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ミソジニー

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何だか話が急展開してきた。俺はその先どうなるのか気になってつい
「それで・・・どうなったんですか?」
と聞いてしまった。
先生も興奮してきたようで
「そうね・・・」
と言って、その興奮をまた冷まして気持ちを落ち着かせるかのようにコーヒーをすすった。
「今思えばあんなこと決心しなければよかったのね・・・」
先生は悲しそうに言った。
「決心しなければよかった?」
俺は心の中で独り言のようにそう思った。
「正直驚いた。まあ、予想していたことは予想していたし。覚悟してたんだけどね。よくある話だけどね・・・彼には当然彼女がいたの。彼の方に走っていったらね・・・突然後ろから別の女性がかけよってきてね。『誰だろう?』って最初は思ったんだけどね。まさか彼女なわけないよね?って心の中で期待したんだけど、案の定その後二人は腕を組んで楽しそうにキャンパスの門の出口から出て行ってそのまま駅の繁華街の方へ向かっていった。」
そこまで話し終わると先生はまた一呼吸した。全部自分の過去を吐き出して一安心したかのように。そしてまた下をうつむいてなんともいえない儚げで悲しそうな表情を見せた。
俺は先生の恋が成就しなかったことが悲しくなった。自分でも不思議なくらい先生の話に夢中だった。普段は他人の話になんてまったく興味もなかったのに。
「普通ならそんなことでショックを受けないんだけどね。18にもなってそんなことで驚く方がおかしいよね。でも、私にとっては初恋で生まれて初めてのことだったから、まるで今までの人生のすべての青春を奪われたかのようになってしまって。それでね、また逃げるように私はサークルをやめてしまったの。そして、また孤独なキャンパスライフが始まった。最初は本当に孤独だった。まるで心のどこかにぽっかりと穴が空いてしまったかのようだった。そんな一人の生活がしばらく続いたある日ね、ある日突然何か授業でその櫻井さんとばったり同じになってね。席が近かったから私に声をかけてくれて。『何で突然サークルやめちゃったの?』って。優しい人だったから気にかけてくれたのね。そしたら『ほかにやりたいサークル見つけたから』ってとっさに嘘をついてしまって。そしたら櫻井さんは残念そうに『そう。でも、またやりたくなったら来なよ。いつでも歓迎するから』って。嬉しかったけど私はお礼だけ言って講義が終わると、一目散にその場から去った。
私は本当に臆病でダメな弱虫だって。自分を呪ったりもした。その頃の自分は本当に生きたしかばねのようだった。無表情でいつも冷めてた。一人で講義を受けて一人でランチを食べて、一人で帰宅する。そんな生活が続いて、ある日もう限界だって思って。そして、心理カウンセラーとかに通うようになった。そういうものがあるんだってこともその頃知ったの。それでこのままだと本当に一生恋愛もできないって思って、カウンセラーの人にどうしたら男性不信を克服できるのかな?とかいろいろと聞いたの。でも・・・うまくいかなくて・・・ある程度はカウンセリングでよくなったし、普通に男性とは話せるようにまではなったし緊張したり怖くなったりはしなくなった。でもやっぱり恋愛したいとまでは思わなくって。後にも先にも・・・私が恋をしたのはその櫻井さんって人だけ。その人だけが私にとっての唯一の青春なの」
先生はまた一呼吸置いた後にコーヒーをぐいっと一気に飲みこみ、そして全部飲み終わるとカップをテーブルにそっと添えるようにして置いた。まるで全部話し終えて使い果たしたエネルギーをコーヒーを全部飲み干すことでもう一度補給したいかのようだった。
「これが全部よ・・・私の過去の全て」
彼女はそう言った。
本当に悲しい話だった。それはまるで壊れやすいガラスのコップが音を立てて全部破壊されてしまったかのような、そんな衝撃的な話だった。俺はまるで自分も先生の今までの人生を生きてきたかのような感覚に襲われた。そしてまたもやシンパシーを感じとってしまった。
「親には・・・親には本当に何も相談できなかったんですか?」
俺はそう聞いた。
「そうね・・・私が大学を卒業したくらいの頃かな・・・母も私の世話からやっと解放されたのかとっても安心したようだったし、話を昔よりはよく聞いてくれるようになったのよ。それである程度はそういう話をした。母は謝ったわ。今までそんな大変な話を聞いてあげられなくて本当にごめんねって。心から同情してくれたし、謝ってくれた。それでね・・・何だかほっとしたっていうか肩の荷が下りたような気がして・・・それまでは仕事で忙しくて話をろくに聞いてくれなかった母を恨んでいたんだけどね」
とても聞いてはいけないような話を聞いてしまったかのような気がしてきた。
先生はまだ悲しそうな顔をしていたが、俺まで先生と同じ気分になってきたかのようになり、思わず下を向いてしまった。
「でも・・・ここまで全部話したのは君が初めてよ・・・」
そう言われた俺は
「何で・・・何で・・・俺なんかに?だって、別に昨日今日先生と会ったばかりだし・・・それに・・・・俺なんかに話したって」
とっさに慌てて反論するかのようにそう言ってしまった。
「・・・そうかもね。何でかな。年も10以上も離れてるのにね。前に教室で君と話したように・・・何かシンパシーを感じたのかな。それにね・・・」
「それに・・・?」
「ただの高校生だって思えなかったの。教室で初めて会ったとき私を助けてくれたときから・・・君からは何か普通じゃない何かを感じた。それとね・・・竹井くんも私と同じでもしかしたらと思って」
「同じ?」
「そう・・・もしかしたら竹井君も・・・」
俺は何を言われるのかと思って思わずつばを飲み込んだ。
「異性が信じられなかったりする?」
突然何かのボール球の直球を食らったかのような衝撃だった。
先生は何でわかったの?
俺が先生にシンパシーを感じたように、先生も俺にシンパシーを感じたの?
「何で・・・何で分かるんですか?」
先生は一呼吸おいてから話し始めた。
「告白してきた女の子に騙されたからラブレターを目の前で破ったっていってたでしょ?普通の男の子はそういうことはしないと思う」
先生は鋭い口調で分析するかのように言った。
「普通だったら嬉しいからひとまず受け取って返事はすると思うの。だから・・・もしかしてと思って・・・」
俺はどう言葉にしたらいいか分からず
「そうなんですか・・・」
とただそうつぶやいた。
「ああいうことするのには何かしろ理由があるんじゃないかって思った。でも・・・もし違ったらごめんなさい。でもね・・・前にもいったように私は人の心を読むのだけはなぜか得意なの。だから結構私の勘って当たるんだ」
勘って・・・そんなことで人の気持ちや考えていることが本当にわかるんだろうか?と俺は心の中で思った。
「でもね・・・もし本当だとしても言いたくないと思うから。だから言わなくてもいいよ。」
と俺をなだめるかのようにそう言った。
「別に・・・いいたくないわけじゃないんです・・・ただ・・・言える人がいなくて・・・」
「そっか・・・」
しばらく先生と俺はお互い視線をずらしたまま黙ってしまった。
作品名:ミソジニー 作家名:片田真太