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ミソジニー

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「いえ、絶対に分かりたくないです」
俺は反抗期のガキみたいに先生に反発するようにそう言い放った。
「なぜ・・・なぜそう思う?」
俺が黙っていると先生はふいに話し出した。
「私もね・・・親どころかこの世界のすべてを憎んでいた時期がある。やるせないくらいこの世を憎んだこともあった。愛というものが何なのか分からなくなって。」
俺には先生の言っていることがあまりに抽象的すぎてその意味がよくつかめなかった。
「竹井君といると不思議ね・・・何でも話せてしまいそうだから。何か同じものを感じるからかな。だから何だかどんどん自分のこと話してしまう。私の過去を話してもいいかなって思うからかな」
先生はそう言った。確かに普段は大人しい感じのする先生がいつになく饒舌に話しているのが何だか妙で不思議な感じがした。
「先生の過去ですか?」
「正直に話すとね・・・私・・・実は・・・男性不信だったの。というか今も多少そうなんだけど」
とっさの切り口だったので俺は少しだけ驚いた。
それが・・・先生の秘密?
「別に隠すようなことじゃないんだけど・・・今まで誰にも話さなかったの。でもなぜか君には話せそうな気がしてきた」
先生は続けて話し出した。
「今でも男性と話していると時々足や手が震えることもあるし、部屋で男性と二人きりとかになると正直怖くなるときがある」
そう言いながら先生はまたコーヒーを人啜りした。
自分とは平気で話していたから俺には先生がそのような人には全然見えなかった。
「私はね・・・一度過去を消去しようとしたことがあるの」
過去を・・・消去?
いったい何のことだか雲をつかむような表現でよく分からなかったが、そう言った後に彼女は誰かに頼まれたわけでもないのに自然な風の流れに誘われるかのように自分の過去を徐に話し始めた。

「私は小学生のときにね・・・いじめに遭っていたの。顔にひどいアトピーがあってね。もうそれはまともに見られないくらいひどい顔で。それでいつもクラスの男子にバカにされてた。ブスブスって」
出だしからとても暗い内容の話だったので少しだけ驚いたが、俺はそのまま黙って聞いていた。
彼女は続けて話し出した。
「幼児性アトピーだったから中学に上がる頃には治ってたんだけどね。でも小学生のときは本当に顔中ぶつぶつがひどくて、それはひどい言われようだった。醜い妖怪女だとか蛇女だとかそんな感じで学校の帰りに男の子たちに後をつけられて散々ひどいこと言われてた。やめてって言ってもやめてくれなかった。女子は味方してくれるかなって思ったけど、ある日・・・男子たちに教室でいじめられてたらね・・・女子たちもみんなクスクス笑いながらこっちを見てきてね。『妖怪女だって。本当そうだね。』って。学校にいくのが本当に辛かった。小学校に上がる前に父は病気で亡くなってしまっていて、母は女手一つで私を育てなきゃいけなかったし、仕事で本当に忙しくて私の話なんかゆっくりと聞くどころじゃなかった。母は母なりに必死だったんでしょう。だからそのことを相談しようとしたら、『忙しいからまた今度ね』って。いつもそればっかりで」
そこまで話すと先生は突然悲しげな顔をしてテーブルの下の方を見てうつむいた。そしてしばらくするとまた顔をゆっくりとあげてコーヒーを少しだけすすった。高ぶった感情を落ち着かせているようだった。
「それで・・・ほかに相談できる人はいなかったんですか?」
高校生の俺には難しい話だったけど、先生にそんな悲しい過去があったことを知り、何だか急に彼女が可哀想になってきた。
「ううん・・・ほかに相談できる人もいなかったし。だから学校も休みがちだったの。中学生に上がる頃にはアトピーは治ってきて、いじめには遭わなくなった。でも、中学二年のときにある男子から告白されたことがあってね。最初はいじめられた経験があったから男子が恐くて断ろうと思ったの。でも、小学校から地元が同じだったある女子がね、その男の子のことが好きだったみたいでその話をやっかんだのか卒業アルバムか何かで私の小学生のときの昔の写真をその男子に見せたみたいで。その男の子は地元が違ったから私とは小学校が違ったからね。そしたら、その男の子が急に態度を変えてね。やっぱり告白のことは忘れてくれって言ってきて、それから私には一切話しかけてこなくなった。そんなことがあってね・・・ますます男性不信になっていったの。男の子って女子の顔しか見てないんだって思って」
また、先生は一息つくようにコーヒーをすすった。
俺もコーヒーを少しだけ飲んだ。
「それでどうしたんですか?」
俺が聞くとまた先生は続けて話し出した。まるで我を忘れるかのごとく夢中な感じだった。
作品名:ミソジニー 作家名:片田真太