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ミソジニー

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「あんたがとろいからでしょ?返事は遅いしなかなか降りてこないし。動作がのろいのよ。もっとしゃきっとしなさいよ、しゃきっと。あんたそんなんじゃこの先厳しい競争社会から淘汰されて世間から取り残されるわよ」
俺に活を入れるかのように姉貴は大声でそう言い放ちながらリビングに戻って行った。
俺の姉貴は竹井美佳という。大学4年だ。いわゆる一流と言われる超有名大学に通っている。頭もよくておまけにそれなりに美人だ。でもガサツで小言がうるさいし、俺にはすぐ説教するしたまに強烈極まりない平手チョップをかましてくる。こんな上品さのかけらもない女のくせになぜか彼氏がいつもいる。こんなやつのどこがいいんだ?って正直思う。付き合うやつはよっぽど女に飢えて困っているのか、あるいはどうしようもない面食い野郎なんだろうと心の中でいつも思っている。(口が裂けても姉貴に面と向かっていう勇気は俺にはないが・・・)
手を洗面所でそそくさと洗ってから夕飯を食べに行こうとすると、ドアのガラス越しにリビングの方で母の由利子と姉貴が食事の準備をしているのが見えた。何やら聞かない振りをしたくても到底できないような会話がふいに聞こえてきた。
「ほんとあいついつもボーっとしてるんだから。もう高校2年よ?来年受験なんだからいい加減もっとしっかりしてほしいは。」
「そうねーあの子もあんたみたいにもっとしっかりしてたらね。ほんと将来が心配だわ。女の子だったらあまり心配ないんだけどね」
「そうよ。男のくせにほんとだらしがない。お母さんからももっとガツンと言ってやらないと」
「そうねー」
俺がリビングに入りづらくなるくらい非常に気まずい雰囲気を見事に作り出すそんな嫌味な会話のやり取りだった。二人でそろってまたいつもの俺の悪口のオンパレードだ。もういい加減聞き飽きているのでさっさとスルーして席に座ろうとすると
「ちょっとあんた何先に座ってるのよ、運ぶのくらい手伝いなさいよ。ったくお殿様じゃないんだからさ。いまどき男だって家事くらいみんな手伝うのよ?」
と姉貴が間髪いれずに突っ込んできた。
はいはい、内心そう思いながらも俺は大人しく姉貴に従って料理やら箸やスプーンやらをテーブルに運ぶのを手伝った。運んでいる途中に気が付いたが、今日の夕飯はどうやらビーフシチューのようだった。俺の大好物だ。夕飯だけが今の俺の人生にける唯一の楽しみだ。
でも、食事をしていてもいつものように姉貴がうるさい声をまくしたててベラベラとしゃべっていて、母親がそれに返すだけで俺は一切会話に入らない。というのもそこには会話には到底入れないような冷たくて辛辣な空気感が漂っているからだ。そもそもどっちも俺のことなんか興味ないんだろう。そう思うと会話になんかとても入る気にはなれない。ビーフシチューを頬張りながら会話を盗み聞きしていると、どうやらいつものように姉貴が学生生活のこととか彼氏の話なんかしている。
「今付き合ってる彼がさー」
「ああーあの東大法学部の子?頭もいいし性格いいしハンサムだし文句なしじゃない?そういうのイケメンっていうんでしょ?何?あんたその人と何かあったの?」
「ちょっと今頃知ったの?イケメンなんていつの時代よ。もう死語だよ、お母さん」
「あらいいじゃないの、別にそんなことどうだって」
「まあいいけど」
姉貴は自分の意見をどうでもいいと言われたような気がしたのか、少しムスッとしたような顔つきになった。
母はなりふりかまわず続けて
「そんなことより、その彼がどうしたのよ?」
と興味津々に根掘り葉掘りと少しずつ姉貴から話を聞き出そうとした。
姉はまた再び彼の話をし始めた。
「それがさーせっかく大手銀行に就職決まってたのにさ、法科大学院に行きたいとか突然言い出してさ」
「あら、別にいいじゃない。夢があって。応援してあげたら?」
そう母由利子が言うと姉貴はまともやムスッとし出して途端に黙ってしまったので
「何?何が問題なのよ?」
と母はよくわからないという表情で聞いた。
「えーだってさ、もう四年のこの時期だよ?就職決まってさ、夏の後は研修だの何だの卒論だのっていろいろあるだろうし。卒業旅行だって行く予定だし。私だって忙しくなるのよ。それを蹴って自分だけ弁護士目指すってさ。何でもっと早くから決めないわけ?信じらんない」
姉貴がぶつぶつと文句を言い始めると
「まあーいいじゃないのよ。頭いいんだし。それにさ、もしかしたら本当に弁護士なれるかもじゃない?今時流行らないだろうけどひょっとしたら将来玉の輿もありえるんじゃない?」
母は姉貴をなだめるようにそういった。
「お母さん本気でそう思ってんの?昔の旧試験よりかは大分マシになったけどそれでもものすごい倍率の世界なんだからね。そんなもんに夢託したってさ。もっと早くから勉強するならまだ分かるけどさ、今からって。結局あいつは普通に就職したくないから夢とか言ってただ単に現実から逃げてるだけなのよ」
「あら、どうしてよ。そんなことないわよ・・・」
「もういい。あいつとはもう別れる」
姉貴はそうきっぱり言い放った。
「ちょっと・・・せっかく一年以上も付き合ってたんじゃないの」
「そんなこと言っても知らないわよ。そんな将来どうなるか分からない奴とこれ以上付き合ってもメリットないもん。もう決めたの」
でた、姉貴の決め台詞。「もう別れる」一体何度聞いたか。
俺は姉貴が高校生だった時からしょっちゅうこの残酷極まりない言葉を嫌というほど聞かされて育った。愛ってなんなんだよ?そのたんびにそう思う。そんなに簡単に別れられる奴ならはじめから付き合わなければいいじゃないか。俺はまだ小中学生のガキとかだったけど子供なりにそう思った。姉貴はそんなこと当然知らないだろうけど、ガキはガキなり頭の中で色々と考えてんだよ。
俺が二人の会話をじっと聞いていると姉貴がこっちを鬼の形相のごとく突然キッと睨んできた。
「何よ?あんた、ずっと私のこと見て。文句でもあんの?」
姉ちゃん、相変わらずこえ―な。
「あ、いや別に…」
「何よそれ、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ。それとも私が別れるのに何かご意見でもあるの?」
「だから何もねーよ」
精一杯そう言い返した。
「そりゃそうよね。あんたまだ彼女もできたことないヘタレだもんね。大人の恋愛に口出ししたかったら彼女くらい作んなさい。ねー母さん」
姉貴がそう言うと母も同意したらしく
「そうねー、私も心配だわよ。この子一生彼女できないんじゃないかって。結婚して孫くらい見せて欲しいんだけどね。でも大丈夫よ、もうその心配はないは。美佳、あんたがいるから。あなただけが頼りなんだからね」と言った。
本当にこの二人はひどい。俺の心にぐっさりといばらのとげのようなものが刺さった。
こんな二人に囲まれて育てられたから俺は類まれなる女嫌いになったんだろうか。そうとしか思えなかった。俺はいたたまれなくなって少しだけ食べ残したごはんの入ったお椀とサラダの入っていたガラス皿とビーフシチューの入っていた白い大き目のカップを台所のシンクに持っていきその場を離れることにした。
「ごちそうさま」
作品名:ミソジニー 作家名:片田真太