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泡の世界の謎解き

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 と刑事に聞かれ、
「いいえ、話をしたことはありませんよ。一度か、二度、お店の中ですれ違った程度です。彼女も私を無視していましたし、私も無視しました。そういう意味では挨拶すら交わしていません」
「へぇ、そうなんだ。それで相手の性格がよく分かるね?」
「そうですね、でも、彼女はその目を見た時、私と限りなく似ているところがあると思いました。それが自信過剰なところだということも分かったつもりです。だから、私は彼女のことを自分で嫌いなんだと思いました。自分と似ているところのある人、特に同性であれば、よくあることではないでしょうか?」
 というのだった。
「それは、ライバル視という意味ですか?」
「それもあると思いますが、女性の場合は特に、嫉妬の部分が大きいと思います。ただ、それだからといって、嫉妬が憎しみに代わるということはありません。却って嫉妬を抱いている相手の存在は、自分のモチベーションに繋がる場合がありますからね。これはある意味ですが、「仮想敵」というイメージに当てはまるのではないかと思います」
 と、りえは、どこか含み笑いをするように言った。
 りえは、何かを知っているのか、それとも、女性特有の、女性にしか分からない感性のようなものなのか、それとも、天才的な閃きや、推理力を持っているのか、他の人とは、目の付け所が違うように思われた。
 今まで森脇は自分のまわりにいなかったタイプなので、どこか新鮮な感じがした。しいていえば、小学生の頃に、ませた女の子がいたような気がしたが、背伸びしていたその子に、いつしか憧れを持っていたような気がした。
 今でこそ、ソープのスタッフをしていたが、高校一年生の頃までは、大学進学を目指し、普通に会社勤めをするつもりでいた。一体どこで間違ったというのだろう?
 森脇は、中学の頃には、推理小説を結構読んでいた。長編は疲れるので苦手だったが。短編の推理小説をよく本屋で買ってから読んでいた。
「ネットで見ればいいのに」
 と言われていたが、
「いや、やっぱり本を買って読むのがいいんだよ」
 といって、今でも本棚に、中年前によく読んでいた文庫本がたくさん並んでいる。
 ただ、マンガも同じくらい好きだったので、それも捨てることなく本棚に並んでいるが、あれもちょうど小説を読んでいたのと同じ頃だった。
 森脇という男は、今までの人生で一番輝いていたのは、中学時代であり、それ以外の人生は、ほとんど惰性で生きていたといってもいいかも知れない。
 小学校を卒業してから中学に入った時、森脇の中で、
「中学生になった」
 という意識とともに、何かが弾けたような気がした。
 小学生の頃は、最初から自分がまわりに遅れていることを自覚していたので、
「俺はこのまま、追いつけることはないんだ」
 という諦めのような気持があった。
 その頃は、
「小学生なら、何人かに一人はこういう考えを持っているのが当たり前で、自分はその中の一人だ」
 ということで、自分の思い込みが、余計に、まわりに追いつけないということを信じて疑わなかったのだ。
 それが、
「中学生になる」
 という感覚が、急に自分を何かに目覚めさせたような気がした。
 それも、そのタイミングでなければ思いつかないような感覚があり。そのタイミングを逃していれば、どうなっていたか分からないというものだ。
 おかげで中学に入ると、いろいろなことに興味を持ち、読書もその一つで、時間があれば、本を読んでいたものだった。
 しかし、中学も三年生になると、高校受験というものが、目の前に広がってきたのだ。
 その頃の森脇は勉強が嫌いだったわけもないので、結構、楽しく勉強に勤しめたものだった。
 成績は結構よくて、三年生の頃には、
「お前は本当に努力したんだな。今だったら、進学校だって行けるさ。一年生で入ってきた時はどうなるか心配だったんだが、本当に何かのきっかけをうまく掴んだんだろうなって先生は思うぞ」
 と担任の先生は言っていたが、その言葉にウソはなかった。
 まさにその通りだと思ったので、先生を信じて、進学校を目指すことにしたが、ちゃんと受験にも成功し、合格できたのだった。
 中学校では、先生たちから、
「よくやった、おめでとう」
 と言って、褒めてくれた。
 もちろん、本人は有頂天であり、まるでこの世に敵はないような気がしているほどになっていたのだ。
 高校に入ると、
「あれ?」
 と思うようになった。
 それはそうだ。皆レベルの高い人が集まってきたのだから、中学時代にはトップクラスでも、高校に入ってしまうと、そもそものレベルが違うのだから、自分がそんなエリート集団の中に入ってしまったことを自覚するようになる。
「こんなはずではなかったのに」
 という思いはまさに、それまでの自分を否定されたような気がした。
 特に中学生に入ってから、急に伸びた自分には、
「またしても、底辺に落ち込むのか?」
 と、底辺だった時代がまるで昨日のことのように思い出されて仕方がないのだった。
「人というのは、こうやってグレていくのかな?」
 と、まるで他人事のように感じた。
 彼がグレなかったのは、このような発想が原因だったのかも知れない。グレるということに最初から気づいてしまったことで、いきなりの脱力感が襲ってきたことで、自分のやろうとしていることが見えているはずなのに、それだけに他人事になってしまった。
 きっと、森脇は頭がいいのだろう。それだけに、自分の立場が分かっていて、どうしようもない立場に立たされていることで、他人事として考えることを、逃げだと思わないと正当化してしまおうとしているのだろう。
 それが自分にとっての、
「言い訳」
 であり、言い訳をしたくないから、他人事として捉えるようになる。
 自分の考えていることがすべて、空回りしていて、堂々巡りをしてしまっている。堂々巡りが他人事だと思うことで、本当は逃れたいと思わなければいけないはずなのに、居心地の良さを求めてしまうことが、他人事に感じることだと分かると、楽な方に逃げようとする本能に走ってしまい、
「負のスパイラル」
 から抜けられなくなった。
 それが、今までの森脇の人生だった。
「何がどうなって、こうなったのか?」
 そんなものを一つ一つ覚えているわけなどないだろう。
 そんなことを考えていると、ソープランドで働いている女の子のことが、よく分からなくなってきた。
「どうして、あんなに楽しく挨拶ができるんだ?」
 と思えるような能天気な女の子もいると思えば、
「そうそう、そうやって、頭を下げることで、いかにも重たい頭に腰が耐えられないのかと思うような歩き方が似合うような、卑屈に見えるそんな雰囲気こそが、こんな店にふさわしいのではないか?」
 と勝手に思い込んだりするのだった。
 ただ、そんなことを思った次の瞬間、何とも味気ない気分にさせられる。
「俺はあの子たちに何を求めているんだ?」
 と考えるのだ。
作品名:泡の世界の謎解き 作家名:森本晃次