよね。実際にサービスタイムにしておけば、一日中いても、数千円で過ごせるわけですからね」
 とフロント係はいう。
「なるほど、じゃあ、男性が先に出たとしても、まったく店側は不思議に思わないんだ。むしろこっちの方が多いパターンなのかな?」
「そうですね、最近は、カップルの利用よりも、デリヘルのような風俗利用の方が多いくらいですからね。私たちはお部屋をお貸ししているだけなので、どちらでも、いいわけなんですけどね」
 と言って、含み笑いをした。
「ところで、入室は一緒だったんだね?」
 と門倉刑事が聞くと、
「ええ、その通りです。監視カメラでも確認しました。それに、それから誰もこの部屋には訪ねてきていませんから、間違いないと思います」
「分かりました。じゃあ、男性がどこかの時点でお帰りになったんですね?」
「そのようです」
「その時間というのは分かりますか?」
「基本的に最後までお部屋を利用された方がお支払いになるわけなので、私たちは先に出た人のことはあまり感知していません。電話を受けた人間が覚えていれば別なんですが」
 といって、他のスタッフに聞いてくれたようだった。
「僕、覚えていますよ」
 と、まだ二十代くらいの若い青年がそういった。
「君は?」
「僕はここのフロントと、掃除の手配をするコントロールのような仕事をしているものです。ちょうど昼頃は私が電話を受けたのを覚えています」
「何時頃だったですか?」
「ええっと、確か、二時前くらいだったと思います。ちょうどここで昼のお弁当を食べてすぐくらいだったので、それで覚えているんです」
「電話は男の声だったのかい?」
「いいえ、女性の声でした。女性の声で、一人が出るという旨を聞かされたんで、僕が扉のロックを解除しました」
「よし分かった。じゃあ、大体の時間が分かっているので、ここで防犯カメラの映像を確認してみたいと思うだが、協力してもらえるかな?」
 と、門倉刑事はそういうと、さっそくモニタールームに入っていった。
 モニタールームは警察にも防犯カメラの部屋があるので見慣れているが、縦に三つ、横に四つの十二湖の防犯カメラが一度に映るようになっている。それぞれの階のエレベーターや、ワンフロアの通路にもいくつか、ただ、基本的に人の出入りは、入室と退室くらいしかなく、それ以外は掃除のスタッフがでいるするくらいなので、そこまで張り付いて監視していなければいけないものではない。ほとんど、このモニタールームに人が入り込んでいるということはほとんどないだろう。
「まずは入室時のタッチパネルのところだね」
 と言って、ちょうど入室ボタンが押された時間は記録されているので、その時間を頭出しすると、しっかりとそこに一組の男女が映っていた。女性は紛れもなく被害者で、男性の方はというと、帽子を目深にかぶり、サングラスを掛けていることから、まるで犯罪者の変装のように見える。
「そんなに見られると困るのかな?」
 と門倉刑事はボソッと口にし、その相手を、権威や名誉のある職についている人であるのか、あるいは相手の女性が不倫の相手でもあるのか、気になっているのではないだろうか。
 しかし、彼の様子を見ると、どこかオドオドしていて、やせ型で肩もなで肩というどちらかというと、女性のような雰囲気に感じられ、どうにも社会的地位のある人間には見えなかった。
 年齢的にもだいぶ若いのではないかと思え、女性の方がどこかしっかりして見えるところから、どちらかというと、
「主婦が若いツバメと昼間からラブホテルにしけこんでいる」
 という構図が見えてくるような気がした。
 その感覚は、上野刑事にも、いつもカップルを見慣れているスタッフにも分かったようで、最初のイメージとはかなりかけ離れた関係ではないかと、その場の一致した気持ちではなかっただろうか。
「ホテルというのは、ああいうカップルもいるんだな」
 と、どうにも不思議な組み合わせにしか見えない門倉刑事は、まだビックリしていた。
 しかし、門倉刑事よりも若干若くて、血気盛んな上野刑事とすれば、それくらいは想定内のことであり、それよりも、この男がなぜ変装のようなことをしているのか、その方が気になった。
「ラブホテルでの密会なんて、今に始まったことではないんだから、何もそんなに怯えて隠そうとする必要もないのに」
 というのが、上野刑事の思いだった。
 スタッフも同じようで、
「そうですよね。まるでこれでは、いかにも不倫をしていますと宣伝しているようなものですからね。今どき、そんな人はいませんよ」
 と言っていた。
「これじゃあ、何かの映画か何かの撮影みたいじゃないか?」
 と言われて、急に一人のスタッフが何かを思い出したように、
「あっ」
 と叫んだ。
「どうしたんだ?」
 と聞かれて、
「今、映画の撮影と言われたので思い出しましたが、この殺された女性、見覚えがあります。確か、昔A?に出ていたんじゃなかったかな?」
 というではないか。
 それを聞いて、上野刑事もその被害者を覗き込むと、
「ああ、確かにこの女性見覚えありますね。彼女は確かにAV女優もやっていましたね。でも、三年くらい前に、芸能界でデビューすると言って引退したんです。そして、僕は彼女をAVからの華麗な転身という名目を見て、女優デビューしたところから知っているんですが、実際にはなかなか売れずに、気が付けば、半年もしないうちに引退なんて言われていたんですよ。でも、確か、彼女はそれから少しして結婚したんじゃないかな?」
 というと、
「よく結婚のことまで知っていたな」
 と門倉刑事に言われ、
「ええ、週刊誌に載ってましたからね。AV女優の行く末なんていう題名でですね。ただ、幸福な結婚という様子ではないような話でしたね」
 と上野刑事がいうと、
「そうなんだな。この業界も大変なんだろうな」
「AV業界というのは、ギャラガ安かったりするので、出演回数がどうしても多くなるんですよ。その分、作品が巷に溢れるから、逆に一つが安価になってしまい、さらにギャラや経費を抑えることになる。大変な業界なんじゃないですかね」
 と、ホテルのスタッフがいった。
「防犯カメラが見つかりました」
 と言って、一人の男性が表に出るところが映された。
 今度もやはり変装しているようだ。しかも慌てているところを見ると、やはり犯人はこの男ではないかと思われた。
 この事件では結構間抜けなことが多いようで、
「どうも犯人はかなり慌てていたようで、指紋をいたるところに残しているようですね」
 と鑑識が言った。
 それを聞いて、ホテルの掃除の人間を門倉刑事は呼び寄せて、
「このコップに、指紋が残っていたとすれば、これは、この女性のものか、あるいは犯人のものかしかないわけですよね」
 と言って、洗面所のコップを指差した。
「ええ、このコップは、部屋が空くたびに清潔なものと毎回取り換えていますから、その通りです」
 と言った。
作品名:主犯と共演者の一致 作家名:森本晃次