小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ミソジニー

INDEX|31ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

警察の人が言っていたように、100万円なんて高額なお金を要求すれば当然その場で払えるわけがない。
そして、無理やり先生を強姦しようとした。
それはつまり・・・はなからお金など目的ではなかったんだ。
俺を陥れようとしただけなんだ。
何故か?
きっと、眞口の俺への個人的な恨みだったのだろう。
今思えば俺が手紙であんなあからさまに挑発をしたからだろう。
今なら冷静になって自分のした行動すべてを振り返り客観視することができる。
でも、先生をあんな風に殴り死に至らしめてしまったのは、もしかしたらだけど向こうにとっては不幸な事件であり計算外だったのかもしれない。事実、あの男たちはあの後、大慌てで一目散に消えてしまった。明らかに何かに動揺していた。
でも、そんなこと考えたところで警察の人が言うようにもう証拠なんてどこにもなかった。
それにすべて眞口が命令してやったことかどうかなんて誰にも分からない。
証拠を残さず世にも末恐ろしいことを実行する。
ヤクザの恐ろしさを知り、身の毛のよだつ思いだった。
たかがガキの俺が喧嘩を売っていいような相手ではなかった。
山村の言うとおりだった。さわらぬ神にたたりなしだ。
でも、もう手遅れだった。
今更やつらの手口が分かったところですべて後の祭りだった。
もう先生はこの世にはいない。
俺の大切な・・・この世でたった一人愛する人はもう死んであの世にいってしまった。
俺は取り返しのつかないことをしてしまったと思った。
そう言えば・・・
先生は俺を助けるために身代りに学校を辞めたのかとずっと思っていた。
でも、今思えば先生はきっと何か嫌な予感がしたのだろう。
学校はいじめ問題をうやむやにしたいくらい眞口家を恐れていた。
そんなヤクザの家系に立ち向かうのは何となく危険だと察知したのだろう。
先生は俺よりずっと年上だし大人の女性だ。
だから全部わかっていたんだ。
俺の取った軽率な行動によって先生は死ぬ羽目になったのかもしれない。
そう考えるともうどうしようもないくらいのやるせなさと絶望の感情で襲われた。
俺はつくづく自分が青臭くて情けないガキだと思い知らされた。
ガキのくせに大人の女性を愛してしまい、その人をおかしなことに巻き込んでしまった。

今更先生に謝ってももう先生には俺の声など届かない。
先生は俺なんかを好きになって本当によかったんだろうか?俺なんかと出会わなければきっともっと幸せだったし、もっとずっと長く生きられたに違いない。そう考えたら俺は自分が心底嫌になった。
悔しくて悔しくて仕方がなかった。
そのとき、俺の中で何かが音を立てて崩れ落ちた気がした。
俺の中で世界はもう終わっていた。


もう何もかも・・・何もかも終わったんだ。



学校中でも俺と先生の事件の話題で持ちきりだった。
でも、みんな俺に同情したのか一切話しかけてはこなかった。
みんな俺に気を使っているのか俺を遠ざけているようだった。
多分俺と先生が恋仲だったことはテレビのニュースを見てみんなそれとなく知ってるのだろう。
最初は面白がって全員でよってたかって噂話ばかり流して俺をいじめたりしていたが、あんな事件が起きてしまったことでみんな衝撃的な真実を知ってしまい、何となく同情や憐みといったような感情を抱いてしまったのだろう。
「大丈夫か、竹井?」
山村はそう話しかけてきた。
「・・・」
俺は山村の方を少しだけ振り返ったが、一言も話さずまるで抜け殻にでもなったかのように、山村の存在を無視した。
学校側は俺と先生に肉体関係があったことに関しては何の処分も下さないといった。
そもそも学校側も眞口のいじめ問題をうやむやにして何としてでももみ消したかったため、元々そのことを何となく分かっていた上であえて黙認していたのだ。だから学校側も後ろめたさがあったのだろう。
教頭いわく、あんな不慮の事件があったのだから君に配慮して停学処分にはしないとのことだった。
もう一つ大ニュースがあった。
眞口がまた転校したそうだ。
何でも地方の学校だそうだ。
理由は分からない。
テレビのニュースにまで流れてしまって、事件の真相が分かり自分らが関与していることがいずれ発覚してしまう前にせっせと雲隠れしたつもりなのだろうか?
あるいは、ただ俺を困らせて陥れようとしただけが、こんな悲惨な事件にまで発展してしまったことを心から反省し悔やんでいるのだろうか?
もはや証拠がないから何も分からない。
ただそう想像するしかなかった。
こんな雲をつかむような曖昧な事件だが、いずれ警察が真実を突き止めてくれることがあるのかもしれないとも思った。
でも、俺にはそんなことは分かりようがなかった。



俺はその日掃除当番だった。
もう一人の当番の白木が焼却炉へゴミだしに行くところだった。
「ちょっくらいってくら」
そう言って白木は教室を出て行った。
俺はしばらくモップで床拭きをしていた。
ただ黙々と。
続けてモップ掃除をしようとしたら、突然窓から冷たい突風が吹いてきた。
カーテンもざわざわっと大きくゆらめきながら揺れ出した。
「蒼太君?」
ふと先生の声が聞こえた気がした。
空耳かな?
最初はそう思った。でも気が付くと先生があの時と同じように目の前の机の椅子に座っていた。
俺は一瞬何のことだか分からないといった感じで手で目をこすった。
最初はありえない現状に目を疑ったが本当に先生がそこに座っていた。
「先生?何で先生が?」
俺は意味が分からなくなって思わずそう叫んだ。
「蒼太君・・・久しぶり。元気だった?」
先生はそう言った。
「先生・・・?何で・・・何でここにいるの?」
「私はね・・・あの世から蒼太君にメッセージを送るためにここに来たんだ。一瞬だけね・・・またすぐ戻らないといけないんけどね」
「え?」
そう言われても俺にはいったい何のことだかさっぱりだった。
俺は先生の幻影か何かを見ているのだろうか?
「私はね・・・実は、蒼太君が心の中で自分を責め続けているのを知ってるんだ。あの世にいくとね・・・この世の人たちの心の中がすべて覗けるの。いとも簡単にわかるようになるんだ。だから蒼太君が心の中で何を考えてるのか全部分かる。私が蒼太君と出会わなければよかったって思ってるでしょ?自分なんかと出会わなければ私があんな目に遭わなかったって?」
先生はそう言ってきた。
あの世から来た先生の姿はうっすらとしていて幽霊に見えなくもなかった。一瞬怖くてたじろいてしまいそうになったが、俺はその先生の幻影に向かって頑張って返事をすることにした。
「だってそうじゃん。俺のせいで・・・俺なんかが眞口に喧嘩を売ってしまったから。俺のせいで先生を死なせてしまった」
「それは違う・・・確かに結果的にはそうなったけれど。私は蒼太君と出会えて・・・そして好きになれて本当によかったと思ってる。前にも言ったでしょ?初めてあったときからシンパシーを感じたって。私たちは同じもので苦しんで、同じものを抱えていた。そして出会えた。そして同じものを感じて同じもので希望を感じることができた。多分これは、運命だったと思うんだ」
「運命・・・?」
作品名:ミソジニー 作家名:片田真太