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泡の世界の謎解き

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 というやつだ。
 しかし、電話を掛けようとした瞬間、彼は躊躇した。
「まず、店長に掛けるべきなのかな?」
 と思ったからだ。
 彼は、その状況と、腕が空に向かって伸びていて凍り付いた状況になっているのと、かっと見開いた目が、まったく動いていないのを感じると、すでに死んでいることが分かっていたのだった。
 それだったら、急いで通報する必要もなく、まずは店長に連絡を取って、指示を仰いだ方がいいのではないかとも思った。
 しかし、もう少しすると、女の子も、客も来るではないか、すべてが動き出そうとしている状態で、警察への通報は、第一に考えなければいけないと思い、やはり、警察に通報することにした。彼の本音としては、
「俺一人で、これから動きだす時間を、制するということは絶対に無理だ」
 と思ったからだった。
 警察に電話をすると、
「事故ですか? 事件ですか?」
 と言われたので、
「事件です。人が死んでいるんです」
 と伝えた。
 一瞬、
「殺人事件です」
 と答えるつもりだったが、話をしているうちに、
「死んでいるからといって、殺人事件と決めつけるのは、早急だよな」
 と思ったので、急遽、
「人が死んでいる」
 という言い方しかできないのだった。
 そんな状況でも、自分が冷静になれていることに、彼は少し気持ち悪さを感じていた。
「俺って、こんなに冷静になれる性格だったのかな?」
 と感じたのだが、これが本当に冷静だといえるのかどうか、自分でも分からなかった。
 なんといっても、警察に通報するなど初めてのことで、これを、殺人事件だといわなかった本当の理由が分かった気がした。
「俺はこの瞬間のこの状況の中にいると、まるで自分が殺したのではないかという錯覚に陥っていたのではないか?」
 と感じたのだ。
 確かに殺したのは、自分ではないというのは、誰よりも自分が分かっていることだが、この人が死んでいるのを見るのは、この俺が一番最初だということを感じると、気持ち悪くなってきた。しかも、一人で発見したことによる気持ち悪さがあったのだ。
 だが、これがもし、他の誰かと発見したとしたらどうだろう? お互いに気が動転してしまい、相乗効果で、どんどん気持ち悪さがこみあげてくることもあるだろう。人はこういう時、
「誰かと一緒だったら、気が楽ではないか?」
 と思うのだろうが、実際に一人で死体を発見し、
「もし、誰かと一緒に発見していたら?」
 と思った時、冷静になれるようで、
「他の人と一緒でなくてよかった」
 と思うのだ。
 それは、今まさに冷静になっている状況に、決して人と一緒にいると、なれるはずはないと思うからだった。
 警察に状況を説明している時は、淡々とした状況が続いた。空気は乾燥しているように感じ、自分の喋っている声が、かすれてしまっているのが分かると、
「こんな状態で冷静になれるはずなどないよな」
 と思った。
 状況を一通り説明し、
「分かりました。それでも、所轄から、捜査員を現地に向かわせます」
 ということで電話を切った。
「フッ」
 とため息をついたが、その時、急に冷静になった彼は、自分が警察に最初に連絡したことが正解だったことを感じた。
 それまで本当に気が動転していたからなのだろうが、電話口で、
「捜査員」
 という言葉を聞いた時、
「待てよ」
 と感じたのだ。
 それまで考えもしなかった自分の立場を考えたからだ。
 今の自分は、
「死体の第一発見者であり、通報者という立場だが、警察の捜査が入れば、まず最初に疑われるのって、第一派遣者なんじゃないか?」
 と思ったからだ。
 もちろん、被害者の人間関係や、人間性が捜査され、そこから犯人が割り出されることになるのだろうが、怪しまれるのは自分であろう。ただもっと冷静に考えれば、鑑識が死亡推定時刻を割り出すことになるだろうが、死後硬直から考えて、自分が店に来る時間よりも、相当前に殺されていて、放置されたことになる。ただ、それでも、上限は、昨夜の0時以降であろう。それまでは、スタッフ、女の子、さらには客もいただろうからである。最後、その部屋を使った女の子が、自分が使った分を綺麗にして、帰宅するということなので、もし、昨日その部屋を使った人がいるとすれば、その女の子が掃除をして、帰ることになるだろう。
 ただ、もし、殺されたのだとすれば、悲鳴くらいは聞こえたはずだ。それでも、扉を閉めていて、密室だったとすれば、防音効果で声が漏れなかったかも知れない。何しろ、ここは、声に関しては漏れる可能性の限りなく大きなところだからだ。
 店によっては、わざと聞こえるようなコンセプトにしているところもあるようだが、この店はそういう変態チックなことを、店ぐるみでしているわけではないので、防音はしっかりしていた。
「じゃあ、殺した時は。しまっていなんだろうか?」
 と思ったが、今は開いていた。
 だからこそ、今の発見になったのであって。
「ひょっとして犯人は、この時間に見つけてもらうように、最初から計画をしていたということだろうか?」
 と、彼は思った。
 そう思うと、ゾッとするものを感じたが、そのゾッとする気持ちがどこからきているのか、彼には分からなかったのだ。
 とにかく、警察が来るまで、何もするわけにはいかない。
「そうだ、店長に報告しないと」
 と、さっきは自分で分かっていたはずなのに、警察への連絡で緊張が再誇張に達したのか、店長への報告ということが頭の中から飛んでいたのだ。
 さっそく店長に電話を入れてみると、まだ寝ていたのか、眠たい目をさせて、
「警察を呼んだのなら、警察のいうことにしたがっていればいい。それに、余計なことは言わないように。後で経過報告をすればいい」
 というだけだった。
 もっとも、それ以上のことを、何もわかっていないこの時点で言えるはずもなく、スタッフは警察を待つしかなかった。警察がいつ頃来るか分からないが、とにかく、女の子と、お客さんの方が先に来るのは分かっていた。女の子はとりあえず、事情聴取もあるだろうから、そのまま待機してもらうしかないだろうが、お客さんには、何とか言って、キャンセルにしてもらうしかないだろう。
「あっ、そうだ」
 スタッフは一つ思いついた。
 というのは、サイトをこのままにしておくと、予約が入る可能性があると思ったのだ。
 かといって、サイト全体を、
「ただいま、メンテナンス中」
 としてしまうと、客とすれば、
「何があったんだ?」
 となるだろう。
 いずれは、ニュースになるだろうが、店の名前が出るかどうか分からない時点で、このままサイト全体を封鎖してもいいのだろうかと考えたが、とりあえず、ネット予約だけは受け付けていないようにするしかなかった。
 その方法は、以前、伝染病が流行った時に使った画面があった。最終的には、
「伝染病蔓延による急遽受付停止」
 ということにしたが、最初は、
「諸事情により」
 ということで、ハッキリとした理由を明かしていなかった。
 というのは、他の店のサイトも皆、諸事情ということを謳っていたので、とりあえず、足並みを揃えるということで、合わせたのだった。
作品名:泡の世界の謎解き 作家名:森本晃次