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短編集100(過去作品)

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 またしても自問自答を繰り返す。
 考えてみれば自問自答を繰り返している時というのは、必ず食事制限のことが絡んでくる。それだけ今の新山にとって食事というのは一番の大きな問題であることには違いないのだ。
 自問自答の回数が次第に増えてくる。
――だけど、あまり考えるのも億劫になってきたな――
 あまり考えすぎると、それがトラウマとなってしまうことがまたしても頭をよぎるのだ。
――しかし考えないわけにもいかないし――
 ジレンマが新山を襲う。
 母親の厳しい顔が脳裏に浮かんでくる。
 母親のトラウマから逃れられたことで、食事が楽しくて仕方がなくなった。それが今度は食べる楽しさが原因で、せっかくの思春期の危機である。
「過ぎたるは及ばざるがごとし」
 と言われるが、まさしくそのとおり。何事も適度というのがあるはずなのに、食事に関しては両極端だ。普段の生活は食事に関して以外はすべてが適度なくせに、一体どうなっているのだろう。
 食べている時間が一番楽しいと思っていたはずなのに、彼女ができると変わってくる。最初は、庶民的な女性かと思っていた彼女だが、付き合っているうちに変わってくる。高級な食事を好むようになり、
「食べるのは少しでもいいから、いいものを食べたいの」
 と言うようになっていった。
 女性としては当然の意見かも知れない。女性でたくさん食べるという人はあまり見かけない。
 さもありなん、女性は食欲だけではなく体型も気にする人が多い、当然食事に気を遣うのも当たり前というもので、同じお金を使うのであれば、たくさん食べなくてもいいからおいしいものを食べたいと思うであろう。頭の中では分かっているつもりだった。
 だが、それでは新山の胃袋は納まらない。
 最近の新山は思考能力の低下に気付き始めていた。原因は分かってはいなかったが、少しずつ覚えられていたことが覚えられなくなったり、纏めたつもりのものが纏まっていなかったりと、最初に計算していたことに狂いが生じるようになっていった。
 元々、新山は計画してから行動を起こす方だった。
「石橋を叩いて渡るようにならないとダメだ」
 親の教えであるが、反発しながらでも親の教えを守ってきた。それが自分の性のようなものだとも思っていて、逆らえないところでもあった。一人暮らしを始めて不安があるとすれば、そのあたりのところだろう。
 反発しながらでもそばにいるだけで存在感を感じていたものが、急にそばからいなくなるのである。伸び伸びとした発想はできるが、発想の度合いを測る目安がない。これは今までの新山には経験のないことだった。必ず比較対象があって生活をしていたはずなのに、何もないのは不安以外の何者でもない。
 そんなことを考えていると、またお腹が減ってくる。
――さっき食べたばっかりなのに――
 数時間前、いや、時計を見れば、まだ一時間と少ししか経っていない。数時間も経っていると思うのは、それだけお腹が減ったからだ。考えてみればさっきまでお腹がいっぱいでしゃっくりが出ていたではないか。ニュートラルの状態があまりにも短すぎるのだ。
 最初はそれほど気にもしていなかった。
――一人暮らしを始めたのだから、腹が減るのは最初から分かっていたことだ――
 と感じ、一人で空腹感も一緒に楽しんでいたくらいだ。それがこれほど短くなるとは一体どうしたことか、自分でも分からない。
――彼女の言うように高級なものを少しずつ食べてみるか――
 一緒に高級レストランを予約し、ゆっくりとした時間を過ごした。レストランの近くにはホテルもあるので、予約しておいて二人で泊まった。
 食事を終えてしばらくはお腹が減ることはなかった。お腹がいっぱいになったという感じはなかったので、ずっとニュートラルのままだったが、それがよかったのかも知れない。
 だが、ホテルの部屋に入ると、またお腹が減ってきた。しかし、その時は何とか事なきを得たのだが、それは食欲に性欲が勝っただけだった。
――じっとしていてはバレてしまう――
 お腹が減っていることを恥ずかしく感じる必要などないのかも知れないが、何とかごまかそうとするのは、痩せていることが自分にとって大きなとりえだと思っていたからだ。
 もしすぐにお腹の減る体質だとでも思われてしまって、
――このままならすぐに肥満になってしまうわ――
 と思われてしまっては、たまらない。
 大食漢になるといろいろな弊害が起こってくるようになる。
 記憶力の低下もその一つであるが、記憶力の低下を招く理由として脳内機能の慢性化が出てくる。睡魔に襲われることが多くなり、おきているのか寝ているのか自分でも分からなくなってくる。
 最初はそれが大食漢から来るものだということに気付かなかった。しかし、本を読んだりして総合して考えるとまさしく大食漢の弊害以外の何者でもない。もちろん、本を読まなくても分かっていたことには違いないが、それを認めたくない自分がいるのも事実だった。
 ホテルの部屋では激しく彼女を求めた。一時も身体を休めることがないようなせわしさがあったが、自分でも落ち着きのないことは分かっている。快感に打ち震えながら身を任せている彼女が感じやすいタイプの女性であることは幸いだった。きっと新山の真意を分かってはいまい。
 とにかく身体を動かすのだから、身体から発散される汗の量は半端ではなかった。実はその時に一番気になっていたのは汗の量で、
――こんなに汗を掻くことなど今までにはなかったことだ――
 と感じていた。
 以前から寝ている時に掻く汗の量が少しずつ増えてきていることには気付いていた。気付いていてあまり気にすることがなかったのは、敢えて気にしないようにしていたからだ。前に見たドラマで、肥満体をテーマにした内容のものがあったが、その時感じた肥満体へのイメージが、
――やたら汗を掻くんだな――
 ということだった。汗を掻くことが悪いというわけではないが、必要以上に汗を掻いているのを見ると、ドラマであっても気持ち悪く感じられ、
――だから肥満体は嫌なんだ――
 と感じたことを思い出していた。少量の汗であれば気にならないのだが、玉のような汗が顔にではなく身体から発散されるのを感じるのは気持ちのいいものではない。
 彼女を抱いている時に感じた汗はそんな汗だった。
 最初は額から出る玉のような汗を感じているだけだったが、次第に身体からも滲み出ているのを感じた。それが感極まる瞬間に上り詰めている時であれば分からなくもないが、そこまでに至っていない時であった。
 発散されるなどという綺麗な言葉ではなく、噴出しているといっていいくらいの汗の量である。見る見るうちに噴出してきて、乾く間もなく次々に噴出してくる。次第に身体の火照りとは別に頭の中で冷めてくるのを感じていた。
――もう一人の自分がいるようだ――
 身体の火照りを感じている自分と、それを冷静に見ている表にいる自分。表にいる自分の存在が分かっていて、表からの自分の気持ちになれるからこそ汗の異常な量にも気付いたに違いない。
「寝ていて汗を掻くのはあまりいい傾向ではないよ。一度病院に行ってみてはどうだ?」
作品名:短編集100(過去作品) 作家名:森本晃次