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クラゲの骨

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「何と理不尽な」
 とばかりに苛立っていた。
「下手に同情すると相手がつけあがる」
 ということが身に染みて分かったのか、もうそれ以降は容赦しなかった。
「すみません、我々にも年貢の一部をお分けいただけませんか?」
 と言ってくるとことがあったが、
「ふん、もう俺たちはそんな言葉には騙されない。恨むのなら、あの時に裏切った連中を恨むんだな」
 と言って。相手にもしてもらえなかった。
 そんなこんなで、この村は、同じ藩の中でも特別扱いの村となった。
 実際に年貢に関しては、遅延も、不足なども一切なく、藩が定めた量を、キチンと決まった日までに年貢を納めるのだ。これほど藩としては優良な村もないだろう。
 逆に、他の村は、散々だっら。
「お前たちは何をしているんだ。同じ状況でこんなに近くの村であるにも関わらず、あそこは優秀なのに、お前たちときたら、どういうことなんだ? まさか、取れたコメを自分たちだけで食べようという魂胆なのではあるまいか?」
 と言われたが、
「滅相もございません。我々だって、これ以上ないというくらいに、努力をしています」
 と言ったとしても、事実を言われると、どうしようもない。
「あの村が存在しているだけで、俺たちがどうしてこんなに責められなければいけないんだ。そもそも年貢が高いからいけないんじゃないか? とは言っても一揆などを起こしても、成功するわけもなく。わしらはこのまま飢え死にするか、一揆を起こして、全滅するかのどちらかでしかない」
 という意見が多かった。
 いくつかの村で一揆の計画が相談されていた。
 もちろん、年貢を真面目に払っている村が誘われることもなく、さらには、バレてしまって、チクられても困るということで、他言無用の状態だった。
 だが、どこから漏れたのか?
 たぶんには、内部告発だったのだろうが、一揆は失敗に終わった。
 村人の多くは見せしめに磔になり、村は全滅した。その村を引き継いだのは、年貢に遅延のない村だったのだ。
 領地が二倍になっても、年後はきちんと払っていた。
「なぜだ、あれだけ作物が摂れない土地だったのに」
 と、他の村の連中はうそぶいていた。
 年貢を納めても、まだあまりがあるほどのコメだったのだから、彼らはまわりの村に分け与えた。
「ああ、何とも慈悲武器ことで」
 と、まわりの村は感動した。
 それでも、
「どうして、やつらが耕すと、作物ができるんだ?」
 とばかりに、怪しむ人はいたが、さすがに嫉妬から逆らうようなことはしなかった。
 だが、確かに彼らが耕すと不思議と作物ができる。何か特別な肥料でもあるのだろうか?
 そんな時、南蛮往来の薬があるということを伝え聞いた人がいて。
「お前たちも村にはその秘伝の薬がるのだろう?」
 と聞いたが、
「いいs、そんなものは存在しません」
 と言って、相手にしなかったが、聞いた連中も、これまでの搾取に耐えられないという思いがあったのと、
「一つの村が摂りつぶされた」
 という事実を目の当たりにしたことで、身動きができなくなっていた。
 精神的には大きなジレンマになっていくが、どうしていいのか分からなかった。
 そんな時は、
「下手に動いては、自分たちが摂りつぶされる」
 という思いが強く、とりあえず、様子を見るしかなかった。
「あの村に密偵でも送り込むか?」
 と画策した人がいた。
 一人の婦人が、盗賊に襲われているという設定で、何とか村に潜り込ませるというもので、今の時代なら、ベタに思えることであった。
 それでも、この村の住民は、疑うことを知らないのか、女がけがをしているのを見ると、村に呼んで手当をしてあげることにした。
 女もしばらくは動けないということで、助けてくれた村人の家に厄介になることにした。
 話を聞くと、
「村を追われるように出てきたので、どこにも行くところがない」
 ということ。
 助けた村人は、それを聞いて、
「それじゃあ、お前がいたいのであれば、いつまでもいるがよい」
 と声をかけてくれた。
 いかにも朴念仁という風に見えるが、それだけに、優しさが感じられるのであった。
 女は、
「それでは、お言葉に甘えて、まずはけがが治るまで」
 というと、
「気にしなくてもいいから、心配することはない」
 と言って声をかけたのだった。
 どうやらこの男は、色仕掛けでは引っかからないタイプであるが、相手が助けを求めてくれば、疑うことを知らないように感じられた。
 それだけ人が好い人なのだ。
 女の方とすれば、色仕掛けに引っかかってくれる男であれば、罪悪感はないのだが、親切心を持ち出してこられると、戸惑ってしまうのだった。
 この女は、元々忍者の子孫で、先祖から、
「くのいち」
 としての、秘儀などを伝授されていたが、それはあくまでも、
「女を武器に」
 というところであったので、戸惑いも当然であった。
 彼女は、次第に迷いが深まってくる。
「私は一体、何をやっているのだろう?」
 依頼主である村の長は、権力をかさに着て、自分を凌辱し、
「このまま生きていたいなら、私の命令に従うのだ」
 という脅迫で、女を従わせていた。
 彼女は、
「それが定めであり、自分の運命なんだ」
 と感じたが、それは、相手が、
「くのいち戦法」
 に引っかかる男であればこそなのだが、そちらにはまったく反応せず、一向にこちらが怪しいと疑っている素振りもない。
 くのいちとしての訓練も受けていることから、相手がウソをついているかどうかということもある程度まで分かるようになっていたが、この男性がウソをついているようにはどうしても思えなかった。
「どうして、そんな」
 と、自分のやっていること、そして、それを命令した村の長と、目の前の男を比べれば、どちらが本当にいい人なのかは、誰にだって一目瞭然であろう。
 その時に、女は初めて、生きるためではなく、自分の気持ちに正直になりたいと思ったのだと感じたのだ。
 女は聞いた。
「どうして私を助けてくださったんですか?」
 と聞くと、
「目の前に困っている人がいたからだよ。運命のようなものを感じたと言えばいいかな?」
 と言って、その男が微笑んだ。
 その顔を見た時、
「どうしたのかしら? 私は」
 と、瞬きもできないほど、驚いた顔になっていることに気づいていた。
 これまで無表情の訓練はずっとしてきたが、ここまで感情をあらわにしてしまう自分がいるのが怖かった。
 しかも、相手は一番気持ちを読まれてはいけない相手ではないか。それを思うと、
「依頼人を裏切るわけにはいかないが、自分を助けてくれた目の前の男性を殺めることは私にはできない」
 と感じた。
 それが、彼女にとってのジレンマだったのだ。
 そのうちに、彼女はそのまま居つくことになった。元々、そのような指令を受けてここにやってきたのだった。
 男を骨抜きにして、その土地の秘密を探り当てれば、最後はその男を葬って、土地を自分のものにするというのが、作戦だった。
 男が死んだからと言って、どうしてその土地が自分のところに転がり込んでくるのかいうことは、最初から計算ずくだった。
「俺って悪知恵は結構働くからな」
作品名:クラゲの骨 作家名:森本晃次