泡の世界の謎解き
もっとも、他に客がいれば別だが、おしその時間の女の子の予約状況をネットで確認していれば、わざわざ開いていない六時にやってくることはない。したがって、ほぼ、穴が開くといってもいいだろう。
その日も、お客さんが一人、六時からの女の子を目当てに予約を入れていた。
彼女も、出勤体制をとっていて、店に時間までに入れる体制をとっていたようだ。
その日は、八時まで、女の子はその子一人だったので、早朝の部の受付や諸々のスタッフは一人だけで賄うことになっていた。
彼は、数か月前に入った、
「まだ新人」
といってもいいくらいで、まだ若干二十歳くらいの少年といってもいいくらいだった。
端正な顔立ちといっていいのだろうか。まだ、あどけなさの残る顔で、しかも、笑顔がかわいいとなると、女の子からも人気があった。
だが、ちょっと自信がなさそうなそぶりがあるので、女の子から、かわいいといわれながらも、バカにされているところもあった。
それでも、イケメンは得だというべきか、女の子のほとんどから、嫌われていることはないようだった。
仕事は真面目で、潔癖症なくらいなところがあるので、細かいところに気が付くところが、彼の一番のいいところだと、女の子から言われていた。
それだけに、彼のファンの女の子もそれなりにいて、
「やはり、女の子って、清潔な男性が好きなものなのよ」
と女の子同士でウワサしていた。
「私たちのように、こういう商売をしていると、たまに不潔な客もいるから、清潔感のある男性に、自然と惹かれるのよね。そういう意味では、彼なら合格だって思うわよ」
と一人がいうと、
「それはそうなんだろうけど、あんまり潔癖症な人は、疲れるだけで、精神的に重くなってしまうんじゃあないかしら?」
ともう一人が言った。
「それはそうなんだろうけど、私はそれでも、清潔な人がいいと思うわ。だって、それだけ素直だってことだと思って、信じられる気がするの」
といった。
思わぬ死体
その日は、朝から予約が入っていた。普段は、なかなか早朝というと六時から店を開けていて、すぐにお客さんが来るということも珍しい。ただ、七時くらいから、ボチボチ来る客もいたりする。それは、
「これから会社に行く」
という人である。
普通の人だったら、
「わざわざ早起きしてまで、来ないよ」
という人が多いのだろうが、考えてみれば、早朝には、結構メリットがあるという。
まずは、
「通勤電車で満員のラッシュに遭わなくてもいい」
というのがある。
会社までの通勤経路にあり、会社まで近いとすれば、先に会社の近くまで来ていたと思えばいいだけのことだ。
しかし、考え方として、朝の通勤時間に店から出ることになるので、
「誰か会社の人に見られないか?」
というのもあるが、それなら可能性としてなら、夜でも同じだ。
しかも、駅から会社までの途中にあるのであれば、見つかる可能性もあるが、少し遠回りだとすれば、大丈夫である。
「ここまで来ているのだから、スッキリして会社にいけばいいのだから、ありがたい」
と思えるのだった。
さらに、人が少ないという意味で、このあたりを通る人も少なく、それに、まさか、スーツを着て、朝からソープに出陣しようとは、思っていないだろう。変に詮索されることもない。
そして、早朝だと、その女の子の最初に当たれるということである。これは結構大切なことで、開店を狙う客は、皆同じことを考えているのだろう。
そして、もう一つ、ここがリアルに重要なところであるが、
「早朝割引の店が多い」
ということである。
早朝だと、他のどんな割引よりも最安値だということで、早朝のメリットは、実はこれが一番だった。
早朝割引を行う店でないと、なかなか早朝から客が入ることは望めない。早朝営業をするのであれば、早朝割引はセットだというものだ。
ということになると、早朝営業できる店は限られてくる。
いわゆる、
「高級店」
と呼ばれるところは、早朝割引などしないからだ。
なぜかというのは、当たり前のことで、高級店というのは、
「高いお金を払ってでも、サービスを最重要視して、他では味わえないサービスを得たい」
という願望を持っている客が行くところである。
少々、サービスの質が落ちてもいいというのであれば、最初から大衆店や、格安店にいけばいいのである。
つまり、そんな高級店が、サービスを落としてでも、割引をするというのであれば、高級店の意味がなくなってしまうのだ。
高級店を求めてくる客からすれば、早朝サービスなどをすると、
「高級店の誇りがあって、客に最高のサービスを与えてくれていたところが、なりふり構わない営業を始めるなど、よほど営業が厳しいのか、それとも、大衆店に切り替えようとしているのか?」
ということを見透かされて、客は来なくなるのは必定だ。
高いお金を出してでも最高のサービスを受けたい人は、目も肥えていて、そんな露骨な、
「品質や品格を落とすような店には、今後一切来ようとは思わない」
と思うことだろう。
客単価を上げるために、数少ない固定客でもいいと思っている店が、顧客を少しずつでも失っていけば、その時点で、店は終わりだといってもいいだろう。
そういう意味で、高級店における。
「早朝営業」
というものは、タブーだということであろう。
したがって、このお店は、大衆店であった。
この日の客は、夜勤明けの客で、ここ数か月の間に何度か来ていた。
「夜勤明けで来ているので、なるべく早く来て、待合室でゆっくりしている」
ということであった。
その店は、事前にアンケートを取る形式をとっていて、要望などがあれば、そこに書くことで、女の子へ直接要望しなくとも、前もって分かるシステムになっていた。
「女の子と会話するのはちょっと」
という客もいるのだ。
しかも、相手が風俗嬢ともなると、恥ずかしくて顔を見ることもできないような客も尾いたりするだろう。
「今日は、例のあのお客さんが来られるから、少し早めに、店に行っておこう」
とイケメンスタッフはそう思っていた。
普段なら、六時前くらいでもいいのだろうが、三十分前には確実に電話があるのが分かっているので、少なくとも、5時20分までには、店に入っていないとまずいだろう。
何しろ店側から、
「ご来店。三十分前にお電話を入れてください」
といっているのだから、三十分と少し前にはいなければまずいのだ。
店の受付で準備をして、電話を待つ。パソコンの端末の電源を入れておかなければ、そのお客様から、何か問い合わせがあった時に答えられないということもあり、その受付業務が万全にできるだけの時間に余裕を持っておかなければいけないだろう。
彼はそれくらいの機転くらいはきく方だった。
まだ真っ暗な中を、車で近くの駐車場に止めたのは、5時過ぎくらいだった。そこから店までは、徒歩で10分、途中でコンビニに寄ってくるので、その時間を入れると、店への入店まで、15分くらい、ちょうどいいくらいであった。