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泡の世界の謎解き

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 それであれば、今はしょうがないので、予定どおりに移籍して、ほとぼりが冷めた時、また他を探すしかないだろう。
 そんなことを思っていた彼女のことも、きっと警察が捜査して、彼女に辿り着き、事情を聴かれることだろう。
 それよりも、今は自分のことで精いっぱいだ。正直、見たことも聞いたこともない男なのだから、それさえ分かれば、自分が捜査線上から消えることは分かっていることだ。そう、あくまでも、自分は、第一発見者でしかないのだ。
 警察と鑑識が、最初はそれぞれで捜査をしていたようだが、そのうちに、今度は、刑事の方が、鑑識を相手に指揮を執り始めた。
「このあたりを、もうちょっと気にして調べてください」
 というような指示を出しているのだろうか?
 様子を見ながら、刑事がテキパキと指示を出す。それを見ていると、この刑事がさぞややり手な刑事であるかのように見えたのだ。
 自分と、女の子は。その様子を見ながら、警官の人から、身元の話を聞かれていた。
「お二人は。今日の早番の方なんですか?」
 と聞いてくるので、
「ええ、そうです」
 と答えると、
「今日の早番は、お二人だけなんですね?」
 と聞かれたので、
「はい。そうです」
 と、代表して、森脇が答えた。
 こういう時は男性が答えるおのだと相場は決まっているのだ。何を答えていいのか分からないと思いながらも、女の子を不安にさせてはいけないという思いを持って、何とか毅然とした態度をとっているつもりだった。それを、女の子は横目で見ていたが、不安そうにしてはいたが、その目は森脇を頼もし気に感じて見ているようだった。森脇もそのことを感じていたのか、少し彼女は今までにない大きな森脇を見たような気がしていた。
「ところで彼女のお名前は?」
 と聞かれた、女の子は、
「ええっと、りえといいます。あっ、これは源氏名なんですけどね。本名は、柏崎れいなといいます。年齢は、二十三歳です」
 と答えた。
 彼女を見ながら、もうひとりの刑事が、店舗に来てから客の指名用に用意されている、カード型の、パネル写真を手に取っていたが、その中から、「りえ」のパネルを取り出して、
「ふーん、りえちゃん、ここには、19歳となっているけど、年齢サバ読んでいたんだね。それに、パネルとかなり違っているようだけど?」
 と、皮肉たっぷりに言った。
 どうやら、この男は、ソープは結構常連なのではないだろうか。だから、年齢のサバを読んでいることも、パネマジのこともよく分かっている。
「ああ、そうだね。写真があまりにも本人に似ていると、身バレがあっちゃうかもね? 部屋では、だいぶ暗くしてお客さんの相手をしているのかな?」
 と、プレイスタイルにまで言及するなど、男の風上にもおけないと思ったが、相手が警察で、しかも、今捜査の真っ最中ということであれば、むやみに苛立つこともできまい。
「まあ、そういうことです。もういいでしょう」
 と、不快な気分を前面に出して、森脇は、刑事を睨んだ。
 睨まれた刑事は、ニヤッと笑って、
「これはただの挑発だ」
 とでも言わんばかりの様子で、森脇を見た。
 その雰囲気は、いかにも自分は余裕のある刑事だといっているようで、森脇は、真逆に思えてならなかったのだ。
「ところで、りえちゃんは、そこで殺されている男と面識はあるようだね?」
 と言われて、さらに怯えたりえが、
「ええ、面識はあります。あの人は、以前ここで務めていましたからね」
 というと。
「ここを辞めてからは?」
 と聞かれて、
「いいえ、辞めてからは会っていません」
 というと、
「じゃあ、辞めた理由については、何かご存じかな?」
 と聞かれたので、りえは即答で、
「いいえ」
 と答えた。
「でも、店の女の子と、ウワサがあったのは聞いたことがあるわ。その人も辞めちゃったけどね?」
 とりえがいうと、
「じゃあ、りえさんはその女の子とは仲が良かったんですか?」
 と聞かれて、さらに、ムッとしたりえは、さらに即答で、
「いいえ」
 と答えたのだ。
 前述にもあるように、こういうお店だと時間が違えば、まったく会うことはない。しかも、同じ時間であっても、接客がまったく違っていれば会うわけもないし、同じ時間であっても、客が表でかぶったり、違う女の子と自分についた客を会わせるわけにもいかないだろう。
 なぜなら、今日はたまたま、その子だっただけで、普段は、かち合った女の子がお気に入りだったりなんかすると、お互いに気まずかったりするだろう。そうなると、その常連さんは、もう来てくれなくなる可能性だって無きにしも非ずということで、こういうお店では当然の配慮だといえるだろう。
 お客の方も分かっていて、当然のごとくの気遣いだと思っているだろうから、気まずさを感じると、よほどのお気に入りでもない限り、次は他の店に行ってしまうのではないだろうか。
 客にとっても、一度にかかるお金がかなりのものなので、一度の対応が、一気に夢から覚めるきっかけを与えてしまうことになるのだろう。
 だから、女の子同士、意外と話もしたこともなければ、会ったこともないという人も大いに違いない。会社務めをしているサラリーマンには、ちょっと最初から想定できていることではないだろう。
 刑事もそこまで想定していなかったかも知れない。だから、りえのこの回答に対しても、心の中で、
「何か、冷たい女の子だな」
 と呟いたかも知れないが、自分たちも仕事なので、聞かなければいけないことは、しっかりと聞くしかないと思うのだった。
 ただ、りえという女の子は、そんなに他の女の子に敵対心を抱くような子ではないと、森脇は思っていた。素直で優しく、気遣いもできる女の子というイメージだったので、それだけ、警察からの聴取が嫌なのか、それとも、殺された男性や、関係のあったという辞めていった女の子に嫌悪感を感じていたのかということではないだろうか。
 こういうお店では、ソープに限らず、キャバクラなどでもおなじみだが、店の女の子と男性定員の恋愛はご法度である。
 テレビドラマなどでも、
「女の子は店の商品だ」
 などというセリフをよく聞くのだが、今ではそんなことをいうと、セクハラやパワハラに一発でなってしまうことだろう。
 だが、昔からの、
「しきたり」
 は、当然のごとく守られているだろう。
 さすがに、女の子を商品だなどということはしないだろうが、恋愛禁止というのは当然のごとくである。
 アイドル業界だって、似たような掟があるではないか。
 もっとも、アイドル業界というのは、お店の場合と勝手が違っているのかも知れない。
 確かに、アイドルも会社からすれば、商品であり、関連グッズや、握手会などの売り上げもバカにはならないだろう。
 それなのに、もし、彼女たちに彼氏がいると分かればどうだろう? ファン離れがすごいのではないだろうか。絶対的センターであれば、ファン離れは少ないかも知れないが、アイドル業界に激震が走り、その影響は計り知れない。そういう意味での罪深さはあるだろう。
作品名:泡の世界の謎解き 作家名:森本晃次