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クラゲの骨

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 F県というのは、この地域の中では、一番大きな県で、隣のS県は、田舎と称される県であり、目立つものというと遺跡くらいしかないところだった。
 しかも、あるコミックソングを歌う芸人が、地元ということでディスるような歌を発表し一世を風靡したことがあった。そういう意味でも、
「K県って何があるんだい?」
 と言われて、
「さぁ」
 と言っていた人も、その歌の歌詞を思い出して、何があるのかをいうと、
「ああ、そうそう。あの歌にもあったよな」
 と、歌での印象しかないということを暴露している。
 要するに、自分は地理には弱いということを公表しているようなもので、それを笑い話に変えるのだから、いい性格だといってもいいだろう。
 それだけ田舎であり、都会的なものは皆無と言ってもよかった。もしあったとしても、県庁所在地の駅前近くに少しある程度で、少し離れれば、田園風景が広がっているといっても過言ではなかった。
 この県には空港もあり、比較的、都心部に近いところに位置しているわりには、利用客はほとんどいない。
 鳴り物入りで建設され、
「駐車場無料」
 などと、他の空港にはない宣伝文句だったわりには、一年目から閑古鳥が鳴いていたのだ。
 それはそうだろう。
 隣のF県には有名な国際空港があり。そこは、全国でも珍しいほどの、都心中心部から近かった。
 玄関駅から、地下鉄で二駅で行けるほどの距離に空港があるなど、全国でも珍しかった。
 そのおかげで、都心部では、高層ビルが建てられないという弊害もあったが、今ではその条例もなくなっていて、都心部には、これでもかとばかりに、高層ビルが立ち並んでいた。
 そもそも、その空港は、旧陸軍が作った空港で、一時期、占領軍に接収させていたが、変換後は、国際空港として、巨大な滑走路を備えた、大空港になったのだ。
 アジアへの玄関口ともいえるその空港は、すでに過度な状況になっていて、そのうちに、他にも空港が必要になるかも? ということで建設されたのが、S県の空港だったのだ。
 しかし、F県の空港まで、鉄道の在来線でも、一時間もかからず、そこから空港まで、二十分くらい、その程度であれば、F県の国際空港を利用するだろう。
 なぜなら、本数は圧倒的にF県の空港からが多く、S県の空港とは段違いである。
 F県の空港からであれば、一日に数便の定期便があるにも関わらず、S空港からは、二日に一本とかいう程度では、お話にならないのだ。
 二時間もかからないのであれば、今まで通り、F県の国際空港を使う方が便利でいいと思うのは当然のことであり、特に若い連中は、F県の空港に向かうのだ。
 確かに、駐車場無料というのは魅力だが、行きたいその日のその時間に飛行機がないというのは致命的で、
「地方官吏空港の限界」
 と言ってもいいかも知れない。
 この空港は全国でも、
「無駄遣い空港」
 として有名であり、
「作ってはいけない空港の上位に位置している空港の一つ」
 と言われている。
 それこそ、県民の血税が使われているということで、かなり問題にもなったことがあった。
 かといって、作ってしまったものを潰すわけにもいかず、便数を増やしたとしても、本当に乗客が増えるかどうかということも不透明だ。
 何と言っても、F県の国際空港には、県内からだけではなく、いろいろな県から集まっているので、
「S空港の方が近い」
 という人が一体どれだけいるというのだろうか?
  S県には、それ以外に、晩秋の時期には、ある世界大会が催されたり、優良な温泉が県内には分散していたりと、来てみれば結構いいところもあるのだが、どうしても、あのコミックソングのイメージからか、
「ド田舎」
 というイメージがついてしまい、観光PRも結構大変だったりする。
 しかも、その観光大使に、コミックソングを歌った人間を当てたりなど、県の上層部自体が、どこか自虐的な考えを持っているところが、ユニークと言っていいのだろうか?
 やはり有名なところでは、全国的にも有名な、弥生時代の集落の遺跡であったり、晩秋の世界大会などがその代表例なのだろうが、江戸時代には、鎖国していた日本で、数少ない海外貿易が行われていたN県を隣に控え、そこから江戸や、京、上方に向かって続く、N街道を、通称、
「シュガーロード」
 と呼んで、佐藤が運ばれていたということである。
「スイーツ街道」
 と言ってもいいかも知れない。
 さらに、この県では、幕末にはすでに、反射炉などが設置されていて、意外と文明の最先端を行っていた地域でもあったのだ。
 今でこそ、大きな県に挟まれて、まるで、
「陸の孤島」
 とまで言われそうなところであるが、この土地を愛してやまない文化人がいたりするという事実もある。
 有名な温泉地で逗留し、独自な視点から、作品を描いているミステリー作家もいたりする。
 そんなS県にも、隣のF県にあった、
「女性ばかりのおかしな村」
 に匹敵する、さらにおかしな村が存在するという。
 今度は、まったくF県とは逆で、
「男性ばかりのおかしな村」
 と言われているのだった。
 元々は、女性と男性の比率がトントンだったことで、うまく、そして平和な村であった。
 かつては、一度も一揆を起こしたことのない村であり、どんなに他が不作が続いていたとしても、この村には不思議と穀物ができないということはなかった。
「なぜなんだろう?」
 と誰もが頭を抱えていたが、近隣の村からは、羨ましからっるというよりも、やっかみの方が大きかった。
 それはそうである、同じように田を耕し、汗を掻いているというのに、かたや豊作、かたや、基金で年貢を納めるどころではないからだ。
 かつての江戸時代、それを見かねたその村で、少し余りそうなコメを自分たちで食べないで、まわりに分け与えていた。
 嫉妬している自分たちにまで、情けを掛けてくれるというのは、何とお慈悲の強い人たちであろうかと感じていた。
 そんなお慈悲に素直に喜ぶ村人ばかりではない。
 この時とばかりに、できたコメを強奪しようと考えた輩もいたりした。もちろん、そんな計画が成功するわけもなく、当然、年貢を納める時には、強奪されないように用心棒を雇っていたので、襲撃は却って、惨殺されることになった。
 さすがにここに至っては、襲撃された方は、奉行所に訴え出て、襲撃犯の生き残りを突き出し、
「吟味のほどをお願いします」
 と言って、お願いした。
 すぐに黒幕は捕まり、そのまま主犯は切腹、そして、共犯は遠島を申し付けられたが、そこまでされれば、襲撃側も黙ってはいない。
「やつらは、一揆を企てている」
 という話を奉行所に訴え出て、自作自演の謀反計画を作成し、それを奉行所に見つかりやすいようにしたことで、奉行所は、その村の長を捕まえた。
 当然、身に覚えのないことだから、長とすれば、拷問に耐えるしかなかった。
 しかし、手加減がなく、拷問で日ごろの憂さを晴らしている役人にとっては、
「ストレス解消にはもってこい」
 ということだったのだろう。
 長は結局、そのまま捉えられたまま、過剰な取り調べが原因で獄中氏してしまったのだ。
 それを聞いた村人は、
作品名:クラゲの骨 作家名:森本晃次