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泡の世界の謎解き

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「私が急病になったっていえばいいのでは? 私が頃合いを見て、写メ日記で、大したことなかったと言えば、事なきを得るのでは?」
 と提案した。
「それでいいの?」
 と、スタッフは彼女に気を遣ってそういうと、
「いいですよ。これが一番いいことだって聞いたことがあったので」
 と、彼女はいうではないか。
「うん、分かった。そうさせてもらうよ。ありがとう」
 といったが、遅かれ早かれ、店に何かが起こったということは、常連の知ることとなるだろう。
 下手をすると、いろいろなウワサが飛び交うことで、今回の対応が裏目に出るかも知れないが、今のところの最善の策は、彼女の言ってくれた申し出しかないのだから、やはりここは、彼女の意を汲むしかないだろう。しばらくするとやってきた常連客に対して、先ほどと彼女に言われたことをそのまま話すと。
「大丈夫なのかな? 俺が心配していたって伝えておいてね。今日はしょうがないと思うんだけどね」
 と言って、彼はあっさりと引き下がった。
 彼が帰ってから、十分くらいしてであろうか。表にパトカーのサイレンが聞こえ、
「いよいよだ」
 とばかりに、スタッフは身構えていた。
 パトカーの音が、静寂を突き破ったかと思うと、音が最高潮になったところで消えてしまった。目的地はここであることは明白で、ゴーストタウンの歓楽街の朝をパトカーのサイレンが告げるというのは、実に皮肉なことだった。
 もし、これが、昼間だと、場所が場所だけに、
「男女の痴情のもつれ」
 しか考えないだろう。
 しかも、それが性風俗街ということで、この業界を知っている人はそれぞれに、恐怖を感じることであろう。
 まずは、疑似恋愛の上での痴情というと、
「勘違い客が、女の子に好かれているという思いで、凶行に及んだ」
 といえるのだろうが、一つ気になるのは、
「ここで、騒ぎを起こしても、店の中なので、犯人は袋のネズミだ」
 ということだ。
 それを分かっていて、犯行に及ぶのだから、却って恐ろしいことだといえるのではないだろうか。
 そんな状態でさらに怖いのは、
「そこが密室だ」
 ということだ。
 確かに犯人は袋のネズミで、犯行に及んでも捕まるのは必至であるが、そんなことは百も承知のはずなのに、どうして犯行に及んだのかということだ。
 犯行を行っても、すぐに捕まることは分かっている。しかし、犯行を行うには、これほど都合のいいことはない。何しろ密室なのだから、殺傷は簡単だということだ。
 ということは、犯人には、
「犯行さえ犯すことができれば、そのあとは捕まってもどうなってもいいのだ」
 ということである。
 それは、憎悪に満ちた復讐ということであれば、それでいいだろう。男の方とすれば、
「彼女となら、心中をしてもいい」
 とまで思っているかも知れない。
「可愛さ余って憎さ百倍」
 とは、よく言ったもので、この二人の関係は、
「殺しても殺したりないが、殺したのだから、俺も一緒に罰を受ける」
 と思っている場合もあるのではないだろうか。
 パトカーの音が消えてから、スタッフは受付にあるモニターに目を移した。そこには、一階部分、エレベーターの前が映し出されていた。どうやら防犯カメラが設置してあって、その内容を、見ることができるようだ。一階のあの部分をこの店が見ることができるのだから、このビルに入っている店には、同じ仕掛けがしてあるのではないかと思われた。
 防犯カメラの設置は以前からあったのだが、それぞれの部屋から見れるようにしたのは、このビルにテナントとして入っている店は、半分以上がソープランドであり、それ以外はスナックやバーであった。そして、ビル管理を行っている会社は、同業他社の親会社になっている。
 そういうことなので、管理会社としても、ソープランドなどの経営を分かってのことなので、特に、一階エレベータ部分を公開する形で、モニターを通して監視することができるようにした。
 一つの理由としては、数年前に流行った伝染病による緊急事態宣言下において、営業を自粛する店、それぞれだったのだが、スナックやバーなどは、店を閉めていたが、ソープの場合は、売り上げと協力金を考えて、さらに女の子の生活を考えると、店を閉めるわけにはいかない。
 だから、ソープは経営しているが、スナックや、バーは、閉店していた。
 スナック、バーは、当然のことながら、ソープとは別の階にあった。
 以前は、防犯にそこまで厳しくなかったせいもあってか、他の階ではソープランドが経営しているにも関わらず、バーやスナックに、泥棒が侵入するという事件があった。そこで、経営者は、二つの方法を考えた、
 一つは、エレベーターのセキュリティを強化し、
「ワンフロアのすべての店の防犯がかかっていれば、エレベーターはその階には止まらない」
 という仕掛けを導入したのだ。
 これは、ビジネス街ではある意味、常識ともいえる警備であるが、それだけ、ここは警備が甘かったということである。なんといっても、緊急事態宣言が出ていることで、職を失ったり、借金にまみれた人にとっては、閉店している店に泥棒に入ることくらいは、
「このまま何もせずに、死ぬことを思えば」
 ということで、ほとんど罪の意識などないに違いない。
 そして。防犯の意味を込めて、さらに、他の階から、一階を覗くことができれば、さらなる防犯になると考えたのだろう。
 さらに、もう一つの理由は、性風俗店ではどうしても、必要な部分からであった。
 ソープで働いている女の子は、中には掛け持ちで働いている子もいる。昼間はOLをすていたり、大学生だったりする子もいて、彼女たちにとっては、
「身バレ」
 というのは、一番怖いところであった。
 せっかく、昼職についているのに首になる。大学も退学になるなどというのは、実際に死活問題だ。
「ソープで稼いでいるのだから、そっちを本業にすればいいじゃないか」
 という人もいるかも知れないが、いろいろな事情で務めている女の子たちである。
 中には、借金のある子などは、
「借金を返しきったら、店を辞めて、今の昼のお仕事を続けることで、幸せな結婚をして、幸せな家庭を築いて」
 と思っている子もいるだろう。
 そういう子にとっては、昼の職を首になるのは実に困ることである。
 大学生の女の子もそうである。
 アルバイト感覚なのか、それとも、男性に奉仕するのが単純に好きだという理由、あるいは彼女たちも借金があったりするとしても、たぶん、大学を卒業して、OLになれば、この仕事を辞めて、昼職一本と考えている子が多いだろう。
 そうなると一番困るのは、
「身バレ」
 である。
 特に家族や、会社の人になどバレるのは、本当に困る。それを店の方も気にしているのだ。
 下手をすれば、家族ともめごとを起こすというのも、望んでいないことなので、彼女たちが、気持ちよく仕事ができるように、店の中で、マジックミラーか何かで、こっそり女の子が受付や待合室にいる客を確認するなどということは結構以前からやっていただろうが、ここでは、今回の防犯という意味を込めて一緒に考えたのが、モニターによる、相手の確認だったのだ。
作品名:泡の世界の謎解き 作家名:森本晃次