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ミソジニー

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「そんなおかしな理屈納得できない」
俺は憤慨してそう言った。
「まあ、納得できないのは分かるけどよ。頭のおかしいやつとは関わらないようにしないとさ。お前はさ、喧嘩を売っちゃいけないやつに喧嘩を売っちゃったんだよ。お前そういうところ鈍感だからな。もっと世間というやつを知ろうぜ」
山村の言い方にも少しムッとくるところはあったが、もはやそんなこと気にしていられなかった。俺はあまりの衝撃で力が抜けたと同時に頭の中が絶望感でいっぱいになった。こんなことのために俺はいじめに遭い、はたまた学校中に写真をばら撒かれて停学処分にされそうになっているのか。それだけじゃない、今回の件は俺の大好きな真由美先生のことまで追い詰めるきっかけとなっている。
でも、もう後悔しても後の祭りだった。
俺はもうヤクザだろうが何だろうがその眞口っていうやつがただただ許せなくなった。
「とにかく、お前は学校で友達が一人もいなかっただろ?だから味方がいなかったんだよ。俺に聞けばもっと早く教えてやったのにさ。前に俺はお前の味方だっていっただろ?みんなヤクザが恐いから言いなりになってたんだよ、脅されてしかたなく。それにな・・・ほかの奴らもみんな峰岸遥のことが好きだったやつが多いんだ。だからラブレター事件の話を聞いてもともとお前のこと快く思ってなかったやつらも大勢いたし」
そうか・・・そういうことだったのか。
一連の謎はすべて解けた。
俺は途端に拍子抜けしてその場で崩れ落ちそうになった。
こんなことのために・・・
俺は先生と出会う前までは本当にただただ人生と学校にうんざりしていて、無気力そのものだった。それも嫌な面倒なことには極力関わりたくないっていう理由だった。それが無気力だったことでかえって味方が一人もいなくなってしまった。ただただ今までの自分の人生を振り返りやるせなさと憤りを感じたが、もはややり直しはきかなかった。
俺は先生と出会って本当の愛を知った。その愛を知った途端にこんなことが起きてしまった。やっとの思いで見つかったものがいとも簡単に崩れそうになっている。そんなことは到底納得できなかった。ただただやるせなかった。

翌週、学校側は案の定、真由美先生の主張を却下して、俺とのデートの写真を問題にしようとしていた。というか学校側は最初からそのつもりだったのが見え見えだった。
俺は真由美先生に聞いてみた。
「いっそのこと俺たちとのこと話してみれば?いじめの問題について相談に乗ってもらってたら、本当に好きになってしまったって。そういえばいいじゃん。何で本当のこと言わないんだよ、先生?」
「私もそう思ったことある。でもね、学校側はもういじめ問題は完全に隠ぺいしたい感じになってきていて話を一切聞いてくれない。もっと確実な証拠を残していればよかったんだけど。だから本当のことを言ってももう通用しないし信じようともしない。それにね・・・例え信じたとしても・・・本当のことがばれたらやっぱり私たちにとってはまずいことになると思う。教頭先生にはね・・・いじめの問題をこれ以上大きくして騒ぎにしなければ、生徒との今回の件は大目に見て、私が自己都合で辞職するだけでいいことにするって取引を持ちかけられたの」
え・・・先生は教頭に学校を辞める話を持ちかけられた?
「でも・・・でもさ・・・そんなの俺、納得できないよ。いじめがあったのは事実なんだし・・・」
「それで・・・たたかってどうなるの?今回のいじめの件は学校側は絶対に認めないし、蒼太君、停学とか退学処分になるのよ?私だって懲戒解雇されて学校を追い出されることになる。それに・・・もし・・・もし、こっちの主張が万が一認められていじめた側の処分が下されて、いじめがなくなっても、結局、私たちが学校から追い出されるのには変わらない。私は・・・自分で学校を辞める分には、前の学校に戻れるかもしれないし、あるいは他の学校にも行けるかもしれない」
「そんな・・・」
もうそれ以外何の言葉も出てこなかった。
「もう決めたから・・・ごめんなさい」
俺は悔しくて仕方がなかった。極悪非道のヤクザなんかに屈してたまるか、と思った。例え停学処分になろうとそのヤクザに目にもの言わせてやりたかった。先生には迷惑をかけてしまうもしれないけど、でも俺はただただ眞口の卑怯なやり口が気に食わなかった。
俺と先生の純粋な愛を壊そうとする奴はヤクザだろうが、誰だろうが許せるわけがなかった。本当に純粋で真実の愛をただ見つけただけなのになぜ誰かにいとも簡単に壊されなければいけないんだ?
先生は自分の意向をまったく変える気はないようだった。
「多分・・・多分なんだけど・・・私の想像だけど・・・学校側はその眞口家を恐れているのかもしれない。問題が大きくなればなるほど、眞口家が何をしでかすか分からないから。最初は多分いじめ問題を解決するつもりだったんだけど、眞口家が関わっているということが何となくで分かってしまい、学校側もいじめの事実をもみ消すしかなくなったのだと思う。本当に情けない話だと思うけど。学校側はヤクザと対立するのが面倒なのよ。巨額の寄付金も受け取っているらしいし。敵にまわすと学校の経営問題にも関わるし、下手したら破綻する可能性だってあるかもしれない」
そんな理不尽なことってあるのか?
世の中金と権力がすべてなのか?
ただ俺はそのことに絶望した。
「先生は・・・それでいいの?悔しくないの?」
真由美先生はしばらく黙っていたが、その後しばらくすると
「私も悔しい・・・でも世の中どうにもならないことってあるのよ。前にも言ったように、人を傷つける側はいつも素知らぬ顔でそれをやってのけて、その後はさも何もなかったかのように過去をいとも簡単に忘れてしまうものなのよ。そして傷つけられた側は一生心に傷が残る。私がそうだったように。でもね・・・絶対に負けたらダメ。屈しなければいずれいいことだってある。だって、そうでしょ?私たちはここで出会って、本当の愛を見つけた。私、初めて本気で人を好きになった。例え相手が年下であっても私にとってはそんなことどうでもいい。本当に好きならば」
そう言うと先生は涙を少しだけ流したように見えた。
俺も先生につられてなぜだか目から涙がこぼれ落ちてきた。
しょっぱい水がほほを伝って少しだけ口に入ってきた。
その味は絶望とはかなさと淡い思い出に満ちていた。



先生は自分で決めたように、自己都合で退職することになった。
先生は教壇の前に立って軽く会釈をした後に、簡単にお別れの挨拶をした。退職したら、また地元に近いどこかの学校に応募して転職する予定みたいだった。こんなことになってしまったため、そんなに簡単に実家の近くですぐに教師の仕事がみつかるのかは分からないけれど、やはり年取った母親のことが心配だからだそうだ。
「本当に短い間でしたけど、お世話になりました」
先生はほとんどろくに話もせずにそう言って軽く会釈をした。文字通り簡単に済ませて終わらせたいかのようだった。
生徒たちから一斉に拍手が起きた。
生徒の代表が真由美先生に大きな花束を渡してまた大きな拍手が起きた。
本当に短かった。先生との学校の思い出はたった四か月足らずの出来事だった。
作品名:ミソジニー 作家名:片田真太