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クラゲの骨

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 という思いが、次第に、
「何で、俺ばっかりがこんな思いをしなければいけないんだ」
 と思うと、自分がただの、
「種馬」
 だったことに気づく。
 まさか、あれだけ婿になったこと、子供ができたことに対して、労をねぎらってくれておたような人たちが、一気に裏をかえして、態度を一変させたのだから、気づかないわけもない。
 気づいてはいたが、
「それだけはないだろう」
 という思いとの葛藤が、さらに神経を衰弱させていく。
「俺の居場所は、もうここにはないのか?」
 と思うと、あと考えることは、
「これまでの人生が悪夢だっただけで、これからはいいことがある。だが、そのためには、この村から縁を切るしかない」
 と思った。
 子供は可愛いと思ったが、もう自分だけのことで、精一杯になっていた。
「子供は、嫁の血も混じっているので、男の子と言っても、俺に対したような粗末なことをされることはないだろう」
 と思い、何とか自分だけでも、逃れなければならなかった。
 離婚届を突き付けても、
「そうですか。今までご苦労様でした」
 と嫁に言われた時は、分かってはいたが、一気に身体の力が抜けてきた気がした。
 自分のことを嫌いになったわけではない。好きでも何でもなかったのだ。
「じゃあ、どうして結婚なんか?」
 と考えると、やはり、考えていたように、目的は子供だったんだとしか思えないではないか。
 そして、この
「ご苦労さん」
 という言葉の意味、それこそ、
「あなたは、子供を作ることが仕事だったのよ。もうこれでお役御免だわ」
 という意味だったのだ。
 それにしても、何とも分かりやすい。
 この村では、生まれた子供は、一人で十分、男の子であれば、舌打ちされるレベルであり、
「男の子だったから、用済みなのか?」
 とも思ったが、女の子がほしいのなら、次の子を考えればいいはずなのに、あくまでも一人で終わりなのだ。
 それを思うとさらに分からなくなる。
「この村は、元々閉鎖的なまるで明治時代の村のように思っていたが、下手をすれば、地図にも載っていないような、幻の村だったりするのではないか?」
 などと考えたりもした。
 そして、誰も婿を引き留めるようなこともなく、
「ご苦労様でした」
 という言葉で片付けられる。
 しかし、いきなり放り出されるわけではなく、これまでの労をねぎらうというべきか、まるで、
「功労金」
 と言わんばかりのお金は支給された。
 それはひょっとすると、裁判をして、万が一勝てたとして請求できる慰謝料よりも多いかも知れない。
 それはそれでいいのだが、どうにも釈然としない。
 あれだけ、
「こんな変な村、こっちからお願い下げだ」
 とばかりに、自分に冷たくなった家族を恨んでいたにも関わらず、いざ出ていくともなると、一抹の寂しさがあった。
 だが、一歩村を出ると、スーッと胸のつかえが降りて、
「最初から、あんな村、存在しなかったんだ」
 と思い、数年間、どこかで無駄に過ごしただけなんだと感じたのだ。
 その分の無駄な時間と感じた部分は、お金という形で穴埋めをしてくれた。それを思うと、
「失われた数年間」
 というものがあるだけで、ここからが自分の再出発だと思うようになった。
 ただ、今までいた世界に戻ってきて、それまでと大きく違ったのは、意外とモテるということであった。
 あのおかしな村での経験が、何らかの形で生きているのか、それとも、ブサイクだと思っている自分だが、結婚して、子供までできたという経験が、人相に表れてきて、モテ始めたのではないだろうか。
 もっといえば、結婚前が一番ひどさのピークであり、あとは登っていくだけのことなのかも知れない。
 そう思えば、嬉しいという感覚はなかったが、
「少し不安が解けた気がするな」
 と感じた。
 就職も、以前ほど苦労することもなく、見つけることができた。
 しかも、少々の蓄えはあるということを考えれば、もう一度結婚ということもできるだろう。
「世の中、それほど捨てたものでもないな」
 と思った、村から出た元夫たちは、そうやって、社会復帰がうまくいくのであった。
 村から旦那を、曲がりなりにも追い出したあの家では、子供がすくすくと育つのを心待ちにしていた。
 子供が成長し、次第にまわりが女の子ばかりだということで、どこか、その男の子も、女性っぽいところがあった。
 しかし、それは、普通の街にでれば、
「あっち系のバーなどに勤めれば、少々人気が出るかもね」
 と言われるほどであるが、この村では、貴重な男子として、男らしさも見極めたうえで、女の子たちの争奪戦になるのだった。
 この村では女の子は大切にされる。
 というか、ほとんどが女性なので、皆大切にされているということだ。
 だから、この村で育った女の子たちは、
「都会に出たい」
 と言い出す子は、ほとんどいなかった。
 この村の掟のようなもので、
「一旦村を捨てて都会に出た者は、二度とこの村に帰ってくることはできない」
 というのだった。
 まあ、冠婚葬祭であったり、法事であったりなどの時と、盆、正月、彼岸などの年に何度かあるその時だけ、滞在を許されるが、それ以外で戻ってくることは許されない。
 特に結婚したなどというと、村人はまるで嫌な顔をする。ましてや、出戻りになど、できようはずもない。
 都会で結婚に失敗しても、戻ってくるところはないということなのだ。
 そういう意味では、種馬にされた男もかわいそうであるが、この村で育った子供もかわいそうである。
 男子は、村の女の子と契りを結ぶことは、悪いことではなかった。
 本来なら、別の土地からやってきた、どこの馬の骨とも分からない男性の血が混じるというよりも、村の青年の方がよほどマシだったのだ。
 マシという言葉の通り、
「下から見て、最低限のラインより上であれば、よしとするか」
 と言われている通り、この村の青年であれば、子供ができたのであれば、甘んじて受け止めるということであった。
 不思議なことに、この村で育った青年との間に子供ができた時は、そのほとんどが女の子だった。
 数十回に一回くらいの確立で男の子が生まれるというが、まさにその通り、
「男の子が生まれれば、村では大切にしなければいけない」
 と思っていた。
 その子は、数少ない男の子として、もし、まわりの市町村と渡り合わなければいけなくなった時の、一種の、
「外交官」
 のような役割で、完全に女性だけの村だと思わせないようにするために、隠れ蓑であった。
 よそから連れてきた婿との間に男の子が生まれると、その子は生まれながらに、村での立場は弱いものであった。
「よそ者の血が流れているんだ」
 ということになるのだが、生まれた子供が女の子であれば、それは問題がない。
 女の子は、父親が誰であれば、育ちはすべて平等なのだ。それでも、階級的なものがあるとすれば、彼女の同世代の女性たちとの間で、何か暗黙の了解のようなものがあり、勝手に決まっていくもののようだった。

             おかしな村 パート2

 相沢ちひろの育った村があるF県の隣のS県には、またしても、おかしな村があるという。
作品名:クラゲの骨 作家名:森本晃次