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泡の世界の謎解き

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「そうよね。私もびっくりしたわ。事件もそうだったんだけど、森脇さんが落ち着いておられるのも、頼もしかったと思います。ああいう時って、意外と男の人は結構ダメなものだと思うんですよ。完全に委縮して、何も話せなくなるか、話をしても、私たちが見ていても、視野が狭いとしか思えなくて、イライラしてしまうような」
「僕が落ち着いていた? そう見えたのなら嬉しいです。りえさんが落ち着いておられるので、僕も落ち着かないといけないと思ってですね」
「そう言ってもらえるのが、一番ですね。どうしてもここの男性は、自分が男だという意識があるくせに、余計なことを言ってはいけないという普段から黒子のような仕事をしているという意識から、どうしても、寡黙になってしまう。それって、女の子たちから見ると、正直引いてしまいますよね。もし、事件が解決して、普通に営業できるようになっても、女の子としては、そんなスタッフさんとは、これまでのようには精神的に対応はできませんよ。どうしてもバカにしたりするような態度になったりするものですよね」
 とりえがいうので、
「そっか、そうですよね。今思ったんですけど、つかささんが、僕に対していつも苛立っているのを、その言葉どおりに、自分が丸山さんに比較されているからだと思っていたんです。確かにその通りなんでしょうが、本当にそれだけだったのかな? とも思うんですよ。僕に対してだけではなく。つかささんは、僕を見ていて、丸山さんに何か最近違和感があってそれでイラついていたのかなってですね。そのあたりの考え方は、さっきりえさんが刑事に話をしていた内容に似ているような気がしますね」
「さっき、私が指摘しましたけどね」
 とボソッとりえは言った。
 確かにそういっていたのを今思い出したが、まくしたてるような言い方をしたりえを初めて見た気がしたので、少し臆していたのは間違いないだろう。そう、男性というのは、「人に、特に女性にまくしたてられるように言われると、何も言えなくなってしまう動物なのかも知れない」
 と感じたものだった。
 りえはそのことに気づいたかどうか分からないが、りえを見ていて、もう一つ気になることがあった。
 それは、
「りえさんは、リアルに彼氏が今いるのだろうか?」
 ということであった。
 確かに、今回の事件を冷静に見れているのはりえで、話を聞いていると、その説得力のある発言には驚かされる。
 だが、それは逆に、それぞれの立場をよく理解できていて、中立的な立場だから、分かっている部分があるだけではないかと思うのだった。だから、りえの話を聞いていて、
「彼女の言っていることに間違いはなさそうで、今は一番真相に近づいているような気がするのだが、結局最後は違う人が事件を解決するような気がしてきた」
 と感じた。
 しかし、もう一つ感じたのは、
「その事件解決というのは、表に見える部分の解決は彼女にもできるだろうが、その裏に潜んでいる。たとえば、人間の素の感情のようなものには、近づくことができないと思え、本当の動機までは分からないような気がしたのだ」
 要するに、人間の人間らしさというところまで分かってしまわないところに、森脇がりえに興味を持ったところに思えた。
「何でもかんでも分かってしまうのは、却って距離を遠く感じてしまうので、嫌な気がするな」
 と思うのだった。
「りえさんは、ひょっとして、丸山さんとつかささんのことで、もっと他に知っていることがあるんじゃないですか?」
 と、思い切って聞いてみると、
「私は、元々、あの二人に興味を持っていたわけではないですから、よく分かりません。でも、今日、お話ができたのは、二人を客観的に見ていた自分が、丸山さんが殺されているのを見て、改めて思い出すと、やっぱり、二人を表からしか見ていないことに気づいたんですよ。でも、刑事さんや森脇さんの話、そして、先ほどの会議と称している茶番に出たことで、表から客観的に見ていたからこそ、ほどかれた糸を、自分なりに結びつけて、手繰ってみることができた気がしたんです。今もその感覚を持って、いろいろ思い出そうとするんですけどね。それには私だけではどうにもならないんですよ。そう思っていると、このまま帰って悶々とするのは嫌なので、だったら、丸山さんとお話ができると、そこから何か、分かることが出てきそうな気がしたので、お誘いしてみました」
「そういうことなんですね。僕も少し考えてみよう」
 と、ほんの少しの静寂の時間があった。
 というのは、森脇は最初に、
「結構長い間の時間、沈黙だった」
 と思ったのだが、りえの様子を見ていると、そういう雰囲気が感じられなかったので、
「自分の勘違いではないか?」
 と思ったのだ。
 そのせいで、頭が少し混乱し、マヒした感覚の中で導き出されたのが、
「ほんの少しの静寂の時間」
 だったのだ。
 正直、ほんの少しでもないし、静寂という感覚でもなかった。
 きっと、その中には、
「こうであってほしい」
 という願望が含まれていたのだろう。
 願望というのは、時として、感覚を狂わせるが、逆に真相に近づけてくれることがある。
「図らずも」
 という言葉があるが、それは、あざとさや計算がないことで、自分が思っていたのとは違う方に、つまりは計算しているわけでもないのに、あたかも計算している自分を自分で感じることができるというものだ。
 それが、どういうことなのか、よく分かっていないが、今回のような事件が起こり、一人であれば、パニックになったまま、しばらく立ち直れないと思える出来事に、一緒に遭遇してくれる人がいるだけでありがたいと思うものだ。
 それが、集団意識というものなのか、孤独を埋めてくれる人の存在をありがたいと思うのか、いや、森脇にはそんなことはなかった。
 そもそも、森脇は、一人でいることを孤独だと思うことはなかった。
 もちろん、
「寂しい」
 という感情はあるのだが、寂しいという感情と、孤独だと思う感情とが同じものなのか、自分でもよく分かっていない。
 そこで、りえに聞いてみることにした。
「事件とは関係ない話なんですが」
 と前置きをすると、
「ええ、いいですよ」
 と、快諾してくれたので、
「孤独と寂しさの違いって何なのでしょうか?」
 と聞いてみた。
 りえは少し考えたうえで、
「私は、孤独というものが、寂しさに含まれるものだと思うんですよ」
 というではないか。
「うんうん、確かにそうですよね。寂しいと思うから孤独になるということかな?」
 と森脇がいうと、
「いいえ、私の思いは少し違うんですよ。寂しさというものが、孤独だけから来るものではないと思っているんです。つまり、今の森脇さんの発想とは逆ですね」
「どういうこと?」
作品名:泡の世界の謎解き 作家名:森本晃次