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クラゲの骨

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 その時に、産声を上げた人間が、この小説にかかわってくるのだが、まずは、その発端から話をすることにしよう。
 相沢ちひろが、産声を挙げたのは、今から二十年前のことであった。
 ということは、必然的に相沢ちひろは、今二十歳ということであった。
 ただ、彼女の生まれたところは、普通の街ではなく、完全に、他の土地から見放されたといってもいいような土地で、
「どうして、そんな土地が存在していたんだ?」
 と追われるようなところであった。
 さすがに、今は、隣の数個の街と一緒になって、一つの市になったのだが、平成の市町村合併の時には、本来であれば、賛成するだろうと思われた村人が、なぜか反対していたのだ。
「このままでは、この村は、世間から忘れられた街になってしまう」
 と、村長は言ったが、村人の半分以上が反対をしたことで、当時は実現しなかった。
 そこは、特殊な村で、村民のほとんどは女性であった。生まれてくる子供も女性ばかりで、当然、男がいないので、出生率も極端に少なかった。
 この村がいつ頃からそんな女性ばかりのところになったのか分からないが、昭和の終わりの頃には、ほとんど、男性はいなかったと言われている。
 ただ、男ではなくても、この村の女性は皆腕力には長けていて、農作業には事欠かなかった。
 農家で作った作物を、都会に売りに行くのも、それぞれ。女性は免許を持っていて、十八歳になると、皆免許を取りにいかされたもだった。
 昼間は農作業、夜は自動車学校という日々を母親も過ごしていたのだろうと思うと、ちひろは、感無量に感じていた。
「私も、そんな運命なのかな?」
 と思ったのだ。
 ただ、自動車学校というと、それまでほとんど表の世界を知らないちひろにとって、新鮮であるが、少し怖い気もした。
「免許を取らないと、車を運転してはいけないということであり、しかも、その期間に、結構かかる」
 というのは、値段としてもそうなのだが、それ以上に、免許を必要とするほど危険なものだと思うのが怖いのだった。
 自分にできるかどうかということよりも、まず、自分が想像もできないようなところを運転しなければいけないということになるのかと思うと、ちょっと怖かった。
 ちひろは、ずっとこの村に住んでいて、どこかほかの土地に行ったことはほとんどなかった。
 村には小学校と、中学。高校の一環学校の二つしかなかった・
 中学までは義務教育なのでしかたがないが、高校と言うものはあるが、中学を卒業して行きたい人がいれば、開校するという程度のもので、ほとんど、高校進学という人はいなかった。
 子供の頃から、農作業の手伝いは当たり前のことであり。他の子どもが、学校から帰ってきてから、友達と遊ぶなどというような感覚があるわけもなかった。
 だから、農作業を嫌だと思うこともなく、当たり前のことだと思っていた。他の地区の子供の話を聞けば、
「何と、不真面目なんだ?」
 と思うことだろう。
 遊びとはそもそも、どんなものなのかということを知るわけではなく、どちらかというと。
「遊びというのは、よくないことだ」
 という教育を受けてきた。
 その教育も、文部科学省のカリキュラムに沿っているものだとは言えないが、この地域の特殊性から、きっと、教育委員会も、余計なことは言わないだろう。
 それだけこの村は、他の土地から隔絶されていて、村を通る、国道や県道は存在しない。
 ギリギリ高速道路が、かすめるくらいなので、影響はない。
 元々、電車は通っていたが、国鉄からJRに変わった時、廃線となった。
 しかし、
「それでは困る」
 ということで村長が、村人に資金を出させて、第三セクターとして、借り受けることにした。
 さすがに買うことまではできないので、線路と車両、駅の使用料を格安で、借りれるようになった。
 廃線の問題は、JRに変わった時、ただでさえ、混乱していた時期なので、話の持っていきようも、難しくはなかった。
 ただ同然とまではいかないが、レンタルという形で、鉄道を借り受けることができたのだ。
 そのおかげで、都会との生命線は確保できたが、都会に行くとしても、目的はあくまでも買い出し、目的が終われば、帰ってくるだけだった。
 この村には、なぜか昔から男性が住み着くことはなかった。家系もほとんどが、女性家族ということで、生まれるのは、女ばかり。村に男がほとんどいないので、婿取り計画を行い、他の土地から何とか、男性を引っ張ってくる。
 そのほとんどは、当然のことながら、女の子にモテない、そんな他の土地では、箸にも棒にもかからないという男性を引っ張ってきては、村全体で大切にし、できるかぎりもてなしていた。
 婿に入ったところだけでなく、縁もゆかりもない他人の家でも、
「よくこの村に来てくださった。感謝します」
 と、今までにない極楽のようなもてなしを受ければ、今までの街では、相手にもされなかっただけに、有頂天になるのは当たり前だ。
 そして彼らは思う。
「このまま子供ができれば。その手柄にて、大いに村で主導権を握ることができる」
 と思ったのだ。
 時に男の子が生まれれば、自分は村を救った人間として、神のごとく崇められるのではないか?
 とまで考えたほどだ。
 実際に、嫁が妊娠して子供ができると、少しの間、と言っても、子供がこの世に生まれ落ちるまでは、ちやほやされるが、子供が一歳になってからというもの。今度は露骨に邪魔者扱いをするようになっていた。
 次第に村八分にされる。しかも、つい最近まではあれだけちやほやされていたのにである。
 普通の男性であれば、
「もういられない」
 ということで、離婚届を突き出して、離婚を迫れば、さすがに家族の誰かは、
「ちょっと、待って。それだけは」
 あるいは。
「生まれてきた子供のためにも、思いとどまって」
 と言ってくれるだろうし、そうなると、不本意であるが、
「そこまで言うなら」
 とばかりに、主導権が戻ってくることに内心「しめしめ」と、ほくそ笑みながら、家族の暴言を許すことだろう。
 しかし、実際にはそんなことはなく、
「そう、じゃあ、離婚するから、あなたは、一刻も早くこの村から出ていってね」
 と言わんばかりであった。
 けんもほろろもいいところである。
 しかも、生まれた子供がもし、男の子だったら……。本来なら、
「婿殿。でかした」
 と言われてしかるべきだろうが、何とも言えないような、露骨な顔をされてしまう。
「苦虫を?み潰したかのような表情」
 というのが、一番ふさわしい表現だろう。
「罵声を浴びせたいが、そういうわけにはいかない」
 と言わんばかりのその顔に、婿は失望してしまう。
「何だ、この村は。男の子と言う跡取りができたのに、この露骨に嫌がっている様子は……」
 と考えた。
 それでも、子供は可愛いのか、男の子であっても、ちゃんと育てようとする意識はあるようだ。
 それなのに、婿である自部に対しての態度はどういうことだ? 完全に家族の中で浮いてしまっていて、邪魔者扱いではないか。
 子供が一歳になる頃までには精神的にボロボロになっていく。
「俺は家族のために、頑張っているのに」
作品名:クラゲの骨 作家名:森本晃次