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ミソジニー

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まさに今金曜日に告白の返事をしようとしているので、今の自分にふさわしいテーマな気がしてきた。頭の中で曲のメロディーが流れていた。しかし、意外と自分は驚くほど冷静だった。自分の中ではもう答えは決まっていた。男を弄ぶような女なんかこっちからお断りだ。それはたとえこの世のものとは思えないほどの絶世の美女であっても同じだ。もう俺の女嫌いは絶頂に達していた。
その日の授業が終わりついに放課後になった。
よし、準備は抜かりない。いざゆくぞ。
そう自分に言い聞かせて理科実験室の前の廊下の方へ向かっていく。

理科実験室の廊下の前まで行くと、峰岸遥がぽつんと一人待っていた。
万が一いたずらだったらと考えたこともあったが本当にそこで待っていた。理科実験室は学校の一番奥にあるから放課後はまず誰も寄り付かない。なるほど、だからこの場所を選んだんだな。誰かに見られるとまずいからか。告白するにはもってこいの場所だ。
「竹井君・・・来てくれたんだ!よかった」
峰岸遥は嬉しそうにそう言った。
「よ!」
俺は手を振ってそう言った。
峰岸遥は本当に嬉しそうだった。それがどこか不思議だった。何か違和感のようなものをうっすらと感じた。この女は本当に俺のことを騙そうとしているのだろうか?そのようにはとても見えなかった。いや・・・でも、それこそが罠なんだ。今までたくさんの男を手玉にとり、とっかえひっかえしているような女なんだ。だからむしろ自然体に見えるんだ。いかにも本気であるかのように見せかけてここぞというときに掌を返したかのように男をころっと騙すんだ。まだ高校生のくせして何て末恐ろしい女だ。俺の姉貴とは少し違うタイプだが怖い怖い。あの可愛い笑顔に騙されちゃいけない。世のバカな男たちはそうやってみんな可愛い顔した女に簡単に騙されるんだ。そうに違いない。自分にそう言い聞かせた。
「竹井君・・・返事・・・聞かせてくれる?」
「あ・・・うん・・・」
改めてそんな風に言われると途端に緊張してきた。
とっさに頭がぐらついてきた。
何だか何も考えられなくなって、ぼーっとしてきた。
「竹井・・・くん?大丈夫?」
「あ・・・うん」
そういわれてまたふと我に返った。
そして俺はもらったラブレターをかばんから取り出した。
「竹井・・・くん?どうしたの?」
そして俺は何を思ったのか、とっさにそのラブレターを峰岸遥の目の前でびりびりと破り捨ててしまった。びりびりに破れたラブレターの紙切れの断片は見るも無残な姿で廊下の上に次々と舞い散りながら落ちていった。
「そんな・・・ひどい・・・」
峰岸遥は右手で口を押えながら涙目のか細い声でそう言った。
「竹井くん・・・何するの?」
峰岸遥はまだ涙声だった。
そして俺はその場を離れて帰ろうとした。すると峰岸遥は俺の後ろ姿に向かって
「何でよ・・・何でこんなことするの?」と怒鳴り散らすようにわめいてそう言った。
俺は振り返ってこう言い放った。
「他の男は騙せても俺は騙されない」
「騙す?」
「他の女子たちの噂を廊下で聞いたんだ。お前、男をとっかえひっかえして騙してるんだってな。俺のことも好きな振りしてもて遊ぶつもりだったんだろ?」
「一体何のこと言ってるの?私はそんなこと・・・」
ついに峰岸遥はしくしくと泣きだしてしまった。
「ひどい・・・竹井君、ひどいよ」
そう言い残して峰岸遥は廊下を駆け出し、あっという間にその場を走り去っていってしまった。


翌週の月曜日、峰岸遥は学校を休んでいた。
これは見せかけなんだろうか?それとも本気でショックを受けたのだろうか?もしかしたら彼女は俺が想定したような悪女ではなかったんだろうか?今思い返すとあのとき流した彼女の涙もあまりにも自然にこぼれてきた様な感じがした。とても演技には見えなかった。ドラマをよく見る俺からすれば大女優並みの迫真の演技なら話は別なのだが、何となくそれとも違った。自分でも彼女のことがよく分からなくなった。もう女心がまるで分からなくなり頭が混乱してきた。もしかしたら自分は彼女に対して何か取り返しのつかないくらいとてつもなくひどいことをしてしまったのかもしれない。そんな最悪のシナリオを想像してしまった。

午後、体育の授業があった。
バスケの授業だった。
俺は相変わらず運動音痴で全然シュートが決められなかった。それどころかボールのパスが来たのにミスしっぱなしだった。ついにはリバウンドをしようとしたら敵チームの体のでかい河谷ってやつに思い切り吹っ飛ばされてしまった。
そんなかっこ悪いところを女子たちに見られてしまった。
「あーあー情けない。運動音痴でかっこ悪い」
「本当無様ね」
「いい気味」
「遥にも見せてやりたいくらい」
俺に聞こえるようにしたかったのかわざと近くまで来てそう言ってきた。体育の担当教師は遠くにいたので全く聞こえていないようだった。
峰岸遥の女友達の本村加奈子とその他数人の女子たちだった。本村加奈子以外はあまりよく知らない女子だがみんな峰岸の友達なんだろうか?
俺は女子たちの言ってることの意味をあまり考えないようにしてとりあえずゲームに集中した。しかし、俺の無様な格好を見てその女子たちは相変わらずくすくすと笑っていた。

何とか無事バスケの授業を乗り切ったと安心して喜んだのも束の間で、着替え終わって教室に向かう途中の廊下でさっきの女子たちがまたもや俺を待ち構えるようにして待っていた。とっさに取り囲まれてしまったのでどこにも逃げ場がなくなってしまった。
「な・・・何?」
俺がそういうと本村加奈子がしゃべりだした。
「あんたさー・・・遥の手紙・・・目の前で破り捨てたそうじゃない?」
は?突然なんだ?何でもう知ってるんだよ。女の噂話ってほんとものすごい速さで瞬く間に流れるよな。まるでインターネットの光回線並みだ。
「は?だから何だよ?」
俺は心を落ち着かせてからそう精一杯言い返した。
「だから何だよ?じゃないわよ。あんた遥に何であんなことしたのよ?」
「そうよ、最低よ」
「このゲス男」
多勢に無勢とはこのことだ。いつだって少数派は立場が弱い。ひどい言われようだった。
「別に・・・」
面倒なことに巻き込まれそうな予感が脳裏をよぎったので俺はとっさにこの場から逃げ出したくなった。
「別にって・・・何の理由もなくあんなことしたの?」
「そうよ、ちゃんと理由を説明しなさいよ」
まるで言葉攻めだ。
「私たちはね、遥があんたのこと本気で好きだっていうから応援してたのよ。友達だからね。」
本村加奈子は突然落ち着き払ったかのようにそう言い始めた。
え?何だよ・・・それ?俺を・・・・俺を、騙そうとしてたんじゃなかったのか?じゃあ、あれは峰岸遥の演技でも何でもなく・・・本心だったのか?彼女は本気で泣いてたっていうのか?あの自然に見えた涙はやはり本物だったのか・・・俺の普段まったくさえない勘はよりによってあの日は当たっていた。
俺は拍子抜けしたと同時に、何が何だかもう訳が分からなくなって茫然とその場に立ち尽くしてしまった。そしてショックのあまり言葉を失って思わず下をうつむいてしまった。
作品名:ミソジニー 作家名:片田真太