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三すくみによる結界

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「再読して似たらしいんです。そうすると、最初に読んだ時と、もう一人の自分、つまりドッペルゲンガーの方が、雰囲気がまったく別人のように思えたというのです。それでまた再再読をしてみると、今度は主人公のイメージが別人だったというのですよ。それを見て私は、自分の小説が他の人にそんな風に読まれているのかって、少しビックリしましたね」
「書いた後、読み直しや推敲はしないんですか?」
「私はほとんどしません。したとしても、それは誤字脱字を直すだけです。下手に推敲などをしようものなら、自分の作品に嫌悪を感じてしまって、書きなおししなければいけないくらいの気持ちになるかも知れないと思いました。たぶん、そんな風に思うと、きっとショックでしばらく小説が書けなくなるかも知れません。別にプロというわけでもなく、自分が感じたことを好き勝手に書いているのが楽しくて書いているのに、悩んでしまって書けなくなるというのは、本末転倒なことですよね」
 その考えを聞いて、つかさは何度も頭を上下に振った。
「まさにその通りだと思います。私も趣味で小説を書いているんですが。小説を書きながら同じようなことを思っています。本当にラフな寒河江なんですけどね」
「それでいいんじゃないですか? 私はプロにまではなりたいと思っているわけではないんです。下手にプロになれば、第一優先は読者になり、その読者を満足させて、本を売るという目的がその次になる。私個人への優先順位は下の方になってしまいますよね。そんな青写真は私の中では想定外になるんです。自分で満足できなくても、まわりにウケるような小説を書かなければいけないなんてこと、想像もできませんよ」
「小説をいうのは、そういうものだと思います。やっぱり、どこまでが自分の世界なのか、まわりに左右されるようでは、いい作品が書けなくなるかも知れないですよね。私はプロを目指したいとは思っていたんですが、最近では同じような考えからアマチュアでもいいような気がしていたんです。ただ、自分でそれを納得させるだけの勇気もなかったんですが、こうやってお話を伺っていると、その気持ちもわかる気がします」
「私は、まだ公開している作品は例のサイトに数作品を掲載しているだけなんですが、実際にはもっとたくさん書いています」
「公開はなさらないんですか?」
「いいえ、順次していこうと思っています。少なくともこれからは、一週間に一作品ほどはアップできるのではないかと思っています。最近までは一日に小説を書く時間が一時間から二時間の間くらいだったんですけど、今では四時間近く使っています。最初は二時間も集中力が続かなかったので、一時間刻みを二回に分けて書いていましたけど、今では二時間がそれほど苦痛ではなくなってきたんですよ。だから、二時間を二回だったり、二時間を一回に、一時間ずつを二回などという感じで書いていくと、結構書けるようになった気がします」
「やっぱり、小説の執筆というのは、集中力なんでしょうね」
「ええ、私もそう思います」
 そんな会話をしばらく続けていたが、すでに二人ともだいぶ精神的に消耗しているようだった。
 だが、っこで一つの何かの正体が判明しそうな気がしたのだが、会話を進めることで、それすら本当の正体なのか、分かってくることを望んでいたのだ。

                三すくみの正体

「ところで、あなたはこの小説が、ドッペルゲンガーだけのイメージで終わっていませんか?」
 と言われて、
「どういうことですか?」
「私はここにもう一人の見えない存在を感じるんです。小説であからさまに書いているわけではないですが、もう一人存在させているんです。そう、まるで影のような存在とでおいいましょうか、そこには三すくみのような一つの結界で守られた世界の中に均等な距離と力関係によって結ばれた空間が存在します。それぞれに従属関係、そして呪縛、さらには金縛りに遭ったかのような身動きの取れない感覚。このイメージをもし抱いたとすれば、再読の際に、一人のイメージが変わっているのも分かる気がします。読み直すほどに、影の存在をおぼろげに感じているということだからですね。でも、読み終わってしまうと、その影の存在だけが記憶から消えてしまう。そんな小説ではないかと私は思います」
 作者がここまで自分の小説を客観的に見ることができるというのも珍しい気がした。
「まるで夢のような感覚ですね」
 と、つかさは漠然と聞いたが、勘違いしやすいその言葉に彼は的確に答えた。
「そうですね。あなたの言われる夢というのは、目が覚めるにしたがって忘れていくものという意味での夢を連想されたわけですね。そうだと思います。私も夢を考えた時の原点がこの小説になったのではないかと思っているくらいですよ。小説を書く時でも集中していて、急にふっと息を抜いた時、何をどこまで書いていたのか分からない時がある。それともう一つ、少しだけ違う意味にもなるんですが、一度書いた小説を、同じ作家が同じプロットを元にもう一度書こうとした時、まったく違った作品が出来上がるかも知れないとも思っているんです」
「それは、プロットの立て方にもいろいろあるからなんじゃないですか? 簡単なあらすじだけを箇条書きのような形にしたものから書いていく人、また段落の段階にまで落としたプロットを元に書いていく人がいますからね」
「それはそうだと思いますが、私が考えるに、どんな形のプロットであっても、書く時間が必ず違っているのだから、その人の感性や立場も違うはずですよね。もう一人の自分が存在しているわけではないんだから、同じになるわけはありません」
 と言われて、つかさは一瞬ピンときた。
「じゃあ、同じプロットを元に、もう一人のあなた、つまりドッペルゲンガーと同じ作品を書くことになったら、後の自分が書くのと、どっちが似ているんでしょうね?」
 と聞いてみた。
「それは、ドッペルゲンガーが書く作品の方が似ているんじゃないかと私は思いますけどね」
 と彼は言った。
「そうでしょうか? 私は逆にまったく逆の発想になるのではないかと思ったんですよ。そう、まるで加害に写った姿が左右対称になっているかのようにですね」
 というと、
「それも面白いですよね。でも、左右対称ではあるけど、上下は反転しないんですよ。そう思うと完全なまったく逆という発想は、また少し違っているような気がしますね」
 いうのが彼の意見だった。
「私も、鏡に写った自分の姿を見て、左右は対称なのに、どうして上下が反転しないんだろうって時々考えるんですよ。実はさっきも洗面所で同じようなことを考えていたので、今その言葉を聞いて、さっきのことを、つい今の瞬間にも考えていたのではないかという錯覚に陥ってしまいました」
「そうなんですね。錯覚というのは実に面白いもので、どこまでを信じるかによって、次に自分が感じることが変わってくるのではないかと思うんです。そういう意味で、その瞬間瞬間には、必ずと言っていいほど錯覚を引き起こさせるものがそばにあって、それに気づくか気付かないかというのが、キーポイントだったりしないでしょうかね?」
 と彼がいう。
作品名:三すくみによる結界 作家名:森本晃次