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ミソジニー

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先生は俺の意向を察知するかのようにそうすかさず聞いてきた。
「はい・・・そうです」
先生にそう言われてしまった以上そのように返事をするしかなくなってしまった。
俺は学校で変な噂が流れてしまっていることを一部始終話すことにした。
先生はしばらく考え事をしていたがやがて
「そっか・・・大変だね」
そう簡単に一言だけつぶやくように言った。
しばらく俺は隣にいる先生を近くで見つめていた。
すると、先生は何やら屋上から学校のグランドを見下ろして眺めているようだった。
「この学校いいよね・・・グランドが広くて。屋上からの見晴らしもとってもいいし。ちょっと郊外にあるからかな。私の高校は都心にあったからもっと学校の周りもビルとか商店街でごみごみしてたから」
先生は突然そんな自分の昔の学校の話をし出した。
そしてすぐに事前に用意していたかのように話を元に戻した。
「ちゃんとみんなの前で説明した方がいいかもね・・・。竹井君がラブレターを破いてしまったことで、彼女の友達の誰かが怒って噂を流したのだとしたら。高校生くらいのときってとても多感だからね・・・ちょっとしたことでみんなお互い嫉妬したり怒ったり傷ついたり傷つけあったり」
「でも、先生・・・みんな俺を全然信用してくれないんだ」
俺が焦ってそう聞くと
「そうね・・・まず峰岸さんには謝った方がいいかも。少なくとも竹井君が彼女を傷つけてしまったことは事実なんだから。それはちゃんと誠意をもって謝った方がいいと思う。」
先生は真剣な顔つきで俺を促すようにそうアドバイスした。
「今更謝っても・・・許してもらえるのかな」
俺は内心不安になった。
「でも、それしかないんじゃない?その人を傷つけてしまったら誠心誠意謝ることが一番だと思う。そういうのって傷つける方はすぐに過去のことだって忘れちゃうけど、傷つけられた方って一生心の傷として残るのよ」
先生の言っていることはもっともだと思った。それは高校生の俺にも何となく分かる。
何よりも俺自身が傷ついてるじゃないか。
先生に言われて初めてそのことに気づいた。
そうだ、やっぱり彼女には謝らないといけない。
自分のとった不注意な行動で峰岸遥はものすごく傷ついたんだ。
「分かったよ、先生。俺、彼女に謝ってくる。」
「うん、それがいいと思う」
そう言って先生は少しだけ微笑んだ。




次の日、俺は勇気をもって峰岸遥に話しかけようとした。謝るつもりだった。いまさら話を聞いてもられるのかは分からなかったけど、それが俺のできる最大限の誠意というやつだった。
でも、彼女の周りには友達がたくさんいて話しかけづらかった。
俺は頑張って勇気を振り絞って教室の外の廊下で何とか彼女に声をかけてみた。
「あのさ、峰岸」
峰岸遥はこっちを振り返った。
彼女はびっくりした表情でこっちを見た。
すると隣にいた本村加奈子や他の女子数名が
「何だよ、この最低野郎」
「嫌われもの」
と間髪いれずに暴言を吐いてきた。
もはや俺は女子から大のつくほどの嫌われものになっていたようだ。
「峰岸に話があるんだ」
俺は一瞬ひるみそうになったが、ぐっとこらえて負けじとそう切り出した。
峰岸遥は俺の方を見ていたが、俺が彼女を見るとすぐに目をそらした。
「遥はあんたなんかに用はないってさ」
「そうよ」
そう言って彼女らは振り返ってさっさと足早に行ってしまった。
俺はその場にぽつんと取り残されてそれ以上何も言えなくなってしまった。




次の日の朝、教室の机の中を見ると何やらあやしげな紙がたくさん入っていた。
その紙にはそれぞれ一枚ずつ何かの文字がご丁寧にカラフルな水性ペンか何かで書かれていた。
「このやり捨て野郎」
「最低ゲス男」
「ヤリチン」
「存在感ないくせにモテ女子の遥を振るなんていい度胸」
「クラスのみんなお前の敵だ」
「さっさと学校やめろ」
そんなようなことがどの紙にも書いてあった。
悪口と誹謗中傷のオンパレードだ。
何だよこれ?書いてある内容があまりにもひどい。
俺はあまりの衝撃に大ショックを受けるとともに突然腹の底からとてつもない怒りのようなものがふつふつと沸いてきた。
でも、俺は普段から学校でろくに友達を作ってこなかったから味方などほとんどいなかった。今更ながら自分の学校生活の態度ややる気のなさを後悔した。もっと友達をたくさん作っていたなら、と心の中でそう思った。
何だか授業を受けている間も廊下を歩いている間も、周り中がみんな敵だらけに見えてきた。疑心暗鬼で頭がどうにかなってしまいそうだった。まるで学校に自分の居場所がどこにもないみたいだった。教室にいても廊下にいてもつねに何かの圧力ではじの空間に追い詰められているかのようだった。

いじめはエスカレートする。
最初はその程度だったが、次第にどんどん異常さをましてきた。
体育のバスケやサッカーの授業のときなど、誰も俺にパスをまわさなくなった。明らかにわざとだった。教師の目には故意だと到底分からないように巧妙にタックルしてくるやつもいた。
俺が何かミスをすると女子たちがクスクスと笑いだす。
この前なんか教科書の何ページ目かがそのまま丸ごとなくなっていた。誰かが俺のいない隙にびりびりと破り捨てたようだった。
そして、ある日掃除当番のときに俺と一緒の当番だったやつがさぼって俺一人に押し付けてきた。
俺は学校生活なんかどうでもいいって無気力で生きてきた人間だった。どこいっても存在感なんてなかった。逆にそのおかげでといったら大げさだけど、今まで誰にも大して注目なんかされてこなかったし、ひどいいじめに遭ったことなんて一度たりともなかった。でも、これがまさしくいじめってやつなんだって今はっきりと分かった。初めての経験だった。そしてそれはとても残酷なものだと分かった。
そして片瀬先生が小学生のときに経験したいじめの話を思い出した。喫茶店で先生の話を聞いていたときはシンパシーこそは感じたものの正直他人事だったので、架空の話のような気がしたけど、自分が実際にいじめに遭い、そのなんとも言えないくらいの残酷さを肌で感じると、先生が味わってきたその辛さやその記憶、はたまたトラウマといったものを今初めて心の底から理解できた気がした。
でも、何としてでもいじめをしている張本人をとっ捕まえて学校側に訴えたい気分だった。いくら俺がひどいことをしたからって、事情も聞かずにこの残酷な仕打ちはあんまりじゃないか・・・
俺はもう我慢の限界だった。
でもいじめに遭っていることがショックで精神的にも限界だったし、そもそも学校でいじめられているという事自体が恥ずかしくてたまらなかった。何だか途端にいたたまれない気持ちになり、今すぐにでも学校をやめてしまいたい気分だった。

俺が一人で掃除当番をしていると、教室にまた片瀬先生が入ってきた。
先生はいつも絶妙なタイミングで現れる。
「あれ、もう一人の当番は?」
先生はそう聞いてきた。
俺は答える気力などなかった。
一人静かにモップで床掃除をしていた。
「どうしたの?」
俺が無言のままだったので片瀬先生は少し口調を大きめにしていった。
「ねえ、一体どうしたの?」
俺はモップの床掃除を一端やめた。
「来ないよ」
作品名:ミソジニー 作家名:片田真太