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泡の世界の謎解き

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 この映像をむやみに公開すれば犯罪だが、防犯と自己防衛という意味においては、犯罪ではない。別に盗撮ではないからだ。
 そんな目的で設営さえた映像を覗き込んでいると、エレベーターに数人の捜査員が乗り込んできていた。中には警官もいれば、腕章をつけた人が金属のケースを肩から掛けている。鑑識の人たちであろう。
 一階に二台のエレベーターがあり、一台は最初から一階にあったが、もう一台は、この三階にあった。それも当然のことで、先ほど、自分が上がってきたエレベーターだからである。
 最初に、警官とスーツの捜査員がやってきた。エレベータを降りると、するに電気がついているのが、左側の店だと分かると、ゾロゾロと入ってきた。
 警官が敬礼をして、
「先ほど通報をいただいた、森脇さんでしょうか?」
 と訊ねると、スタッフは、
「ええ、私が森脇吾郎といいます」
 と答えると、今度は後ろに控えていた刑事が割って入り、お約束の警察手帳を提示すると、
「さっそくですが、現場を見せていただけますでしょうか?」
 と言って、警官の前に立ちふさがった。
「ええ、ではさっそく。こちらになります」
 と言って、スタッフは、カーテンを開け、暗い調度の通路をゆっくりと刑事を導くように歩いた。
「あの一番奥の、左側の部屋になります」
 と、森脇は刑事に指で示した。
 刑事が来るまでは、一人で心細さがあったが、刑事が来たら来たで、今度は緊張からか、指先が震えているのだった。
 今度は後ろから、後のエレベーターで上がってきたのだろう。鑑識の面々、四人くらいいるだろうか、薄暗い通路に入ってきた。こちらから見ると、表の方が明るいので、逆光になってしまっているので、顔が分からない。
 もっとも、帽子をかぶっているので、そもそも顔は分かりにくいだろう。無言で、一糸乱れぬような動きは、
「統率された一団」
 という雰囲気を醸し出していた。
 ガサガサという音を立て、しかし無言で、テキパキと動いている鑑識の人たちを見ていると、
「闇に紛れて暗躍する忍者」
 のように思えてきた。
 実際の忍者と呼ばれる人が、テレビで見るような忍者装束を着て、手裏剣を投げるような感じだったのかどうか実は疑問に感じている森脇だった。
 現場では、鑑識が写真を撮ったり、指紋の採取を始めながら、刑事が、死体の身元を示すものでも探すのか、ポケットなどを物色し始めた。明らかに死んでいるのが分かったので、刑事も慌てることはしなかったが、見ていると鑑識同様に、無駄な動きが一切ないように見えたのだ。
「森脇さんは、この被害者と面識はおありなんですか?」
 と刑事が聞いてきた。
 最初は、その断末魔の恐ろしさから、相手が誰かということをそれほど気にすることはなかった。一見して、店の人ではないということが分かったので、疑問はいくつも沸いてきたが、それよりも、今は自分のなすべき善後策のことで頭がいっぱいだったのだ。
「いいえ、私は分かりませんが」
 というと、もう一人の刑事が、手前の部屋から女の子がチラチラ覗いているのが分かったようで、
「じゃあ、彼女に聞いてみましょう」
 と言って、彼女を部屋の中から引きずり出した。
 彼女というのは、言うまでもなく、今日の早番の女の子のことである。
 引きずり出したといっても、そう見えるだけで、扱いは丁寧だった。
「お嬢さん。この人をご存じですか?」
 と、なるべく、顔をそむけるようにしている彼女に、少し強めにいうと、彼女も観念したかのように、恐る恐る被害者を見た。
「この方は、丸山さんです。以前、ここでスタッフとして働いていました」
 というではないか。
 ということは、森脇にとって先輩にあたる人? しかし、どうしてそんな人が今、ここで人知れず、殺されていなければいけなかったのか、森脇の頭は混乱していた。
 そういえば、まだ入った頃のことだが、今は辞めてしまった女の子がいたのだが、その子がよく森脇のことを、
「丸山さんなら、ちゃんとしてくれたのに」
 と、よく言っていたのを思い出した。
 その子は、この店では、一年前のオープン時からいる子で、ここに来る前は他で働いていたという。いわゆる、
「引き抜き」
 だったのかも知れない。
 その彼女が、何度、その、
「丸山さん」
 という言葉を口にしたことか。
 だから、名前だけは憶えていたのだったが、だからと言って比較されたこっちは面白くない。わざと気にしていないふりをしながら、その女の子のことを、嫌っていたのだった。
 一度引き抜きに遭うと、何度も同じことを繰り返すのかも知れない。彼女が辞めた後、スタッフ内でもウワサになった。もっと、給料にいいところに引き抜きにあったということを公言していたという。彼女の口からハッキリと聞いたことはなかったが、
「あんた、ちゃんとしてくれないと、私はもっといいところに行っちゃうわよ。私や、他の人気嬢が抜けると、あなたたちも困るんじゃないの?」
 と、暗に、自分も人気嬢だということをひけらかすような言い方をしているところが憎らしかった。
 だが、それも本当のことであり、それだけに、明らかな上から目線に、呆れるばかりだった。
 そんな彼女も、本当に移籍してしまった。最後は、逃げるようにして辞めていったのだが、ひょっとすると、店長や女の子ともめたのかも知れない。
 ウワサとしては、彼女が、移籍を決めた時、手土産のつもりか、他に数人を引き抜いていこうとしたのだ。だが、これも、本当に相手がほしかったのは、その子ではなく、彼女が引き抜こうとしたナンバーワンの子だったようだ。
 自称、ナンバーツーを自任していた彼女は、
「私が言えば、ついてくるわよ」
 とタカをくくっていたようだ。
 何しろナンバーワンの子が、控えめな性格で、自分の意見をあまりいう方ではないのだが、癒し系としては、
「神の領域」
 とまで、お客さんの口コミがあったという。
 いくらか盛ってはいるのだろうが。それを差し引いたとしても、彼女の癒し部分は、束にかかってもかなうものではない。
 そんな彼女を引き抜こうなど、できるはずもないのに、
「自分ならできる」
 という自惚れと、向こうの店から、
「君ならできる。やってくれ」
 とおだてられたに違いない。
 もちろん、相手もできるわけはないと思っていたかも知れないが、店のスタッフが客として行って引き抜く行為は、違反行為である。それを犯してまでやるよりも、
「女の子が友達を誘った」
 というような形にしておけば、もしバレても、こちらは痛くも痒くもないというわけであった。
 店舗間でいろいろな問題が起きるだろうが、ライバル関係にあるところは、大なり小なりそういう問題はつきものなのだろう。要するに、
「やったもん勝ち」
 とでもいうべきであろうか。
 だが、引き抜き作戦は失敗したが、やはりしこりは残ってしまったのだろう。彼女も利用されたと思ったかも知れないが、店にはいられるわけもなく、向こうが嫌だとしても、このままなら、下手をすれば、
「すぐに引き抜きに遭う」
 あるいは、
「店に簡単に利用されるキャスト」
 ということで評判になり、どこも雇ってはくれないだろう。
作品名:泡の世界の謎解き 作家名:森本晃次