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ミソジニー

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俺はまるで自動音声から出てきそうなくらい当たり前な言葉を無気力な感じで言い残してリビングを出た。リビングの外の玄関でかすかに会話が漏れて聞こえてきた。
「そうよね、蒼太ってさ、彼女らしき人見たこともないもんね。もう年頃だっていうのにさ。まああいつ勉強もスポーツもまったくやる気ないし、高校入ったと思ったら塾もいきなりやめちゃうしさ。大学だって本気で行きたいところ目指してるのかも分からないしさ。あんな根性なしと付き合うメリットなんて女からしたらまったくないもんね。唯一あるとすれば、そうね・・・顔くらいかな。あいつさ、お父さんに似てルックスだけはそこそこいいからね。それを武器にすれば何とか彼女くらいできるかもね」
「そうねー私もそう思ってた。」
そう言いながら二人はゲラゲラと大げさに笑い合った。
「お母さんも大変よね、あいつが息子だなんて」
「美佳だけよ、分かってくれるのは。本当、蒼太の将来が心配だわ」・
また二人でアハハと笑い合っているのが廊下に聞こえてきた。
余計なお世話だっつーの。俺にとって人生最大ともいえるほどのでかいため息が出てきた。
リビングは居心地が悪いので俺は食事が終わるとすぐに部屋に籠る。そしてベッドにあおむけになり色々と物思いにふける。あー俺は一体何がしたいんだろうって。俺の人生ってなんだろうって。もはやベッドの上での黙想は日課になってきている気がする。
そんなことを考えながら部屋の窓の外を眺めると真っ暗な夜の闇の中に満月がひと際目立つように浮かんでいた。もうそれは不気味なくらいギラギラと光っていた。しばらく眺めていたらなんだか急に気分が悪くなってきたのでその日はさっさと歯磨きをして寝ることにした。


いつもの学校の朝の風景
「おはよー」
「おはよー」
みんないつもの挨拶を交わしていつもと同じような会話。
昨日何しただの、何のアニメやドラマを見ただの毎日同じような会話ばっかり。もはや俺の中では社交辞令みたいになってきている気がする。みんな退屈なくせにわざとみたいに退屈じゃない素振りを見せて楽しそうに振まっているだけにしかみえない。みんな一体何が楽しんだろうか。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴りいつものように担任の杉山が教室にズカズカと入ってきてホームルームが始まる。退屈な日常の幕開けだ。
杉山は、昔大学時代にラグビーか何かやっていたらしい。あくまで自称だが全国大会に出たことがあらしく、それが自慢なのかよくその話を生徒の前でする。昔は花形スター選手だったらしくて女にめちゃくちゃモテたとか鼻高々に言うが、女子からは全く人気がない。その証拠に40代半ばだっていうのにいまだに独身らしい。
俺のクラスは2年A組。いつもの日常の風景だ。
「いいかお前ら5月もそろそろ終わる。中間試験が終わったからってまた期末がすぐにあるからな。気を抜くんじゃないぞ」
またいつものように生徒へ決まり文句のような説教が始まる。もう聞き飽きてうんざりしている俺はいつものように空を少し眺めていた。相変わらず気の抜けたようなそっけない空と雲が悲しげに見えてきたので余計気分が滅入る。あー早くここから抜け出したい。そんなことふと思ったりもした。
すると突然杉山がもったいぶったように話し出した。
「あー、うん。諸君。実はな、今日はお前らに報告があるんだ。みんなも知っている通り、英語の川村先生が出産と子育てでしばらくの間お休みすることになった。それで、当分の間、代わりの先生が来ることになってな。片瀬先生っていうんだ。川村先生が戻ってくるまでの間の臨時教員なんだが」
そういうと急に杉山が教室の外へ出て行った。
「あ、片瀬先生、どうぞ中へ。さあ、どうぞどうぞ」
杉山に案内されて片瀬と呼ばれる女性が教室の中へ無言で入ってきた。
緊張しているのか恐る恐るという面持ちだった。
彼女は教壇に立ちしばらく静かに黙っていた。やがて杉山にせかされるかのように何か話し出そうとしたが、どうやら最初の言葉に詰まっているように見えた。
「あ・・・あの・・・か・・片瀬・・・片瀬真由美と申します。港区の柳高校から参りました。えっと・・・担当科目は・・・英語です。代理教員なのでいつまでいるのか分かりませんが・・・精一杯頑張りますので・・・よろしくお願い致します」
ど緊張しているのかやたら小声でゆっくりと話す上に言葉が絶えず詰まるような話し方だった。
その片瀬という先生が何とか無事自己紹介を終えると、生徒たちはみな一斉に拍手をしだした。
挨拶が終わると、先生は長い間自分を束縛していた張り詰めた空気からやっと解き放たれたからか少しほっとしたように見えた。
彼女は背が高くすらっとしていてどちらかというと美人と言える部類に入る顔立ちをした先生だった。俺の見立てでは年は30歳前後くらいに見えた。
男子生徒たちが突然ひそひそと騒ぎ始めたので、教室中がざわめきだした。
「美人じゃねー?」
「なー」
「俺狙っちゃおうかな。」
「バーカ、誰がお前みたいな小便くさいガキ相手にするんだよ。」
「えーお呼びでない?」
ギャグっぽくそう言ったのがうけたのか周りにいたやつらがゲラゲラとお互い顔を見合わせながら笑いあっていた。
女子たちも
「柳高校だって」
「へー私いとこが通ってるの。」
「えーマジで。」
「何で急に来ることになったのかな」
と女子特有のトーンでひそひそ話をし始めた。
そのざわめきだした生徒たちの様子を見て杉山が突然怒ったような口調で
「おい、こらお前ら。静かにしろ。静粛に」
そういったら生徒たちは途端に黙ったので教室中が一瞬住居人のいない廃墟ビルのようにしーんとなった。
「あ、じゃあ片瀬先生。先日お話したように一時限目はこのクラスですので宜しくお願いしますね」
杉山にそう言われて片瀬先生は「あ、はい。ありがとうございます。」と軽く会釈をするようにお辞儀をしながら小さな声でそう返事をした。
「じゃあお前ら片瀬先生の言うことちゃんと聞けよ」杉山は生徒たちにそう釘をさすと
「じゃあ先生後は宜しくお願い致します」
と言いながら教室を出て行った。
片瀬先生は杉山に突然置き去りにされて一人教壇に取り残されたからか困惑したような表情をしていた。生徒たちは新たな美人新任教師に興味津々な感じでじろじろと彼女を見ていた。しばらく間が開いたが・・・最初よりかは緊張が少しだけ解けたのか、彼女は決して大きな声ではないがやがてゆっくりと落ち着いた感じで話し出した。
「えっと・・・また改めて・・・片瀬真由美です。宜しくお願い致します。先ほども言いましたように柳高校で英語教師をしていました。家庭の事情でしばらくこちらの学校に代理でうつることになりました。趣味は旅行で特に海外旅行が好きです。あとドラマとか映画鑑賞とかで・・・」
そう言いかけるとある男子生徒が
「先生!年はおいくつですか??」
とぶしつけな質問を突然し出した。
隣のやつがその生徒の頭をぴしゃりと叩いて
「バーカ、失礼だろ」
と言ったので教室中がコントをやっている最中のように爆笑の渦にのみ込まれた。
そのせいか片瀬先生もくすりと少しだけ笑った。そして肩の力が抜けたのか
「えっと、歳は34でもうじき35になります」
作品名:ミソジニー 作家名:片田真太