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泡の世界の謎解き

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 自分の惨めさを、さらに自分以上に底辺にいる人を見つけることで、自分がそれほどでもないということを証明したいとでも思っているのか。もし、そうだとすると、これ以上の自己嫌悪はない。そんなことを証明しようとすることほど、俺は、情けない人間なのかと考えてしまうのだった。
 だが、この店には自分が考えているよりも、もっと想定外の女の子たちがたくさんいる。
「あんたなんかに、どうせ私のことなんか、分かりっこないわよ」
 と言わんばかりに、完全に上から目線であったり、
「チェッ」
 とばかりに、一瞥するだけで、気持ちのすべてを表現できるような子だっているのだ。
「こんなにも、表現力の豊かな人たちだったなんて」
 と感じずにはいられない。
 今、一緒に警察を相手にしている、りえさんだって、普段は、
「これほど、人に気を遣える人はいないだろうな。あの人のことをすぐに気遣える発想は、いったいどこから来るんだろう?」
 といつも思っているような女の子なのに、警察に対しての態度は、180度違った形で見えてくるのであった。
 ここで森脇は仕事をしながら、今までのつまらないと思っている人生の中でも、まだ、
「どんどん底辺に落ち込んでいってるんだな」
 と思っているのだが、その割には、
「前のことを思い出そうとするのって、意外と面白かったりするんだよな」
 と感じるのだった。
 それは、
「思い出す」
 ということが面白いのではなく、
「思い出そうとすることで、意外と前の人生が思っていたよりもつまらなくないのではないか?」
 と思えることが、面白かったような気がする。
「りえさんは、その人に嫉妬していたんですか?」
 と刑事が聞くと、
「ある意味嫉妬だったかも知れませんね。ただ、それは、「そうなりたい」というような嫉妬ではなく、むしろ、そうはなりたくないというくらいの気持ちなんですよ」
 とりえが答えた。
「というと?」
「彼女は、容姿に相当な自信を持っているようでしたが、それも自他ともに認めるところだったんです。自分だけが認めていれば、自惚れなので、嫉妬にもなりはしないですし、まわりだけが求めるから、嫉妬になるんですよ。でも自他ともに認めていることに対して、
「そうなりたい」と思ってしまうと、自分がまわりに流されていることを、自分で証明していると感じるんです。だから「そうなりたくない」という反対の意見を持つことで、自分を正当化させようとしているんでしょうね。それを私は嫉妬という言葉では言いたくないんですよ」
 かなり語気を強めて口にしているりえの言い方に森脇は、
「男前さ」
 を感じるのであった。
「なるほど、かなり個性的な考え方をお持ちだ」
 と刑事が明らかな皮肉をいうと、りえもその表情に反発するかのようにして、刑事を睨み返した、
 ただ、その表情にはどこか、納得しているかのような雰囲気が垣間見ることができて、
「まさかとは思うが、この会話は、りえが誘導したものではないか?」
 と思えるほどだった。
「ところで、前にいたその彼女というのは、どういう子なんですか?」
 と聞かれたりえは、
「源氏名を、つかさという女の子で、丸山さんが辞めてから、一か月か、二か月くらいして辞めていったと思います。ただ、あの頃には結構、辞めていく女の子もいたので、しかも、それに伴って、新人もたくさん入店してくる。そうなると、入れ替わりが激しくて、いちいち誰がいつ、なんて覚えていないものですよ」
 と、いうのだった。
「まあ、それはそうでしょうね」
 と刑事は言ったが、またそこで少し考えているようだった。
 りえがいった、つかさという源氏名の女の子は、確かに丸山のことを一番口にしている女の子だった。
 そう、前述の、
「丸山さんはしっかりしていた」
 と、言って、まだ新人の頃の森脇を苛めていた女の子だった。
 どこか、高飛車で上から目線の、
「嫌な女」
 だったが、まさか、こんな形でまた思い出すようなことになろうとは思ってもみなかった。
「そのつかさという女の子と、今回の被害者のつかさという女の子にウワサがあったということかい?」
 と、りえに聞くと、
「はい、そうですね」
 というではないか。
 その言い方は、完全に断言している。その言葉を聞くと、それまで、半信半疑だった人も、その瞬間に考えを確定させることになるであろう。それほど、りえの言葉には重みのようなものがあるのだった。
「ところで、森脇さんも、そのことに気づいていたんですか?」
 と聞かれて、
「あっ、いいえ、私が入店したのは、丸山さんが辞めた後でしたからね。丸山さんの補充という形だったんだと思います。つかささんに関しては、一か月ほどの面識しかないんですが、どこか上から目線で、嫌な思いをしていました。ただ、よく私のことを、丸山さんと比較して、揶揄していたものです。私は人に比較されるのが嫌な方だったので、嫌いでした。しかも、その比較する相手が、私の知らない相手でしょう? どうすることもできないということが分かっていて、それで私に対して、新人苛めをしているのではないかと思っていました」
「まるで、姑いびりですね?」
 と言って、若い刑事は笑った。
 森脇の気持ちはさらに、苛立ちがこみあげていったのだ。
「なんと言われようが勝手ですが、警察って皮肉を言ってなんぼの商売なんですね?」
「ふふふ、ありがとうと言っておきましょう」
 という余裕ぶっているのを聞くと、
「こいつ、こっちをわざと怒らせて、隠していることがあれば、本音を言わせようとしているんじゃないか? 見え見えなんだよ」
 と、森脇は思った。
 しかし、彼は思ったことを隠し通せるほど、したたかな人間ではない。
 頭はいいが、百戦錬磨の人間を相手にすると、なかなかその対応が難しかったりするのだ。このまま、警察に誘導尋問をされるかも知れないと思うと苛立たしかったが、逆に、
「これで警察に協力していることになるんだったら、少し忌々しいが、それもありかも知れないな」
 と、自分を納得させていた。
「森脇さんは、この二人の関係を、本当に男女の関係だったとお思いですか?」
 と聞かれて、
「そうだったんじゃないですか? ここでのりえさんの話もそうでしたし、つかささんが辞める前にも、いつも丸山さんの話をしていましたからね」
 というと、
「そうでしょうか?」
 と、今度は、りえが口を挟んだ。
「りえさんは、聡明だから、私が何を考えているのか分かっているようですね?」
 というと、りえは、軽く会釈をして、
作品名:泡の世界の謎解き 作家名:森本晃次