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三すくみによる結界

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 一つは本屋では置いてもらえないとなると、千部くらいの部数w作成しないと、出版社もわりに合わないのだろうが、作成した本を果たしてどうするかという問題があった。
 本を出したいと思う人が多ければ多いほど、その在庫は膨れ上がることになる。そうなると、巨大な倉庫をいくつも借りて、どんどんそこに置いておくか、下手をすれば、処分するしかないのだろうが、筆者におお金を出させた以上、勝手に処分もできない。
 本をたくさん作らなければ儲けにならないという理屈と、本をたくさん作れば、在庫が膨れ上がるという理屈が相反しているため、大きな問題になってしまうのだ。
 そもそも販売という理念からかけ離れ、作ることでお金を回そうという発想が、最初から間違っているのだ。だから、在庫を抱えるということに頭が回らないのかも知れない。
 なるほど、着想自体は素晴らしいかも知れない。持ち込み原稿が読まれもしない時代なので、読んでもらって、さらにその先があると思うと、本を出したい人は飛びつくのも無理もないことだ。
 もう一つの問題というのは、
「本を作れば、有名本屋に一定期間、置かれます」
 という触れ込みだった。
 作者としても、素人の書いた作品なので、そんなに長く本屋に陳列されるなどとは思っていないだろう。せめて長くても一週間、そのあたりを考えるだろう。しかし、実際には一日も本屋は置いてくれない。
 そもそも、そんな無名の出版社のコーナーなど最初から存在もしていないのに、毎日、本を出すと言って、何人もの人が同じ日を出版日にしているのだから、本屋の売り場面積が野球場か、遊園地くらいの広さでもなければ、スペースに余裕すらないだろう。
 要するに、アドバルーンは挙げたが、実行していないのである。
 それを知った素人作家たちは、個別に訴えて、裁判を起こしたりする。
 そうなると、宣伝を命綱にして、信用を宣伝している出版社の評判が、グッと落ちることになる。もう、その会社を信用できずに、作品を送っても、誰も出版しようという人はいなくなるだろう。
 在庫は減るかも知れないが、現在庫を抱えるだけの費用スラ、もう出すことができなくなる。
 一番恐ろしい、本を出したいと思っている人の減少は、いきなりの資金不足をあらわにしてしまう。
 そうなると、もうすべてが悪い方にしか働かず、結局、自己破産するか、倒産するかしかなくなるのだ。
 倒産して清算に入ると、弁護士が入ってきて、本を出した人に対して、さらに不利になってしまう。
 本を出したいとして出資迄して、まだ本もできていない人は、お金も戻ってこない。本もできないという悲惨なことになる。
 出版した人であっても、出版社が抱えている在庫を、何と、二割掛けで、
「買い取るなら、買い取ってほしい」
 と言い出す始末。
 実際に裁判は泥沼かしてきた。
 被害者の会を作ったりして、完全に法廷での泥仕合にしかならないのだ。
 そんな状況が、世紀末から数年続いた。評判はまずまずだっただけに、数年でパッと咲いてパッと散ってしまったのは、あまりにも考え方が甘かったというのと、素人作家の心理をうまく掴めば、儲かるという、行き当たりばったりの考えだったのではないだろうか。
 そもそも、本を出したい、小説を書きたいという人が爆発的に増えたのは、バブルが弾けてからのことであった。
 それまでの時代は、会社では不眠不休の仕事で、業績の拡大を会社は狙っていたし、社員としても、やればやるほど会社から給料も出た。
 今では、過労死問題であったり、ブラック企業の問題などもあるのだろうが、バブルの時代はあまり関係なかった。
 しかし、バブルが弾けると、一気に業務縮小が加速し、会社は経費節減、仕事も提示までで、リストラなどという言葉もその時に流行ったのだが、不当解雇などの問題も頻発していた。
 それにより、それまでの会社人間が、いまさら定時に帰ったとして、どうすればいいというのか、お金もそんなにあるわけでもない。それまでに貯蓄していた人は、いろいろ趣味を持つこともできるだろうが、お金のかからない趣味に走る人も増えてきた。
 そういう意味で、小説執筆などはお金のかからない趣味としてはよかったのだろう。
 何しろ、パソコン一台、パソコンのない時代は、原稿用紙と筆記具だけあれば、いくらでも書けたのだ。ゴルフや酒、ギャンブルなどに比べれば、これほど優良な趣味もないだろう。
 そういう意味で、小説を書く人が爆発的に増えた。
 実際には、サラリーマンだけではなく、家庭の主婦や、学生もお金がかからないという意味で誰でも書くようになると、自費出版系の出版社が流行るのも当然といえば当然である。
 しかし、ここまで早く没落すると、誰が考えただろう。時代を駆け抜けたというには、あまりにもお粗末な結果に終わったが、
「世の中、そんなに甘くない」
 というのを、完全に見せてくれた例でもあっただろう。
 それにしても一つ気になるのは、出版社にいた社員である。小説を読んで批評迄して返送していたのだから、文章力は結構なものだったのだろう。元々、有名出版社にいて、リストラされた人だったり。新卒の文学部を卒業した学生だったりではなかったか、彼らはある意味素質があっただろうに、その後がどうなったのか、少し気になるところでもあった。
 出版社があてにならなくなると、その頃からネットの方では、ブログなどが流行り出した。まだツイッターやインスタグラムのようなものはなかったが、初期のSNSとしては確立されていたと言ってもいい。
 そんな中でその頃から注目されていたのが、いわゆる、
「小説の無料投稿サイト」
 と言われるものだった。
 そこでは、会員登録しておけば、好きな時に自作の小説をアップすることができる。それはもちろん無料であり、そのサイトが運営しているいくつかのサービスが受けられるというもので、無料であることから、さすがに有料サイトほどのサービスはないが、無料でできるだけのサービスを試みてくれているようだ。
 素人の書いた小説であっても読みたいと思えば、無料で拝読することもできる。読者の方は会員登録がいらないというのも魅力かも知れない。
 ただ、会員登録しておけば、そのサイト内でSNSのような利用方法として、作者の作品のレビューや感想を書いたり、会員同士でメールのようなやり取りができたりもする。
 もちろん、たくさんサイトがある中でいろいろまちまちなところがあり、それぞれのサイトで特徴もバラバラだ。例えば、
「異世界ファンタジーなどに作品が多い」
 であったり、
「ライトノベルが多い」
 などと言ったサイトに則し、ジャンルやそれの伴った年齢層が、決まってくるようだった。
 運営会社も単独でこのサイトを主に運営しているような小さなところもあれば、マンガの投稿サイトを他で運営していて、今度は小説版として開設という大手SNS関係の企業もあったりする。
 どこに登録して利用するかはその人の自由であるが、無料であるということから、自分の作品を販売するということはできない。あくまでも書いた作品をネット上にアップし、公開という形で、人に見てもらうという趣旨である。
「作家になりたい」
作品名:三すくみによる結界 作家名:森本晃次