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やる気のない鎌倉探偵

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 ではなかったのか。
 それを、
「この世では報われなくても、来世で報われる。死んでから行くあの世は、天国なのだから」
 というのが、一般的な宗教の言われていることなのだろうが、どうも胡散臭くしか聞こえない。

               取り残された想い

 この世で救うことができないから、あの世でだったり、来世でだったりと、いかにも逃げにしか聞こえない言い訳である。
 だから、そんな宗教に嫌気を差した人間が、死を意識すると、覚悟さえできれば、自殺をするなど、別に大したことではなく見えるのであろう。
 それでも宗教の影響なのか、自殺をした人は、まわりから、
「逃げに走った」
 と言われるのだろう。
「逃げに走ったというくらいだったら、その人が自殺する原因を取り除いて、助けてやればいいじゃないか」
 と言いたくもなるが、しょせんは他人事、自殺した人間を軽視するような言い方をする人間は自分のことしか考えていないのだ。
 たとえ、それが親であっても家族であっても同じなのかも知れない。
「肉親だから、気持ちはよく分かっている」
 と口では言いながらも、
「肉親だから分かっている」
 という理屈に頭が凝り固まって、本当の本人の気持ちを考えようとしないのが、正直罪ではないかと思う。
 肉親に死なれて、初めて追い詰められているのが分かるというが、自殺した本人はかなりのSOS信号を出していたはずだ。
 それが分からないというのは、本当に分からないわけではなく、
「家族だから何も言わなくても分かる」
 などという押し付けに近い、おこがましさが現れている証拠であろう。
 あまりここでいうと、傷口に塩を塗るようなマネになってしまうので、気を付けないといけないと思うが、それを敢えてとどめを刺すようなマネをするというのであれば、
「死んだ人は、もう戻ってこない」
 という言葉を与えることで、死んだ人の苦しみを再度感じてもらえるといいのではないかと思う。
 このような話に他のたとえはどうかと思うが、しいて類似の話をさせてもらうとすれば、離婚問題なども、このケースに似たところがあるのではないだろうか。
 離婚問題にもいろいろあるが、それまで会話が絶えなかった夫婦間で、まったく会話が途絶えてしまうことがある。
 夫の方とすれば、
「何も言わないのは、心配ない証拠」
 と言って、これも逃げているのだろうが、何も言わなくなった妻は、その時、一番のクリシミを味わっているはずだ。
「今ならまだ、元に戻ることができるが、ここで元に戻って先があるというのか?」
 などという思いが頭を巡っているのであろう。
 確かに、夫婦が会話をしなくなったら、夫とすれば、相手が話をしてくれるのを待っているという人が多いカモ知れない。
 しかし、それは男が女という動物を知らないからだ。
「女というのは、ギリギリまで我慢するけど、我慢できなくなったら、もう修復は不可能なのだ」
 とよく言われる。
 会話がなくなった時に、夫は様子を見ようとするのだが、それが遅すぎることに気付かない。
 それは、
「結婚したのは、相手が自分に惚れてくれたからだ」
 という思い上がりがあるからで、それがすっと永遠に続くのではないかと思えるところから来ているのだろう。
 結婚した時の気持ちが、妻の方ではまったく変わっていないという思い込みなのだろうが、その普遍的な強欲な夫の気持ちに、妻が気付いたことで、それまで確かに愛していた相手だったが、許せなくなってしまったのだろう。
「可愛さ余って憎さ百倍」
 という言葉もあるではないか。
 妻の方で、
「どうして? なんで?」
 などと考え始めると、女性の場合は、どんどん深みに嵌っていくという話も聞いたことがある。
 唯一の相談相手が旦那だった奥さんだったとすれば、こうなってしまうと、もう後には引き下がれない。まさに自殺しようとしている人の気持ちが、そのまま表に現れているのだ。
――私がこんなに苦しんでいるのに、あの人はまるで私を見ようとしてくれない――
 と感じる。
 夫はそんなつもりではないのに、そう思っていると、本当に十万億土くらいの距離があるにも関わらず、二人ともまだすぐそばにいるような気がしているのだ。それは旦那だけではなく、奥さんにも言えることであろう。
 しかし、先に気が付くのも奥さんだ。
「もう、この人とは、やっていけない」
 そう思うと、後の行動は迅速であり、揺るぐことはない。
 リビングのテーブルの上に自分の名前と捺印した離婚届を置いて、そこに手紙を添える形で、さっさと実家に帰ってしまっていた。夫からすれば、
「なんだよ。これは」
 というべきであろう。
 中の手紙を見ると、
「もうあなたとは一種にいることができません。離婚届を置いておきますので、あなたも署名捺印して、お手数ですが、役所に提出してください」
 と書いてある。
 そこに理由らしいことも書いてはいるが、夫としては容認できるものでもなく、身に覚えのない、まるで他人事のようなことが書かれている。浮気だとかそういうハッキリとした理由があるわけでもない。本当に他人事を思われるような内容なのだ。そんなもので納得しろというのは、実に虫が良すぎるというものだ。
「なんで、何も言わずに行っちゃうんだ?」
 と思うのも当然のことだ。
 夫婦なのだから、相談してくれなかったことを悔やむというよりも、怒りを覚えるくらいだ。さっそく次の日には妻の実家を訪れる。
「どういうことなんだ?」
 と言って、本人は怒鳴りこんでいこうと思っているが、さすがに義父や義母がいるので、大人げないことはできない。
 とにかく話し合いの場を設けることだけを目的に出かけた。
 それでも、何を言えば相手に伝わるのか分かったものではない。夫は何も考えずに出かけているのだ。頭はパニックになっていて、何をどう説得すればいいのかなど、分かるはずもない。
 当然のことながら、訪ねていけばまず出てくるのは、義母であろう。
「いきなり離婚届をおいて、実家に帰ってしまったんですが」
 というと、
「そうですか。あの子は何も言わずに部屋に閉じこもっていて、離婚すると言っただけなんですよ。娘とはいえ、嫁に出したんですから、本当は追い出してもいいんでしょうが、さすがに娘を追い出すわけにもと思い、それでも何もいうこともできずに、今は話もしていません」
 と言って、向こうも困っているようだった。
「会わせてくれますか?」
 というと、母親は娘の部屋の前で自ブが来たことを知らせる。
 どうも出てくる様子はないようだが、とにかく事情を両親に説明した。
「とにかく、いきなりだったので、僕もどうしていいのか分からないところなんですよ。そして取るものもとりあえず、やってきたというわけです」
「そうですか。これは娘がとんだことをいたしまして」
 と義父はそう言って腕を組んでいるので、旦那は両親が自分の味方になってくれるのではないかと思い、少し安心した、
 だが、世の中はそんなに甘くはない。
作品名:やる気のない鎌倉探偵 作家名:森本晃次